1820年にタンパク質加水分解物からグリシンが発見されてから現在まで、生物から 200種以上のアミノ酸が発見されているが、その中でタンパク質を構成するアミノ酸は基本的には20種類である。なお、タンパク質中に、この20種以外のアミノ酸が含まれることがあるが、これは20種のアミノ酸のどれかが、タンパク質合成後に修飾を受けて変化したものである。
1935年にRoseらによってスレオニンが発見されて以来、天然のタンパク質を用いないで、アミノ酸混合のみでヒトの栄養を維持することが可能になり、アミノ酸栄養の基礎ができた。
(1)アミノ酸の定義
アミノ酸は、“化学的には 1分子中にカルボキシル基-COOH とアミノ基-NH2の両方をもつ有機化合物の総称”であるが、アミノ基の代わりに修飾されたアミノ基やイミノ基-NH-をもつもの、カルボキシル基の代わりにスルホ基-SO3H をもつものも広義のアミノ酸に含めることもある。
このように、アミノ酸は分子内にアミノ基(塩基)とカルボキシル基(酸)を併せもつ両性電解質であり、水溶液中で中性の pHでは、アミノ基とカルボキシル基はH+ をそれぞれ解離・結合して、-NH3+、-C00-という電荷を有する形をとる。これらの電荷が存在するため、アミノ酸の結晶は融点が一般に 200℃以上と高く、溶ける前に分解する。また、水に溶かすと誘電率を増加させる。
(2)アミノ酸の構造
アミノ酸の基本構造式は〔図 1〕であるが、カルボキシル基の結合している炭素原子(α−炭素)にアミノ基の結合しているものをα−アミノ酸、その隣の炭素原子にアミノ基が結合しているものをβ−アミノ酸、以下、離れるにつれてγ−、δ−、ε−アミノ酸という。
タンパク質を構成する20種類のアミノ酸は、総てα−アミノ酸で、α−炭素原子には、カルボキシル基、アミノ基、水素原子及び各アミノ酸に固有な側鎖(R)が結合している。この式のR−基の構造の違いにより、各種アミノ酸ができる。
このα−炭素原子は不斉炭素であるため、D型とL型の立体異性体が存在する(但し、グリシンの側鎖は水素原子であるため異性体はない)。
タンパク質を構成するアミノ酸は立体特異性があり総てL型である。これはアミノ酸を合成すると、D型のL型混合物(ラセミ体)が産生されるのと異なり、生体内反応の特徴とされている。D型アミノ酸は、細菌の細胞壁や一部の抗生物質などに含まれる。
(3)アミノ酸の種類
生体組織、体液、分泌液中に遊離の状態や誘導体の形で存在しているアミノ酸の種類は多いが、タンパク質を構成しているアミノ酸は20種である。その中、体内で必要な量が合成できないか、または必要量だけ十分に合成できない 9種は、食事などから摂取しなければならないので、必須アミノ酸(E)と呼ばれる。これに対して、その他の11種は体内で合成されるため、必ずしも食事から摂取する必要はないので、非必須アミノ酸(N)と呼ばれる。
〔表 1〕タンパク質を構成するアミノ酸一覧と名称の由来 (*:分枝型)
| 1:非極性側鎖をもつもの | a.必須アミノ酸 | バリン Val* | 化学的にはアミノ吉草酸。吉草酸valeric acid |
| ロイシン Leu* | 形状が白く光る結晶。 白いleuco | ||
| イソロイシン Ile* | ロイシンの異性体 isomer | ||
| メチオニン Met | 分子中のメチオニル基CH3・S | ||
| フェニルアラニン Phe | フェニル基のついたアラニン | ||
| b.非必須アミノ酸 | グリシン Gly | 甘味glyc から・・・・最も簡単なアミノ酸 | |
| アラニン Ala | アルデヒドを原料として合成。aldehyde+an+ine | ||
| プロリン Pro | ピロリジン環にカルボキシル基のついた構造 |
| 2、中性極性側鎖をもつもの | a.必須アミノ酸 | スレオニン Thr | 四炭糖のスレオ−スに構造が類似 |
| トリプトファン Trp | トリプシンをタンパクに作用させて作られた | ||
| b.非必須アミノ酸 | セリン Ser | 絹タンパクのセリシンから分離 | |
| システイン Cys | 膀胱結石cystic calculus からシスチンが分離 | ||
| シスチン: 2分子のシステインが酸化(脱水素)されたもの | |||
| アスパラギン Asn | アスパラガスの汁から発見 | ||
| グルタミン Gln | 小麦タンパクのグルテンglutenから分離 | ||
| チロシンTyr |
| 3、荷電極性側鎖をもつもの | a.必須アミノ酸 | ヒスチジン His、 リジン Lys |
| b.非必須アミノ酸 | アスパラギン酸 Asp、 グルタミン酸 Glu、 アルギニン Arg |
*分枝型アミノ酸(BCA):分岐鎖アミノ酸
必須アミノ酸のうち、バリン、ロイシン、イソロイシンは分枝(分岐鎖)型アミノ酸に分類される。タンパク内含量が他の必須アミノ酸に比べて多い。大部分のアミノ酸が肝で代謝されるが、分枝型アミノ酸は肝で殆ど代謝されず、肝外組織ことに筋肉で代謝される。
この必須、非必須の区別は栄養上のもので、食事として摂取したり、輸液のアミノ酸組成では考慮されるが、体内に入れば、そのアミノ酸が必須であるか非必須であるかの価値の差はない。必須アミノ酸の栄養効果は、非必須アミノ酸を加えることによって向上する。
(4)アミノ酸の作用
体内においてアミノ酸は次の作用を示す。
アミノ酸は体構成タンパク質合成の材料となるだけでなく、酵素やペプチドホルモンの材料となり、これらが代謝の調節に関与している。
生体の栄養要求の第一は、エネルギ−であるので、食物の摂取が少ないと、アミノ酸はエネルギ−源として利用され、タンパク質合成が不十分となる。
〔表 2〕 アミノ酸から合成される生理活性物質及び重要な生体成分
| アミノ酸 | 生理活性物質・生体成分 |
| グリシン | プリン塩基、ポルフィリン、グルタチオン、クレアチン、グリココ−ル酸 |
| アスパラギン酸 | プリン塩基、ピリミジン塩基 |
| グルタミン | プリン塩基、ピリミジン塩基 |
| セリン | コリン、ホスファチジルセリン、スフィンゴシン |
| メチオニン | S−アデノシルメチオニン(活性メチル基) |
| クレアチニン、ポリアミン(プトレッシン、スペルミジン、スペルミン) | |
| グルタミン酸 | γ−アミノ酪酸、グルタチオン |
| チロシン | 甲状腺ホルモン(トリヨ−ドチロニン、チロキシン) |
| カテコ−ルアミン(ド−パミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)、メラニン | |
| トリプトファン | ナイアシン(NAD+、NADP+の成分)、セロトニン、メラトニン |
| ヒスチジン | ヒスタミン |
| システイン | グルタチオン、タウリン(タウロコ−ル酸の成分) |
| アルギニン | ポリアミン(プトレッシン、スペルミジン、スペルミン)クレアチン |
| リジン | カルニチン |
(5)体内における遊離アミノ酸
体内に遊離の形で存在するアミノ酸は、タンパク質結合アミノ酸の 0.5%に過ぎず、その組成も異なる。タンパク質中では必須アミノ酸と非必須アミノ酸の比率はほぼ等しいが、遊離アミノ酸では、アラニン、グルタミン酸、グルタミン及びグリシンの 4つの非必須アミノ酸だけで、組織中の全遊離アミノ酸の約80%を占める。血漿遊離アミノ酸は体内総遊離アミノ酸の 2〜3 %に過ぎず、これは 1日に食事から摂取するアミノ酸量と比べると少ない。従って、血漿遊離アミノ酸は活発に組織と交流していることが窺える。血中アミノ酸はアミノ酸代謝における臓器相関の仲介をしており、なかでもアラニンとグルタミンは窒素運搬体として重要である。
(6)神経伝達物質としてのアミノ酸
脳神経系に存在する遊離アミノ酸のなかには、神経細胞の興奮や抑制を伝達したり、あるいは神経伝達を調節したりする神経活性アミノ酸がある。
この脳内アミノ酸は次の二つに由来して存在する。
GABAは血液−脳関門を通過しないので、主としてグルタミン酸から脳内で、L−グルタミン酸脱炭酸酵素の触媒作用によって生合成されるが、グルタミン酸が興奮性伝達物質であるのに、これより産生されたGABAが抑制性伝達物質である。また、システイン酸、システインスルフィンは興奮性調節物質であるのに、これより産生されたタウリンは抑制性である。
脳内のアミノ酸は均一に分布するのではなく、一定の部位に局在する。グルタミン酸は脳全般、興奮性神経、アスパラギン酸は脳全般、GABAは黒質、内側前脳束、小脳、大脳皮質、グリシンは脊髄、脳幹、タウリンは大脳、小脳、線条体、視床下部に多く存在する。
アミノ酸スコアは生物価とかなりよく一致し、タンパク利用率とも相関する。アミノ酸スコアの算定方法は、アミノ酸組成表(第 2表)*の食品タンパク質中の各必須アミノ酸含量(mg/gN) をそれぞれ1973年と1985年のアミノ酸評点パタ−ンの該当アミノ酸含量(mg/gN) で除して%で表示し、そのうち最低値をもってアミノ酸スコアとした。最低値が 100を上回る場合のアミノ酸スコアは通例 100としている。最低値が 100未満のアミノ酸が複数存在するときは、その値の小さい順に第 1制限アミノ酸、第 2制限アミノ酸・・・という。これはタンパク質の利用率は必要量に対して、最も少ない割合で存在する必須アミノ酸の量によって制限を受けることから区分されている。
*「改訂日本食品アミノ酸組成表」:科学技術庁資源調査会・資源調査所編集
〔表 3〕アミノ酸評点パタ−ン(窒素当りの必須アミノ酸:mg/gN)
| −アミノ酸組成表(第 2表)に対応− | |||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| パタ-ン年代 | Ile | Leu | Lys | SAA | AAA | Thr | Trp | Val | His |
| 1973年 | 250 | 440 | 340 | 220 | 380 | 250 | 60 | 310 | |
| 1985年 | 180 | 410 | 360 | 160 | 390 | 210 | 70 | 220 | 120 |
SAA:Met+Cys
AAA:Phe+Tyr
1973年:一般用−FAO/WHO委員会
1985年:学齢期前2〜5歳−FAO/WHO/UNU(国連大学)合同委員会
アミノ酸スコア算定のためのアミノ酸評点パタ−ンは、必須アミノ酸必要量をタンパク質必要量で除して求めたものである。
タンパク質当りの必須アミノ酸(mg/gタンパク質)のタンパク質量は、
窒素量×6.25である。
〔表 4〕アミノ酸スコア例
上段:1973年(一般用・・・FAO/WHO)パタ-ン
下段:1985年(学齢期前2〜5歳・・・FAO/WHO/UNU)パタ-ン
| 食品名 | Ile | Leu | Lys | SAA | AAA | Thr | Trp | Val | His | アミノ酸スコア | 備考 |
| 精白米 | 100 | 114 | 65 | 132 | 153 | 84 | 145 | 123 | Lys 65 | Thr 84 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 139 | 122 | 61 | 181 | 149 | 100 | 124 | 173 | 133 | Lys 61 | ||
| 大豆(全粒) | 116 | 107 | 115 | 86 | 142 | 92 | 132 | 97 | SAA 86 | Thr 92 | |
| 161 | 115 | 108 | 119 | 138 | 110 | 113 | 136 | 142 | 100 | ||
| 木綿豆腐 | 124 | 116 | 115 | 82 | 147 | 92 | 145 | 103 | SAA 82 | Thr 92 | |
| 172 | 124 | 108 | 113 | 144 | 110 | 124 | 145 | 142 | 100 | ||
| いわし(生) | 116 | 114 | 172 | 114 | 126 | 112 | 127 | 110 | 100 | ||
| 161 | 122 | 164 | 156 | 123 | 133 | 109 | 155 | 275 | 100 | ||
| うなぎ(生) | 116 | 107 | 165 | 114 | 118 | 104 | 113 | 100 | 100 | ||
| 161 | 115 | 156 | 156 | 115 | 124 | 97 | 141 | 217 | Trp 97 | ||
| かき(生) | 84 | 80 | 112 | 95 | 103 | 96 | 92 | 77 | Val 77 | Leu 80 | |
| 117 | 85 | 106 | 131 | 100 | 114 | 79 | 109 | 108 | Trp 79 | Leu 85 | |
| 和牛肉(脂身無) | 120 | 123 | 174 | 118 | 124 | 120 | 118 | 100 | 100 | ||
| 167 | 132 | 164 | 163 | 121 | 143 | 101 | 141 | 217 | 100 | ||
| 鶏もも肉(若鶏) | 124 | 118 | 168 | 118 | 126 | 116 | 122 | 103 | 100 | ||
| 172 | 127 | 158 | 163 | 123 | 138 | 104 | 145 | 192 | 100 | ||
| 豚ロ-ス肉(脂身無) | 124 | 116 | 168 | 114 | 124 | 116 | 127 | 106 | 100 | ||
| 172 | 124 | 158 | 156 | 121 | 138 | 109 | 150 | 267 | 100 | ||
| 鶏卵(生) | 136 | 125 | 132 | 168 | 153 | 116 | 157 | 135 | 100 | ||
| 189 | 134 | 125 | 231 | 149 | 138 | 134 | 191 | 133 | 100 | ||
| 牛乳 | 136 | 141 | 153 | 105 | 142 | 104 | 138 | 132 | 100 | ||
| 189 | 151 | 144 | 144 | 138 | 124 | 119 | 186 | 150 | 100 |
SAA:Met+Cys
AAA:Phe+Tyr
備考欄:第 2制限アミノ酸
上の表は、改訂日本食品アミノ酸組成表より抜粋したアミノ酸組成表(第 2表)の食品可食部全窒素 1g当りのアミノ酸組成値を用い、アミノ酸の評点パタ−ンをもとに第 1制限アミノ酸とアミノ酸スコア例である。
シスチン、チロシンは非必須アミノ酸であるが、体内ではそれぞれ必須アミノ酸のメチオニン、フェニルアラニンから作られるので、食品中のシスチン、チロシンはある程度、メチオニン、フェニルアラニンの必要量を減らす代替効果がある。そのため、アミノ酸スコアによる栄養価判定の際には、シスチンはメチオニンに加えてその合計を含硫アミノ酸SAA、 チロシンはフェニルアラニンに加えてその合計を芳香族アミノ酸AAA として計算する。
タンパク質は生命現象に必須の栄養素であり、体タンパク質をはじめ、酵素、核酸、免疫体、活性物質の担体などの構成成分となる。
蛋白は漢字(中国語)に由来するが、わが国ではこの文字を当用漢字より除外し、一時はタン(たん)白の文字を用いていたが、現在ではタンパクまたはたんぱくとする習慣になっている。
中国では現在でも蛋白の文字を用いている。英語で Protein、独語で Eiweissと言う。Protein はギリシャ語の Proteios に由来すると言われ、生命にとって最も大切なものの意味である。独語の Eiweiss=Ei+Weiss は 卵+白 を意味し、漢字の蛋白の蛋は蛹(かいこの幼虫)を意味する。
(1)タンパク質の合成と表記
タンパク質はアミノ酸が数十個から数千個結合してできる。体を構成する総てのタンパク質は、アミノ酸組成はもとより、アミノ酸の配列順序も遺伝的に決まっている。体内でタンパク質が合成されるとき、そのタンパク質を合成するアミノ酸の 1種類でも不足していると、他のアミノ酸が余分にあっても代用できず、タンパク質合成は進行しなくなる。また、その最も少ないアミノ酸に対応した量しかタンパク合成は行われない。
このようにタンパク質が合成されるためには、必要なアミノ酸とそれらの十分な量が総て揃っていなければならない。
食品タンパク質は、ヒトのアミノ酸必要量パタ−ンに近く、バランスのよいアミノ酸組成が良質のタンパク質といえるのであって、どれか 1つの必須アミノ酸でも必要量より少なければ、それが制限因子となり、最も少ないアミノ酸量に対応したタンパク質しか合成できない。
この説明には右図のようないわゆるアミノ酸の桶がよく引用される。
食品中の各必須アミノ酸の含有量に応じた高さの板で桶を作った場合、この中に入ることのできる水の量は、一番低い板の所までしか入れられない。その他の板がいくら高くても価値がない。
タンパク質中のアミノ酸の単位 -NH・CHRn・CO- をアミノ酸残基、繋ぎ目の部分の-CONH-をペプチド結合と呼ぶ。また、タンパク質内でのアミノ酸残基の順序をアミノ酸配列、順序を問わない各アミノ酸量をアミノ酸組成という。アミノ酸配列はアミノ末端(N末端*)側からカルボキシル基末端(C末端*)への向きで表記する。
*:N末端残基 N-terminal アミノ末端
一般にペプチドやタンパク質などの両端のアミノ酸はそれぞれ、ペプチド結合にあずからない遊離のα−アミノ基及びカルボキシル基をもつ。
タンパク質やポリペプチドは、種々のアミノ酸がアミノ基とカルボキシル基の脱水縮合で連なった構造であるが、この一本のポリペプチド鎖のうち、α−アミノ基が遊離している側のアミノ酸をN末端と言い、通常、左端に書く。
*:C末端 C-terminal
タンパク質の一次構造(アミノ酸配列)の末端のうち、遊離カルボキシル基-COOH をもつ末端、習慣的に右端に書く。
(2)タンパク質の体内動態
体内のタンパク質はやがて分解され、終末産物はCO2 や水として呼気その他から排泄され、窒素は含窒素化合物(主に尿素)となって尿中へ排泄される。
タンパク質の体内動態は次の経過を示す。
このようにタンパク質は合成される一方で分解され、常に新しく作り換えられている。このように体タンパク質が合成と分解を繰り返している状態を「動的状態」といい、合成と分解が釣り合っている状態を「動的平衡」にあるという。
この分解と合成の速度は、体タンパク質の種類によって異なる。新旧タンパク質の交代する速度を「代謝回転率 turnover rate」という。肝臓などの臓器や腸管のタンパク質、血漿のタンパク質は代謝回転の速いものが多く、筋肉や皮膚では遅いタンパク質のものが多い。
アミノ酸プ−ルは概念的なもので、消化吸収されたアミノ酸と体タンパク質の分解により生じたアミノ酸からなり、体タンパク質の合成やその他の素材となりうるアミノ酸全体を示す。
(3)食品タンパク質の栄養価
ヒトのアミノ酸必要量パタ−ンに近いアミノ酸組成をもっている卵、乳、肉などが良質のタンパク質と言える(経腸栄養剤のエレンタ−ル・のアミノ酸組成は、全卵タンパクのアミノ酸パタ−ンをmodifyにしている)。
体内で合成できる非必須アミノ酸は、必要に応じて適宜合成されるが、体内で合成することができない必須アミノ酸は、食品タンパク質に依存する。従って、食品タンパク質の栄養価は、これらのタンパク質が消化管内で消化されてアミノ酸となって吸収され、どれくらい効率よく身体の必要とするアミノ酸を供給するかによって決定される。
一般に必須アミノ酸に富むタンパク質(動物性食品に多い)は、動物の成長・発育や窒素バランスの維持に効果的なことから、このような食品は良質または生物価の高い食品と呼ばれる。
摂取されたタンパク質のほとんどは消化吸収されるが、これを消化率(%)といい、摂取した窒素と大便中に排泄される窒素から測定できる。
吸収されたアミノ酸の効率は生物価(BV:biological value)と呼ばれ、これは摂取したタンパク質のアミノ酸組成が、どのくらい身体の必要としているアミノ酸構成に適合しているかによって決定される。生物価は実験的には、吸収された窒素と尿中に排泄された利用割合(%)により推定する。
著しく繊維質の多い野菜や海藻などを除けば、多くの食品タンパク質の消化率は約85〜95%でそれほどの差はないので、タンパク質の栄養価は生物価に相関する。「消化率×生物価」をタンパク利用率(NPU:net protein utilization)という。
ヒトが摂取する殆ど総ての窒素化合物はタンパク質であり、また、排泄する殆ど総ての窒素化合物も、タンパク質に由来する代謝産物である。
タンパク質の栄養価の指標として、窒素出納が用いられる。これは摂取窒素量と排泄窒素量の差で表わされ、次式で求める。
窒素出納=摂取窒素量−(尿中窒素量+糞中窒素量)
窒素の摂取量と排泄量がほぼ等しいとき(窒素出納=0 )、窒素平衡にあるといい、一般に成長した動物はこの状態にある。窒素の摂取量が、排泄量より多いとき(窒素出納>0 )を正の出納といい、体タンパク質の蓄積を表し、成長期、妊娠期、病後の回復期などに見られる。逆に窒素の摂取量が排泄量より少ないとき(窒素出納<0 )を負の出納といい、体タンパク質の分解を意味し、絶食、外傷、発熱、手術、摂取タンパク質不足時に見られる。
〔参考〕 含有する必須アミノ酸の種類や量によって、化学的に優劣(化学価)を判定することもある。最も優秀な化学価を 100とすれば、全卵と人乳は 100、牛乳は95、大豆は74、落花生は65、米(精白)は67、小麦は53である。
(4)タンパク質の必要量
欧米諸国ではそれぞれの国民に望ましい食事許容量(recommended dietary allo-wance:RDA) が発表されてきたが、三大国際栄養会議(FAO/WHO/UNU)1985は各年齢層におけるタンパク質摂取安全レベルが報告されている。この安全レベル表によれば、男女とも成人の場合、 1日当り 0.47g/kg とされている。60kgの人では 1日にタンパク質を45gとればよいことになる。
なお、タンパク質等の年次別の調査は〔表 5〕である。
〔表 5〕栄養素等摂取量の年次推移 (厚生省保健医療局健康増進栄養課)
| 昭和50年 | 昭和60年 | 平成 2年 | 平成 5年 | 平成 6年 | 平成 7年 | |||
| (1975) | (1985) | (1990) | (1993) | (1994) | (1995) | |||
| エネルギ− | Kcal | 2,226 | 2,088 | 2,026 | 2,034 | 2,023 | 2,042 | |
| タンパク質 | g | 81.0 | 79.0 | 78.7 | 79.5 | 79.7 | 81.5 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| うち動物性 | g | 38.9 | 40.1 | 41.4 | 42.2 | 42.5 | 44.4 | |
| 脂質 | g | 55.2 | 56.9 | 56.9 | 58.1 | 58.0 | 59.9 | |
| うち動物性 | g | 26.2 | 37.6 | 27.5 | 28.3 | 28.5 | 29.8 | |
| 炭水化物 | g | 335 | 298 | 287 | 285 | 282 | 280 | |
| カルシウム | mg | 552 | 553 | 531 | 537 | 545 | 585 | |
| 鉄 | mg | 10.8 | 10.8 | 11.1 | 11.2 | 11.3 | 11.8 | |
| 食塩(Na換算) | g | 13.5 | 12.1 | 12.5 | 12.8 | 12.8 | 13.2 | |
| ビタミンA | IU | 1,899 | 2,188 | 2,567 | 2,603 | 2,602 | 2,840 | |
| ビタミンB1 | mg | 1.39 | 1.34 | 1.23 | 1.22 | 1.21 | 1.22 | |
| ビタミンB2 | mg | 1.23 | 1.26 | 1.33 | 1.34 | 1.35 | 1.47 | |
| ビタミンC | mg | 138 | 130 | 120 | 117 | 117 | 135 |
しかし、厚生省の栄養審議会の答申により、 5年ごとに一般国民に望ましい栄養所要量が発表されている。この栄養所要量によると成人 1人 1日当たりのタンパク質は、男性約70g、女性約60gと定められている。
1989年10月に米国ニュ−メキシコ州当局がL−トリプトファン製剤摂取による好酸球増多と激しい筋肉痛を伴うEosinophilia-Myalgia Syndrome(EMS) を報じて以来、米国各地で報告され、欧州でも同様の報告がLancet(1990.2)に掲載された。
また、健康食品としてのアミノ酸製剤も市販されているので、その適切な使用のために、健康食品衛生対策検討会(座長:福場博保)よりの報告に基づき、厚生省生活衛生局食品保健課新開発食品保健対策室長から、各自治体の衛生主管部(局)長宛に次のような依頼(衛新第21号2.3.31)が出された。なお、この検討会より、特定のアミノ酸を高濃度に含有させた健康食品を摂取することにより生ずる健康影響について、更に研究を進める必要があるとの報告がなされている。
◇アミノ酸を含有する健康食品の取扱いについて: 近年、国民の健康に対する関心が高まるとともに、特定のアミノ酸を高濃度に含有する健康食品の流通がみられることから、これら健康食品の取扱いについて健康食品衛生対策検討会において検討をお願いしたところ別添のとおり報告があったのでご了知のうえ、下記の点につき消費者、関係営業者等に対する周知指導方お願いする。
1、タンパク質の摂取はアミノ酸のバランスが良いものであることが必要であり、アミノ酸のバランスの悪いタンパク質を継続的に摂取すると健康に悪影響を及ぼすおそれがある。
2、特定のアミノ酸を高濃度に含有させた健康食品を継続的に摂取するとアミノ酸バランスを損なうおそれがあるので、このような健康食品を継続的に摂取することがないように注意する。
3、健康食品のタンパク質は、アミノ酸スコア(アミノ酸評点パタ−ン*)が85以上のものであるとともに、2、で述べたようなことが生じないよう特定のアミノ酸を高濃度に含有させたものでないことが望ましい。
*:アミノ酸評点パタ−ン(学齢期前2〜5歳、1985年FAO/WHO/UNU合同委員会作成)→〔表 3〕UNU:国連大学
〔参考文献〕