クラミジア感染は非淋菌性尿道炎の主な原因の一つであるが、米国では性行為感染症(sexuallytransmitted disease、venereal:STD)の一つとして、統計観察など詳しく行われているが、わが国ではSTDとしての認識がまだ十分ではない。
新興・再興感染症の脅威や医学・医療の進歩などの感染症を取り巻く状況の変化に対応するために、“感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律”が平成11年 4月 1日から施行された(→感染症新法)。
感染症新法の対象とする感染症は、感染力や罹患した場合の症状の重篤性に基づいて、総合的な観点からみた危険性が高い順に1〜4 類に分類されている。
性器クラミジア感染症は、インフルエンザ、ウイルス性肝炎、MRSAなどとともに 4類感染症に分類され、国が感染症発生動向調査を行い、その結果などに基づいて、必要な情報を一般国民や医療関係者に提供・公開していくことによって、発生・拡大を防止すべき感染症と位置づけている。
なお、性器クラミジア感染症などSTD定点(指定届出機関)は約900で、性器 クラミジア感染症は、そこより月単位で保健所に届け出される。
感染症新法 4類に規定されている性行為感染症は、後天性免疫不全症候群、性器クラミジア感染症、梅毒、性器ヘルペス感染症、尖圭コンジロ−ム、淋菌感染症の6疾患である。
クラミジア属(Genus Chlamydia) は、腸内細菌類似の細胞壁もあり、菌体内にはDNA、RNA、蛋白、脂質を有し、二分裂するので、現在では分類学上細菌に属している。
(1)クラミジア属の分類
クラミジア属は クラミジア目(Order Chlamydiales)のクラミジア科(Family Chlamydiaceae) に入り、現在は〔表1〕のように 4種からなる。
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しかし、最近、遺伝子塩基配列に基づく系統樹によって、さらに大きく改変されることが提唱されている。これによるとクラミジアはChlamydiaとChlamydophila の 2属に分けられ、ChlamydiaはC.trachomatis、C.suis、C.muridarum の3種、Chlamydophila は C.pneumoniae、C.psittaci、C.pecorumの 3種とされる。
C.trachomatis 、C.pneumoniaeは、ヒトを自然宿主として、ヒトからヒトに感染するが、C.trachomatisは接触感染により、C.pneumoniaeは、空気感染air-borne infection により伝播する。 C.psittaciは元来トリの病原菌であり、鳥類、哺乳類に多彩な感染症を起こし、ヒトにも主として呼吸器疾患を起こす人畜共通感染症である。
4種のクラミジア感染症のうち、C.pecorumはウシ、ヒツジなどに下痢、関節炎 など多くの疾患を起こすが、ヒトへの感染症例の報告はない。なお、pecorumとは 反芻動物の意である。
クラミジア属は次の特徴がある。
クラミジア感染症の罹患歴を反映する抗クラミジア抗体価は国民の約10%に証明されており、 1,000万人以上の人がクラミジア感染歴を持っていると推定されている。健常な妊婦の約 5%はクラミジアの保菌者(米国も同じ約5%)と言われている。このように増加しているのは、バイオテクノロジ−の進歩により、検査法が確立され、比較的簡単にクラミジアの検出ができるようになったことも一因である。
米国では淋菌による感染症は 1年間に 200万人程度であるのに、クラミジア感染症の新規発生患者数は毎年 400万人にもなると言われ注目されている。
わが国におけるSTD流行の現状をとらえる一つの資料として、1987年から開始された厚生省の感染症サ−ベイランス事業年報があり、淋菌感染症と尿路性器クラミジア感染症の定点あたりの報告数が、年齢別、年次別にまとめられている。全国約 600の定点医療機関から毎年 1万例以上が報告されており、対象5疾患(性器ク ラミジア感染症、トリコモナス症、淋菌感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジロ−マ)の中では最も多い。
STDサ−ベイランスの報告症例数で、1992年にはクラミジア感染症は淋菌感染症を抜いて第1位になって以来、それ以後首位を保っている。
性器クラミジア感染症の男女別の発症頻度の推移では、男性ではこの10年間、発症頻度が横ばいであるのに対し、女性の頻度が上昇している。特に若年女性層の増加が指摘されている。野口らは10代女性の罹患率が24.5%と報告し、松田らはクラミジア抗原陽性率が未婚女性では既婚女性の約3倍であったと報告している。
特に1999年秋に低用量ピルが発売されたことに対し、クラミジアの増加を危惧する発表も多い。
クラミジア感染症の特徴は症状が軽いために気づき難いことである。成人では性病の一つとして接触感染する。新生児と成人とでの感染経路はやや異なる。新生児は分娩時、すでに感染している母親の産道で、眼に接触感染し、濾胞性結膜炎をきたす。 クラミジア感染症の基本的疾患は男性では尿道炎、女性では子宮頚管炎である。
→問題(4)にもどる
(1)男性のクラミジア感染
感染経路の詳細にはまだ不明の点もあるが、性行為及びその類似の行為(オ−ラルセックスなど)で、潜伏期間は淋菌性尿道炎に比べて長く1〜3 週間である。感染期間は治療の有無により異なるが無症候の感染も存在する。
成人男性では、尿道から前立腺、副睾丸、鼠径リンパ節へ移行し、尿道炎(尿道分泌物、尿道掻痒感、排尿痛)や精巣上体炎(陰嚢内容の腫脹、疼痛、発熱)を起こす。この非淋菌性尿道炎(但し、淋病との混合感染がしばしばみられることがある)は、淋菌性尿道炎に比べて、排尿痛も軽く、くすぐったい感じがする程度で、分泌物(漿液性〜粘液性)も少なく気づかない場合もある。尿に似た透明な分泌物は、下着に付着して乾くと黄色のシミになるため、初めて異常に気付くこともある。放置すると尿道炎から前立腺炎、副睾丸炎などを起こし、まれには無精子症(不妊症)となることもある。
なお、男性の非淋菌性尿道炎の約50%はクラミジアによるもので、淋菌性尿道炎における合併頻度は20〜30%である。
男性のクラミジア性尿道炎の約 5%程度に精巣上体炎を併発するが、35歳以下の精巣上体炎の多くはクラミジアが原因とされる。クラミジア性精巣上体炎は、細菌性精巣上体炎に比べて、腫脹は軽度で精巣上体に限局され、発熱の程度も軽いことが多い。診断はクラミジア性尿道炎に準じ、初尿検体によって行う。
(2)女性のクラミジア感染
米国では年間11,000人以上の女性不妊症がクラミジアのために発症し、3,600人 にのぼる子宮外妊娠が報告されている。
一般にクラミジアが発症するまでの潜伏期間は、淋菌性尿道炎の7〜10日より少 し長く、 1〜4 週間(平均約3週間)位である。
女性の場合は子宮頚管炎が最も多く、また、子宮頚管炎の1/4にクラミジアを検出している。クラミジアによる感染をしても、女性の場合は、子宮頚管には痛覚がないので、痛みも感じなく自覚症状は50%以上が全く無いか、あるいはほとんどなく、下帯感増加、下腹痛、性交痛、内診痛などの症状を示すこともあるが、全く症状のないことも少なくない。
→問題(5)にもどる
このため発病に気づかず、放置するとクラミジアが子宮から腹腔の方に移行し、子宮頚管炎から子宮内膜炎、さらに卵管炎を起こし、卵管炎は卵管狭窄や閉塞をきたして不妊症、子宮外妊娠の誘因、原因になることもある。卵管炎の1/5は不妊症になるといわれる。
子宮頚管におけるクラミジア感染は、きわめて短時間のうちに上行性に子宮内腔、卵管を経て腹腔内に侵入する。このため、腹腔内に拡散したクラミジアがすでに子宮頚管には存在しなくなっていることもある。
女性の場合は感染している男性パ−トナ−との接触で1/2〜2/3が罹患し、子宮頚管炎を起こすようになる。しかし、そのように罹患しても約20%は子宮頚管がほぼ正常である。残りのものも膿汁分泌のある場合もあるが、多くは軽度の粘性分泌物(漿性分泌物)のみで、子宮頚管部に糜爛があっても、淋菌性子宮頚管炎のように自覚症状の軽いものが多く、全く無症状の場合もある。そのために治療を行わないで、無自覚のうちに男性と性交渉を行い玉突き的に感染が広まる。このように男・女性とも自覚症状がないか軽度のために、無自覚のうちに他人に感染させ、クラミジア感染症は静かに流行している。また、女性の尿路が外性器に接近しているため、一部では尿道から膀胱に感染が及び尿道炎、膀胱炎を起こすことがある。
腹腔内に侵入したクラミジアは、最終的に肝被膜にまで達し、肝周囲炎を起こす。性感染症に伴う肝周囲炎は Fitz-Hugh-Curtis syndrome(FHCS)とよばれ、以 前は淋菌感染症によるものとされていたが、最近ではクラミジア感染による病態と考えられるようになった。
(3)母性とクラミジア感染
妊婦のクラミジア感染による影響としては、流産、切迫流産、早産、切迫早産、満期低体重児娩出、産道感染を起こすことがあり、しばしば出産時の感染源になる。
欧米では出産直前の女性の数%、ときには20%も子宮頚管からクラミジアが検出されたとの報告がある。クラミジア感染例では、流産率、死産率が高いことが知られ、米国では感染例が非感染例の約10倍の流・死産率であったとされ、そればかりでなく、新生児への垂直感染がきわめて高率に起きている。母親がクラミジア陽性の新生児の60%は、クラミジアに対する抗体価が高くなっており、きわめて高い垂直感染を起こしている事がわかる。
松田によれば、 723例(34〜40週)の妊婦のうち5.1%(37/723例)がクラミジア抗原陽性で、垂直感染の頻度は、検索した32例中7例(21.9%)に新生児の封入体結膜炎(2例)と肺炎(5例)であったと報告している。
垂直感染を避けるために、帝王切開で出産する手段がとられたこともあるが、帝王切開で出産したものに感染の証明された例もあるので、胎内感染の問題も今後、検討されるであろう。
垂直感染すなわち産道感染(母子感染)によって、新生児が次のような疾患を起こすおそれがある。 →問題(7)にもどる
1.封入体結膜炎:Inclusion conjunctivitis
欧米ではクラミジアによる眼疾患の発生率が淋菌性のものよりはるかに高いと言われている。報告によって差があるが、結膜炎の発症は母親がクラミジア陽性例の25〜50%である。
わが国では、1983年に沼崎らが眼の分泌物よりクラミジアを分離したのが最初である。封入体結膜炎では眼の分泌物中に封入体保有細胞が認められる。母親に感染のある場合には、その半数近くの新生児に発症する。眼の感染は気道・肺の感染に先行する。
封入体結膜炎は出産時、感染するもので、目から目の接触感染はない。化膿性結膜炎の臨床像を呈するが、数週間後に自然に治癒することが多い。トラコ−マと異なり角膜に病変が及ぶことはなく、また瘢痕を残すことはない。主として下眼瞼結膜上皮細胞内に封入体を形成するが、これはトラコ−マに似ている。
クラミジアによる封入体結膜炎は、淋菌性の結膜炎と違い出産児の抗生物質点眼剤投与はほとんど無効(エリスロマイシン点眼*はやや効果があるという説もある)で、潜伏期間は5〜14日で、一般に生後 1週間位から発症することが多いが、産院を退院した頃に発症する場合もある。なお、早期破水の場合は潜伏期間は短く、出生当日に結膜炎が認められることもある。
*エリスロマイシン点眼液がやや効果ありとの報告があるので、出産時、新生児にエリスロマイシンを点眼して予防効果を期待することもある。
2.肺炎:
米国では全新生児の約 1%が、生後 3カ月以内にクラミジア肺炎にかかっていると推定されている。
1カ月以上たってから(生後 3カ月を中心)10〜20%に発症する。クラミジア肺炎の特徴は、熱及び喘鳴のない無熱性肺炎で、鼻汁や軽い咳または過呼吸で元気がなく、多くの例で結膜炎の合併がみられる。胸部X線写真で間質性肺炎様所見があり、かつ末梢血好酸球増加が認められる。
新生児・乳児のクラミジア肺炎は、産道で感染があり、目に感染して結膜炎を起こし、クラミジアを含んだ分泌物が涙管を伝わって気道に侵入する場合と、産道で直接的に気道に感染し、下気道へと感染が進展する場合とが考えられる。
3.その他:
母親がクラミジア陽性例の20〜40%が鼻腔咽頭炎、ときに中耳炎となり、クラミジアの保菌者になるとされている。
(4)尿道炎とクラミジア感染症
尿道炎は従来から淋菌性と非淋菌性に分類されていたが、最近では、その病因により性行為によるものと、性行為によらないものに分類するほうが実際的であるとされている。しかも淋菌性は淋菌の単独感染とは限らず、クラミジアなどの非淋菌性尿道炎(NGU:non-gonococcal urethritis)の原因菌との混合感染も多い。また、この混合感染菌に効果のない薬剤で治療後、淋菌は消失しても尿道炎症状の残る場合、後淋菌性尿道炎(PGU)として、非淋菌性尿道炎に移行する症例も少なくない。
非淋菌性尿道炎は淋菌以外の原因による尿道炎の総称であり、わが国では性病としての認識が十分に行きわたっていないが、欧米ではSTDの一つとして、統計観察など詳しく行われている。しかし、疾病の本態は十分に解明されたとは言えず、特に起炎菌決定が問題である。
クラミジアは非淋菌性尿道炎の原因菌として、その約30〜40%を占め、この他ウレアプラズマなども原因菌と考えられているが、常在菌との鑑別が困難である。ウレアプラズマは欧米では病原性(原因菌)に入れているが、わが国では女子の場合、健常人でも尿から約50%は検出されるので病原性については確定していない。また、最近原因不明の尿道炎が約30%もあり問題になっている。
最近、男子尿道炎の感染源として、oral、analsexなどによる女性咽頭や直腸感 染が重要視されているが、そのような部位からの雑菌の多い検体では、交差反応による偽陽性が臨床診断上問題となる。
従来、尿道炎の治療は、淋菌性と非淋菌性に分けて治療が行われていたが、後淋菌性尿道炎(PGU)を考えると、淋菌の単独感染であればよいが、淋菌とクラミジア、あるいは淋菌と非淋菌性原因菌の混合感染というケ−スが増加しているので、淋菌の単独感染、淋菌とクラミジア感染、クラミジア単独感染の三つに分けて治療が行われる。
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*:淋菌は消失したが、分泌物あるいは白血球などの炎症症状が残る
東京共済病院(泌尿器科)1991.
〔表 3〕淋菌性・クラミジア性尿道炎の臨床比較
| 淋菌性 | 非淋菌性(クラミジア性) | |
| 潜伏期間 | 1週間以内に70% | 1〜4 週間と長い |
| 発症 | 急激 | 急〜緩徐 |
| 症状 | 急性 強い炎症症状 |
亜急性 軽度の排尿障害、尿道不快感 掻痒感 |
| 尿道分泌物 色 量 性状 |
黄〜白色 | 白〜透明 |
| 多量〜中等量 | 少量〜中等量、時に認めず | |
| 膿性 | 水様性〜膿性(多様性) | |
| 菌の検出 | 比較的容易 (グラム染色・培養) |
容易〜煩雑(直接蛍光抗体法、 EIA法、分離培養法) |
| 治療 | ニュ−キノロン系抗菌剤(タリビットなど) ペニシリン、 第2.3世代セフェム系剤 トロビシン |
一部のニュ−キノロン系抗菌剤(タリビット、スパラなど) テトラサイクリン系製剤 マクロライド系製剤 →クラミジア適応剤 |
(5)クラミジアの検出法
クラミジアの検出法には培養細胞を用いた分離培養法と、酵素免疫法やDNA診断法などの非培養法がある。臨床診断法としては、簡便で大量検体処理ができるなどの利点がある非培養法が行われることが多い。 →問題(6)にもどる
1.抗原検出法
検体中のクラミジア菌体あるいは菌体構成成分を直接証明する方法で、その一つの分離培養法は最も確実な診断法であるが、設備、技術、時間を要し、一般検査室での実施は困難である。蛍光抗体法、酵素抗体法が一般的で有用とされる。
現在、普及している抗原検出法には、蛍光標識されたモノクロ−ナル抗体を用いて、C.trachomatis粒子を観察する直接蛍光抗体法(Micro Trak)や、酵素免疫法(IDEIAChlamydia,Chlamydiazyme) がある。酵素免疫法はC.psittaci、C.pneumoniae と交差反応し、また大菌量の他菌種とも交差反応することがある。クラミジア抗体の陽性・陰性は血液検査で判定でき、抗体陽性は過去に感染して現在は治癒している場合も含まれるので、30%以上の人が陽性である。
2.抗体価測定法
micro-IF法は特異性に優れているが、EB精製が必要で簡便さに欠ける。MFA法は抗原として封入体を使用するため、各クラミジア間に交差反応が認められ、C.trachomatisの血清型別はできないが、EB精製の必要がなく簡便である。補体結合反応はクラミジア属特異抗体を測定するものであり、種の診断はできない。感度が低く、再感染時にはほとんど上昇せず、C.pneumoniaeやC.trachomatis感染症の診断には不適である。しかし、補体結合反応陽性であれば、C.psittaciを含めて何らかのクラミジア感染を疑うことができる。
クラミジアの薬剤感受性は 3種ともほぼ同様であり、クラミジア感染症との診断がつけば、治療上特に種の区別ができなくても薬剤投与に支障はない。
C.trachomatis 感染症は、診断できればウイルス性の性感染症とは異なり、治療は比較的容易である。
従来、尿道炎の治療は、淋菌性と非淋菌性に分けて治療が行われていたが、後淋菌性尿道炎(PGU)を考えると、淋菌の単独感染であればよいが、淋菌とクラミジア、あるいは淋菌と非淋菌性原因菌の混合感染というケ−スが増加しているので、淋菌の単独感染、淋菌とクラミジア感染、クラミジア単独感染の三つに分けて治療が行われる。
(1)クラミジア治療の原則
クラミジア感染症では、有効な抗菌剤が選択されていれば、相乗効果を期待しての抗菌剤の併用は必要がない。
β−ラクタム系抗生物質(ペニシリン系、セフェム系)や、アミノ糖系抗生物質(スペクチノマイシンなど)はほとんど無効に近い。
→問題(9)にもどる
β−ラクタム剤は、細菌に対する作用点が細菌のペプチドドリカン構造の細胞壁であるから、C.trachomatis のようにヒトの円柱上皮細胞に封入体を作って棲息し増殖するものは、作用点がないので無効である。これは封入体の中には、ペプチドグリカン構造を持たない基本小体(elementalybody:EB)や中間体(intermedi- ate form:IF)が存在するのでβ−ラクタム系抗生物質は無効である。このため細胞壁に作用する薬剤でなく、細胞内の実質、例えばポリメラ−ゼなどを作用点とする薬剤が有効となる。
なお、妊婦感染例は、切迫流産、早産、垂直感染を予防するため、速やかな治療が望まれるが、テトラサイクリン系、ニュ−キノロン系抗菌剤は代謝障害剤のため胎児への影響から禁忌とされている。
→問題(10)にもどる
C.trachomatis尿道炎、子宮頚管炎に対する治療剤の投与期間は、C.trachomatisが偏性細胞内寄生性で増殖サイクルが長いので、有効血中濃度を少なくとも5日間 以上保つ必要があるとされている。従って、7日以上の投与が必要で、再発予防を考えると10〜14日間が望ましい。そして、治療後7〜14日後に再発の有無を検索する。そして、セックス・パ−トナ−の検査・治療を同時に行うことが原則で、こうしないとピンポン感染により再感染を繰り返す可能性がある。
適切な薬剤の投与により治療が完了しても、抗体価は陽性のままであることがあるので、抗体価が治癒判定の指標にならない場合がある。
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○印:クラミジア・トラコマティスによる感染症(子宮頚管炎)に有効
△印:クラミジア・ニュ−モニエによる感染症に有効
A.マクロライド系
14員環製剤 クラリスロマイシン(クラリシッド:大日本) →○△
15員環製剤 アジスロマイシン (ジスロマック:ファイザ-)
→△
16員環製剤 ロキタマイシン(リカマイシン:旭化成) →△
B.テトラサイクリン系
塩酸ドキシサイクリン(ビブラマイシン:ファイザ-) →○△
塩酸ミノサイクリン (ミノマイシン:ワイスレダリ-) →○△
C.ニュ−キノロン系
オフロキサシン(タリビット:第一) →○
レボフロキサシン(クラビット:第一) →○
トスフロキサシン(トスキサシン:大日本)
→○
スパルフロキサシン(スパラ:大日本) →○
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(2)蛋白合成阻害剤
クラミジア性尿道炎の治療には、蛋白合成阻害剤(特にテトラサイクリン系、クロラムフェニコ−ル、マクロライド系製剤)に対して感受性がある。
→問題(8)にもどる
1.テトラサイクリン系製剤
特にドキシサイクリン(ビブラマイシン)、ミノサイクリン(ミノマイシン)などのテトラサイクリン系製剤は、組織及び血中への移行は速く、持続もよい。従って、切れ味もよく、優れた効果を発揮し、MICもよいので、第一選択薬となる。しかし、副作用、特に胃腸障害、あるいは小児、妊婦には使い難いのが欠点である。また、肺、前立腺への移行は遅く、活性も低い。
なお、ドキシサイクリンには耐性菌が出現した疑いが、少ないけれど報告されている。
2.マクロライド系製剤
マクロライド系製剤は、本来分子量の大きい製剤で、経口投与では、この分子量の大きな状態からヒトの体内において、代謝されながら尿として排出される。この代謝過程で次第に下部尿路系に到達する頃には、すでに薬効を失ってしまうものもある。従って、MIC90という試験内の指標が必ずしも正確でないかもしれないが、しかし、良好な臨床的効果を発揮している。
マクロライド系製剤は、MIC90値はきわめて良好で、テトラサイクリン系製剤が投与できない妊婦、小児などにはマクロライド系製剤のエリスロマイシン(エリスロシン)、クラリスロマイシン(クラリシッド)などが選択される。
エリスロマイシンは血中への移行も速いが、活性の低下も速い。テトラサイクリン系製剤より肺及び前立腺への移行は速いが、活性の低下も速い。
エリスロマイシンは米国では、特に妊婦治療で汎用されているが、わが国では健保適用菌種としてクラミジアは入っていないので、それが使用上の問題点になっている。
クラリスロマイシンは、クラミジアによる子宮頚管炎にも健保適用があり、ミノサイクリンと同等の抗菌力を有している。
最近、マクロライド系のアジスロマイシン(ファイザ-)が開発された。本剤はC. trachomatis に対する抗菌力が良好で、食細胞内への移行に優れ、また血中半減期が極めて長いため、C.trachomatis感染症に対し、単回投与による効果が期待できる。既に、欧米で1g単回投与がドキシサイクリン 1日 200mg、7日間投与と同等の効果を示すと報告されているが、C.trachomatis感染症の適応はない。
| 製剤名 | MIC(μg/ml) | 投与法 | 臨床成績 |
| クラリスロマイシン クラリシッド、クラリス |
0.03 | 1日 400mg(分2) 14日間投与 |
子宮頚管炎に99.5%の有効率(熊本ら,1993) |
(3)ニュ−キノロン系製剤
ニュ−キノロン系製剤は、クラミジアに対して有効なものと、除菌効果を示さない無効なものにはっきり分かれている。また、実際には効果があっても保険適用のないものがあるので注意する。一般に比較的初期に開発されたものは効果がないが、その後に開発されたものは効果がある。また、妊婦には投与しない。
◇C.trachomatis に適応菌種のあるニュ−キノロン系製剤: タリビット、スパラ、クラビット、オゼックス:トスキサシン
| 製剤名 | MIC(μg/ml) | 投与法 | 臨床成績 |
| オフロキサシン タリビット |
0.25〜1.0 | 1日 600mg(分3) 14日間投与 |
子宮頚管炎に93.3%の有効率(熊本ら,1988) |
| スパルフロキサシン スパラ |
0.063 | 1日 200mg(分1〜2) 7〜14日間投与 |
子宮頚管炎に100%の有効率(熊本ら,1988) |
◇C.trachomatis に適応菌種のないニュ−キノロン系製剤: フルマ−ク、バクシダ−ル、シプロキサン、バレオン:ロメバクト、メガロシン
テトラサイクリン系製剤が淋菌にはあまり効果がなくなっているので、クラミジアと淋菌の混合感染の場合にはオフロキサシン(タリビット)が使われる。オフロキサシンが最初にクラミジア性性器感染症に対する健保適用を受けた。オフロキサシンは淋菌感染症にもきわめて有効であることも利点である。
オフロキサシンは組織移行もよく、比較的副作用が少ないので、繁用されているが、その抗菌力はミノサイクリンに比べやや劣る。新しく開発されたスパルフロキサシン(スパラ)、トスフロキサシン(オゼックス)は、ミノサイクリンにほぼ匹敵する抗菌力を示し、臨床的にも良好な成績を示す。
(4)投与の実際
使用期間はテトラサイクリン系製剤は、 2週間単位で投与されている。オフロキサシンも1回 200mgを 1日 3回投与し、 2週間使ってその効果を見て、その後の治療を考える。治療が1週間未満では無効例が認められている。
クラミジアの治療は米国CDC(Centers for Disease Control) によれば、合併症のない尿道炎、子宮頚管炎、直腸感染に対しては、テトラサイクリン500mgを 1日 4回 7日間、またはドキシサイクリン100mgを 1日 2回 7日間を第一選択とし、 エリスロマイシン500mgを 1日 4回 7日間を第二選択とする。但し、妊婦の尿路生殖感染の場合には、エリスロマイシンが第一選択となる。
新生児クラミジア結膜炎は、未処置の場合には経過は遷延する。エリスロマイシンが有効で、一般に9〜28日で治癒する。 臨床の場におけるクラミジア性尿道炎(ウレアプラズマを含む)に対する処方例は次のようで、淋菌感染治療後クラミジアの合併が判明した場合、あるいは後淋菌性尿道炎に移行した症例に対してもこのように投与する。
◇小児の場合
Rp.
◇成人の場合
Rp.
妊婦にはクラビット、ミノマイシンは使用できない。
〔文献〕
岸本 寿男:クラミジア感染症,治療Vol.82 増刊,342-346,2000.
野口 昌良:性器クラミジア感染症,化学療法の実際Vol.15 S-1,56-61,1999.
沖 明典:プライマリケアにおける性行為感染症,治療Vol.82 No.7,25- 30,2000.