便秘と治療剤について

 


 便秘や下痢などの便通異常は、self-limitedな疾患が多いものの、非常に多彩な原因で起こるので適切な対応が望まれる。

 最近では食生活の欧米化に伴う食物繊維の摂取の減少、車社会による運動の不足などにより便秘は増加している。


1.消化管と食物  

 「受け取って出すのが生き物である」とアリストテレスが言っているが、これを消化管が一定のリズムで行っている。このリズムの乱れの一つが便秘である。

(1)消化管と食物

 摂取された食物は、その内容、運動量、消化吸収能力、腸管機能、精神状態などによって変化はあるものの、一般に食物が消化管を通過する時間は、S状結腸までは摂食後12〜16時間、排便は24〜72時間で生じる。

胃 :炭水化物⇒2〜3時間  (タンパク質⇒4〜6時間、脂肪⇒7〜8時間)
小腸:2〜3時間( 6mとして 2〜3時間) ・・・・・・・十二指腸、空腸、回腸
大腸:17時間(1.7mとして 10p/時間) ・・・・・・・盲腸*、結腸、直腸
     *盲腸:草食の哺乳動物は長いが、ヒトでは数pと短い

 結腸は上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸に分かれるが、上行・下行結腸は後腹壁に固定され、可動性は少ないが、横行・S状結腸は腸間膜を有し、可動性は大きい。大腸の主な機能は、水と電解質の吸収と糞便の貯留である。小腸から流入した液状内容物は、主として右側結腸(上行、横行の前半)で水分が吸収されて固形状の糞便となり、左側結腸(横行の後半以降)に達し、主としてS状結腸に貯えられる。横行結腸中部以下には排便に関連して、 1日1〜2回大蠕動が起こるが、 それ以外は運動があまり見られない。自律神経の支配を受けており、交感神経は抑制的に、副交感神経は促進的に作用する。蠕動は大腸では小腸より持続時間が長く、また右側結腸では逆蠕動が見られる。逆蠕動とは腸管の輪状筋の収縮輪が、肛門側から口側に移動する運動で、小腸下部、回腸、盲腸、上行結腸、横行結腸などで見られることが多い。

 一般に糞便成分は75%が水分(約 100mL/日が排泄)、固形成分は摂取食物によって変動するが、細菌が約30%、セルロースや不消化物、剥離粘膜細胞、粘液、消化酵素などであり、脂肪の排泄量は約 2g/日である。

 絶食または完全成分栄養法の場合でも、糞便は少量排泄され、その内容は剥離した粘膜細胞、腸内細菌、分泌液などである。電解質も一定でないが、K+、HCO3- が多く、Na+、Cl-は大部分吸収されて糞便中への排泄は少ない。

 大腸の分泌液はHCO3-を多く含みアルカリ性で、リゾチームが含有されている。大腸分泌液はHCO3-により糞便中の発酵物質を中和し、粘液で粘膜を保護するとともに、糞便の移送を円滑にする。糞便の腸壁への機械的刺激は骨盤神経を介して粘液分泌を促す。

(2)排便の仕組み

 食事摂取により胃が刺激されると、その情報が中枢神経に伝わる。すると神経系の反射運動が起こり(胃・大腸反射あるいは胃・結腸反射)、大腸が蠕動運動(内容物を押し出そうとする作用)を始める。その蠕動運動に、腸内容の増加により大腸粘膜が伸展され局所の粘膜反射による蠕動も加わる。

 それによって腸内容物が直腸まで送り込まれる。通常、S字状結腸と直腸との間で結腸括約部が収縮して直腸内には糞便は存在しない。しかし、直腸内に糞便が送り込まれると、直腸壁が伸展され、その刺激は中枢神経(壁在神経、仙骨神経)を介して興奮が直腸から脊髄や大脳に伝わり、排便を促す反射が起こる。

 この排便反射が起こると、腹(壁)筋や横隔膜が緊張して腹部に圧力をかけることによって排便される。つまり、腹筋の反射的収縮(いきみ)、横隔膜の吸気性停止により腹圧を高め、 便が肛門の内・外括約筋に向かって押し下げられる。そして最後に、内肛門括約筋の不随意的弛緩と大脳からの刺激による外肛門括約筋の随意的弛緩が起こり、排便が完了する。これらの 一連の反射を排便反応と呼ぶ。

 ただ、便意を催しても排便に不適当な条件下では、排便を一時的に抑えることができるが、便意を抑制し過ぎると、直腸壁の圧受容体の感受性が低下し、通常の刺激では便意が起こらなくなる。逆に意識的に便意を催して排便することも可能である。

注:直腸内圧が30〜40oHg以上になると、直腸壁の骨盤神経が刺激を受け、その興奮が下位中枢の脊髄と上位中枢の延髄に伝達され便意が起こる。

2.パーキンソン病の薬物治療

 便通異常には下痢、便秘及びそれらが交互に出現する交代性便通異常がある。便秘の原因は一つではなく、複数の要因が重なって起こることが多い。

(1)便秘の定義

 1968年にHiltonは、便秘とは「排便回数が週 3回以下、排便困難がある、またはその両者を伴う場合」と提案しているが、一般に便秘とは種々の原因により排便機序に障害が起こり、糞便の結腸内通過あるいは直腸からの排出が遅れ、 3日以上、排便のない状態を言う。しかし、排便の回数は個人差もあるので、単に回数が少ないだけでは便秘ではなく、便量が減少( 1回の排便量の減少35g以下)し、便中の水分量は少なく、排便時に努力と苦痛を要し、不快感、腹部膨満感、腹痛などがあって、日常生活に支障が出るなどの症候群を便秘と定義している。

(2)女性の便秘

 便秘は学童期までは男女比がないが、思春期になると急に女性に便秘が増加する。女性の方が男性より 2倍以上も便秘が多く、その大半は機能性便秘であり、次の理由によると考えられている。

問題(1)にもどる

@ 黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌:
黄体期に分泌されるプロゲステロンは、大腸の中枢性、末梢性の蠕動運動を抑制し、その刺激感受性を低下させるので便秘傾向となる。   ⇒妊娠期の便秘
A 腹筋作用が弱い:女性は腹筋が弱く、便が直腸に送られ難い。
B 女性では、会社、学校、旅行中のトイレなどで排便できず我慢をすることが多い:
  ⇒いわゆる旅行者便秘:便を我慢する習慣による排便反射の機能の低下
便意があっても、トイレへ行くのを我慢していると、排便反射が起こり難くなる。
朝、時間がなくてトイレへ行くことができなかったり、仕事などで、便意を我慢する状態が続くと、便秘になりやすい。
C 食事時間の不規則、食事をしない、ダイエットなどによる便秘:
食事時間が不規則な場合は、消化器の自律神経のバランスがくずれ便秘が起こる。
食事によって排便を促す胃・大腸反射が起こる。朝はこの反射が強く生じる。このため、朝食を摂らないと朝の定期的な排便が難しくなる。
ダイエットなどで食事量が減ったり、偏った食事が続いたり、水分摂取の不足は便秘の原因となる。
D 更年期の自律神経の不安定状態:
更年期では自律神経の不安定状態から大腸に痙攣性収縮が起こり、痙攣性便秘になることもあるが、子宮脱、直腸脱などのような器質性疾患による便秘もある。
E ストレスの増加:
ストレスの蓄積により、自律神経が乱れて大腸の働きが障害される。ストレスは痙攣性便秘と深く関わる。

(3)高齢者の便秘

 高齢者では、腸の働きが低下し、食事量に伴う便量の減少、便秘をきたしやすい薬剤の常用により、約1/3に便秘が見られ、加齢とともにその率は増加する。

 加齢とともに下部消化管の結合組織中のムコ多糖類に量的及び質的変化が出現する。大腸の筋層では萎縮が30歳代より現れ、筋層内の繊維化も筋萎縮とともに生じ、50歳を過ぎると、大腸平滑筋細胞容積が、65歳からは平滑筋細胞数も減少する。

 直腸の内径は加齢に伴って太くなるが、直腸の最大耐容量は高齢で低下する。直腸の感覚の閾値は年齢によって低下しない。便秘しても正常な感覚がある。

 肛門管内の最大“いきみ”圧は、外括約筋と骨盤底筋群の随意的最大収縮の合計で、高齢者では最大“いきみ”圧は低下するが、特に女性ではこの低下が大きい。急性便秘の場合は、最近服用を開始した薬剤を調べることが必要である。

 薬剤性の便秘はその薬剤の作用による直接的な影響と、間接的な影響によって便秘になる場合がある。例えば、利尿剤によって水分が多量に排泄されるために、便中の水分量が減少して、便が硬くなり、そのために便秘症状を示す。

 高齢者の通常の便秘は弛緩性便秘で、オリゴ糖や食物繊維の多い食事を摂ることにより改善する。オリゴ糖は腸壁を刺激して腸管運動を促す酪酸や乳酸菌などの有機酸の産生を高める。また、加齢とともに乳糖不耐が生じるので、逆に牛乳を飲用する方法も考えられる。

食物繊維:dietary fiber
食物繊維は野菜や果物の細胞膜や支持組織からなり、多くはヒトの酵素によって消化されない非デンプン性多糖類である。
水溶性(ペクチン、グアール、サイリウム種皮)と非水溶性(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)に分類され、非水溶性の繊維は水溶性の繊維に比較して、消化管内容物の粘度にはあまり影響しないが、小腸では消化され難く、そのまま結腸に移行するためより強い下剤効果がある。また、抱水力が大きく、 1gのニンジンの繊維は23gの水が保持できる。食物繊維は腸内で発酵分解されるものとされないものがある。水溶性成分の方が分解されやすく、その一部は栄養として吸収される。分解に際して発生する有機酸が腸を刺激し、蠕動を亢進させる。一方、分解されないものは、そのまま糞便量を増加させ、糞便中の水分を増やし、膨張性の下剤的な作用がある。
第 5次改訂栄養所要量における食物繊維の目標摂取量は成人で、20〜25g/日(10g/1,000Kcal) とした。現在の摂取量は16〜17gと報告されている。
近年、食物繊維摂取量の減少とともに、大腸ガンや大腸憩室疾患が増加している。食物繊維には、糞便増大作用、腸管通過時間の短縮作用があり、発ガン物質と大腸粘膜との接触が抑えられるため、食物繊維には大腸の発ガン抑制効果があると考えられている。また、食物繊維のこのような作用に伴って大腸内圧も低下するため、大腸憩室の発生も抑制できると言われている。
人類は数世紀にわたって、食物中の炭水化物を吸収しすぎたため、繊維分を減らしてしまい、結腸を充満させなくしたことが、便秘や痔及び憩室疾患などの重要な要因になったと考えられている。
オリゴ糖: 2〜10個位の単糖がグリコシド結合(C-O-C)したもの(少糖)
糞便嵌頓fecal compactionは、便が硬くなって排泄出来ない状態で、時にはイレウスになることもあるので注意する。また、粘液や下痢便が糞塊の周りを通って出るので、便秘でないと誤解されることがある。これは括約筋が悪いのではなく、直腸粘膜感覚の低下のために、直腸が高度に拡張しないと収縮運動が起こらなくなり、その結果、便が貯留し、硬い大きな糞塊を形成するものである。
イレウス:ileus
腸管内容が種々の原因によって、腸管内容の運行が途絶されて、肛門方向に運ばれていかないことによって生じる病態(腹痛、嘔吐、急激な全身症状、ガス及び大便の排出停止、腹部膨満感など)。

 糞便嵌頓の予防は、繊維分の多い食事を摂り、ラクツロースなどの下剤を投与し、毎日排便する習慣をつけることである。健康であったが、最近特別の理由もなく便秘傾向になったという場合、大腸ガンが原因のこともあるので特に注意する。

(4)便秘と腸内細菌

 腸内細菌叢は、便秘によっても影響を受ける。また、便秘を誘発する食事内容によって変化し、代謝産物も変化する。

 牛肉は便秘の原因となる低食物繊維の代表で、牛肉を主体とした食事と、牛肉を含まない食事を摂った場合とでは、腸内細菌叢のパターンに差を生じる。また、大腸ガンの発生頻度は、牛肉の摂取量に比例することが知られているが、大腸ガンの発生にも腸内細菌叢の変化と、腸内細菌叢の代謝産物が関わると考えられる。

 肉食など動物性脂肪を多く摂取すると、それを消化するために胆汁酸が多く分泌される。胆汁酸は肉食によって増殖した腸内の有害菌によって、デオキシコール酸やリトコール酸など二次胆汁酸に変換され、この二次胆汁酸が発ガン因子となることが知られている。従って、便秘を誘発する低食物繊維である肉食は、腸内細菌叢の変動を介して大腸ガンの発生を助長することになる。乳酸菌は腸内細菌叢を正常に保ち、大腸ガンの発生を予防する。

問題(2)にもどる

 便秘によって、発ガン因子の大腸粘膜への接触・被爆の機会が多くなり、大腸ガン発生危険率を高める。従って、便秘を改善することが大腸ガンの発生を防ぐことにもなる。日本では、ビフィズス菌の投与が腸内細菌叢を改善し、便秘に効果のあることが報告されている。


3.便秘の病因別分類

 便秘は原因疾患および病態から器質性と機能性に分け、これに薬剤性便秘が加わる。また、経過からは急性と慢性に分ける場合もある。

(1)機能性便秘      ⇒ 女性の便秘

 腸管に器質的な異常はないが、腸管運動の異常によって発生する。急性のものでは正常の排便リズムが何等かの原因で乱れ、便秘となったもので一過性である。便秘の多くは機能性便秘である。

 慢性の常習性便秘は、日常しばしば見られ、自律神経が関与している。

@ 一過性単純性便秘:食事・生活の変化
A 常習性便秘(習慣性便秘)
a. 弛緩性便秘: ⇒中高年女性、高齢者及び全身衰弱、腹圧低下、内分泌疾患
常習性便秘のうち弛緩性便秘が70〜80%と最も多い。アウエルバッハ神経叢の興奮性が低下しているため、大腸全体が弛緩し(大腸の運動と緊張が低下)、腸内容物が停滞して輸送が遅れ、必要以上に水分が吸収されて便が硬くなり、排出までの時間が遅れるために起こる。ただ、糞便は硬くはなるが、それほど硬くならないのが特徴である。
問題(3)にもどる
この原因としては、食物繊維などの摂取不足による低残渣食による腸蠕動刺激の低下、加齢による腸管運動及び分泌機能の低下傾向、腸管壁の強さや緊張の減弱傾向が考えられる。また、呼吸関連筋群や腹筋の低下により十分な腹圧がかからない状態を伴っている。この他、中枢神経疾患や中毒などによる二次的な弛緩と運動の減退がある。次の直腸性便秘と合併して起きる事も少なくない。
b. 直腸性便秘: ⇒排便の意識的抑制、直腸肛門病変、無力性体質、浣腸の乱用
排便は通常、食事の後に起こる胃・結腸反射により促進されるが、これを無理に抑える習慣が続くと反射機能は漸次減弱する。便が直腸内まで来ているのに、多忙のために便意を我慢したり、下剤や浣腸の乱用などにより、直腸粘膜の刺激に対する骨盤神経を介する排便反射が減弱または消失しているために排便困難が生じるものである。高齢者、無力体質者、経産婦などに多い。
また、痔疾、肛門部損傷(裂傷や潰瘍)のための排便時の疼痛や肛門括約筋の痙攣も排便反射機能の低下の原因となる。神経疾患、外傷などでも起こる。
c. 痙攣性便秘: ⇒過敏性腸症候群、下剤の乱用
痙攣性便秘は副交感神経の過緊張により、大腸の異常分泌や下部大腸の運動・緊張の亢進のために痙攣性収縮をきたし、腸管内容物の通過障害が起こることにより生じる。水分が吸収されて硬くなることにより、便秘が起こるもので、排便は兎糞状となる。
過敏性腸症候群Irritable Bowel Syndromeに見られる便秘はこの型に属する。 この場合、下痢と便秘が交互に繰り返される交代性便通異常となることが多い。 排便前の腹痛と排便による腹痛の軽減が特徴である。
基本的には痙攣性便秘に刺激性下剤は望ましくない。

(2)器質性便秘(症候性便秘)

 器質的便秘は原因疾患の治療が第一である。急性の器質的便秘は腸閉塞などによる。時に迅速な対応を必要とする。 

@ 先天性: Hirschsprung病(先天性巨大結腸症)
A 後天性: 下部の大腸ガン、炎症性腸疾患、腹膜炎、腸管癒着症、腸管外性圧迫・浸潤、糖尿病、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、中枢神経系疾患、膠原病

 何らかの器質的異常を伴うもので、症候性便秘とも言う。腸管自身の病変や、隣接する腹腔内臓器の炎症、腫瘍などにより腸管の狭窄や運動麻痺をきたし、腸内容の通過障害を出現するものや、内分泌疾患、神経疾患、薬物中毒などによる腸管運動の麻痺によって便秘が起こる。

(3)薬剤性便秘

 特に高齢者では種々の薬剤を使用しているので特に注意する。急性便秘では最近、使用した薬剤について調べる。ただ、薬剤は直接でなくても間接的に便秘の原因となることがある。これは、利尿剤により水分が排出されて、便が硬くなり便秘を起こすことがあるなどの例が挙げられる。また、 1剤では問題がないが、複数併用すると相乗作用で便秘を起こす場合もある。

 便秘の原因は〔表 1〕の薬剤が主で、抗コリン剤、ガン疼痛に対する麻薬、制酸剤などがあるが、これらの薬剤は便秘を起こしても中止できないので、下剤を併用することになる。最近ではCa拮抗剤による便秘の報告がよく見られる。

 Ca拮抗剤は消化管平滑筋への作用により、腸管運動が低下することによる。特にベラパミル(ワソラン)、ジルチアゼム(ヘルベッサー) などの非DHP誘導体に多い。

〔表 1〕便秘の原因となる主な薬剤
麻薬:塩酸モルヒネ(塩酸モルヒネ、MSコンチン、カディアンなど)、リン酸コデイン
パーキンソン病治療剤:トリヘキシフェニジル(ア-テンなど)、レボドパ(ドパストンなど)
抗うつ剤(三環系):
アミトリプチリン(トリプタノール)、クロミプラミン(アナフラニール)、イミプラミン(トフラニール)
抗うつ剤(四環系):マプロチリン(ルジオミールなど) 他
失禁治療剤:プロパンテリン(プロバンサイン)、オキシブチニン(ポラキス)
制酸剤:アルミニウム製剤
その他の製剤:
骨量増加剤(カルシウム製剤)、利尿剤、鉄剤、カルシウム拮抗剤、ベンゾジアゼピン系剤、フェノチアジン系剤(クロルプロマジンなど)、H2-遮断剤、ピル、トコフェロール(ユベラなど) 他

4.市販されている下剤

 便秘の治療には、下剤、浣腸剤、消化管運動機能調整剤、漢方薬、ビタミン剤、整腸剤などが使われ、必要に応じて向精神剤も併用する。

 便秘の訴えがあっても、本人に不快や苦痛がなく、健康な生活が営めるならば、特に治療の必要はなく、直ちに緩下剤を用いるべきでない。
      ⇒下剤(purgative、cathartic、lazative、aperientは同義語)

(1)下剤の分類

 緩下剤は腸管での水分の吸収抑制・分泌促進により腸管腔内に水分を蓄積させ腸内容物を軟化させ、また腸管運動を亢進することにより、便の排泄を促進する薬剤であり、膨張性(増量性)、刺激性に分類される製剤が多く使われる。

 便秘治療剤の多くは、体内に吸収されないので、副作用や相互作用で問題とされることは少ない。

〔表 2〕下剤の分類 (数字:薬効分類番号、記載のないものは、235)
分類 一般名 商品名
◇機械的下剤:
 @塩類下剤
   (無機塩製剤)
硫酸マグネシウム、人工カルルス塩、酸化マグネシウム
クエン酸マグネシウム マグコロール(P)他 721
 A糖類下剤 ラクツロース モニラック他 399
D-ソルビトール D-ソルビトール液 799
 B膨張性下剤 カルメロースNa(CMC)
 (カルボキシメチルセルロース)
C.M.C「マルイシ」
バルコーゼ        @〜B:増量性下剤
 C浸潤性下剤 DDS+カサンスラノール  ビーマスS、ベンコール
◇刺激性下剤:
 @小腸刺激剤 (加香)ヒマシ油、オリーブ油
 A大腸刺激剤 
  アントラキノン系誘導体
   (植物性製剤)
カスカラサグラダ流粒エキス カスカラサグラダ流エキス
センナエキス アジャストAコーワ他
センノシド プルゼニド他
アロエ アロエ
  ジフェノール誘導体 ピコスルファートNa ラキソベロン他
 B直腸刺激剤
   (坐剤)
ビサコジル(坐) テレミンソフト坐薬 1、3号他
炭酸水素Na配合 新レシカルボン坐剤他
◇自律神経作用剤:
 @副交感神経刺激剤 臭化ネオスチグミン ワゴスチグミン 1233
◇浣腸剤(直腸性):
  グリセリン グリセリン坐薬、−浣腸「各社」
薬用石鹸 薬用石鹸「各社」261
◇その他:
 @電解質配合剤 塩化ナトリウム等配合剤 ニフレック(経口腸管洗浄剤)799
 Aビタミン剤 ビタミンB1 アリナミンF、ノイビタ 3122
パンテチン パントシン
パントテン酸Ca パンカル

(2)機械的下剤

 薬剤そのものが、腸管内で水分を補足し、腸内容の体積を増量させて、その刺激で蠕動を亢進させて排便を促す。主な機械的下剤として次が使われる。

@塩類下剤(無機塩製剤):効果発現M等張または低張液( 1〜2 時間)

  硫酸マグネシウム、人工カルルス塩、酸化マグネシウム、クエン酸マグネシウム ⇒浸透圧下剤

〔適応〕 便秘症
〔特徴〕 a.習慣性がない   b.腸管粘膜への炎症変化を起こし難い    c.消化管からの吸収が少ない
      d.大量投与は子宮収縮誘発の危険性はあるが、少量では妊婦への使用は安全、しかし胎盤通過による新生児高Mg血症に注意

問題(4)にもどる

腸管から吸収され難く、腸管の中で腸内溶液が体液と等張になるまで、体水分を吸収する(浸透圧効果)。さらに腸管内水分の吸収を妨げる。従って、腸内容の体積は増加し、流動性となり、腸管粘膜を刺激して蠕動を亢進させ、水様便を排泄する。
非吸収性の順位は Mg2+>Ca2+>Na+>K+;PO43->SO42->NO3->Br->Cl-である。
習慣性が少ないので、長期間の使用が可能である。腸管粘膜への炎症変化を起こし難く、消化管からの吸収も少ない。大量の水とともに服用すると効果的である。
大量投与は子宮収縮誘発の危険性はあるが、少量ならば妊婦への使用もできる。
副作用としては、ときに悪心、食欲不振が見られる。Mg塩は腎機能障害のある場合には、Mg中毒症状(弛緩性麻痺、昏睡、心不全など)を現し易いので注意。
痙攣性便秘に対する使用は好ましくない。Na製剤はうっ血性心不全などで浮腫のある患者には禁忌。なお、高Mg血症は4.0mEq/L以上で起こり、徐脈、起立性低血圧、反射の減弱、傾眠、筋麻痺、心室性刺激伝導系異常などを示す。

A糖類下剤:

  ラクツロース(モニラック他)399、D-ソルビトール(D-ソルビトール液)799

〔適応〕肝硬変などの肝不全傾向のある便秘症 ラクツロース  ⇒高アンモニア血症に伴う精神神経障害、脳波異常、手指振戦
    D-ソルビトール⇒消化管のX線造影時の便秘防止、傾向的栄養補給
ラクツロースはガラクトース 1分子と、フルクトース 1分子からなる合成二糖類で、経口投与すると無変化のまま大腸に達し、浸透圧作用によって水分を貯留し、便を軟らかくする。同時に腸内細菌によって分解され、生成された有機酸(乳酸、酢酸など)の刺激によって、腸管の蠕動を亢進させ、排便促進効果を現す。

B膨張性下剤: 効果発現⇒10〜24時間

  カルメロースNa:CMC(C.M.C「マルイシ」)、バルコーゼ・・・カルボキシメチルセルロース

〔適応〕 便秘症
〔特徴〕 a.習慣性がなく長期使用に理想的     c.消化管からの吸収が少ない
      b.腸管粘膜への炎症変化を起こし難い   d.大量投与は子宮収縮誘発の危険性
作用が生理的排便機序に近いので危険性は少ない。大量の水とともに服用すると効果的である。食物繊維と類似の作用を示す。
腸管内では吸収されないで、逆に水分を吸収して膨張、腸内容量を増加し、腸管粘膜に炎症を起こさず機械的に腸壁(伸展受容器)を刺激して、蠕動を亢進させて排便を促す。12〜24時間以内に効果が発現し、最大効果は 2〜3 日投与後となる。便秘の矯正にはある程度の日数と訓練を必要とするため、便塊が排泄されても短時間で中止せず、規則正しい排便ができるようになるまで、投与を続けることが望ましい。⇒習慣性がない
食物繊維と同等の「かさbulk」を増す作用があり、腸管粘膜への炎症変化を起こし難い、消化管からの吸収が少ない、習慣性が無いので長期使用可能などの利点はあるが、大量投与は子宮収縮誘発の危険性を生じる。
吸収されないので殆ど副作用はないが、腸狭窄、重症の硬結便の患者には禁忌。
寒天も膨張性下剤として使われた。

C浸潤性下剤: 効果発現⇒ 8〜12時間

  ビーマスS、ベンコール:ジオクチルソジウムスルホサクシネート(DDS)+カサンスラノール

〔適応〕 常習性便秘、特に弛緩性便秘、直腸性便秘、痔疾患者
〔特徴〕 a.習慣性・副作用が少ないが作用が弱い     b.大量投与は子宮収縮誘発の危険性
界面活性作用により糞便中への水分の浸透を容易にすることにより作用を発揮。
習慣性の心配のない緩下剤であるが、浸潤性下剤のみの投与では作用が十分でないことが多い。このため大腸刺激性下剤とよく併用される。
生理的排便機序に近いので危険性は少ない。大量の水とともに服用すると効果的である。ビーマスSはジオクチルソジウムスルホサクシネート(DDS)の界面活性作用により、表面張力を低下させ、硬化糞便内に水分が浸透し易くし、膨潤化して軟便化する。さらに配合されたカサンスラノールの糞便水和作用も加わり、排便を促して緩下作用を示す。カサンスラノールの腸蠕動促進作用は、自律神経節遮断剤あるいは抗コリン剤処置により影響されないために、手術時または抗コリン剤、鎮痙剤、降圧剤などの投与で引き起こされた腸蠕動運動の低下に対しても腸蠕動運動促進作用を発揮する。吸収されないので殆ど副作用はないが、腸狭窄、重症の硬結便の患者には禁忌。大量投与は子宮収縮を誘発する危険性がある。
カサンスラノールは母乳中に移行して乳児に下痢を起こさせるので、授乳中の婦人には投与しないことが望ましい。尿が黄褐色〜赤色になることがある。

(3)刺激性下剤

⇒胃粘膜を刺激しないで(嘔吐の危険)、腸粘膜を刺激し反射的に腸管の蠕動運動を亢進

 腸管粘膜の局所刺激により透過性を増大させ、かつ壁在神経叢に直接作用して蠕動を亢進させる。腸内容物を直腸に早く移動させ、結腸内の水分吸収を抑制する。さらに腸管のNa+−K+−ATPase を抑制し、水及び電解質の吸収を減少させる。 また、PGとcAMPの合成を高めて腸運動を亢進する。

 作用は比較的強いが、習慣性があり、腸管粘膜に炎症変化をきたすことがある。長期に用いると耐性が現れ、増量しないと効かなくなる悪循環に陥ることがあるので、短期間の使用が原則である。

問題(5)にもどる

@小腸刺激剤(峻下剤):(加香)ヒマシ油、オリーブ油 効果発現⇒2〜4時間

〔適応〕便秘症、食中毒における腸管内容物の排除、消化管検査時または手術前後の腸管内容物排除
ヒマシ油castor oilは、トウゴマの種子から取られる。ヒマシ油は小腸で胆汁によって乳化され、リパーゼによって加水分解されて、リシノール酸とグリセリンになる。リシノール酸がアルカリ下でリシノール酸ナトリウムとなって、小腸粘膜を刺激して蠕動を亢進させて排便を促す。また、加水分解されなかったヒマシ油とグリセリンとは粘滑作用を現す。過去にはオリーブ油も小腸刺激剤として使われた。
ヒマシ油は通常10〜20mL/回を頓用するが、服用し難いので、加香して飲み易くした加香ヒマシ油が用いられる。
連用すると栄養障害を起こす。骨盤内の充血を起こすので、月経時、妊娠時に使用すると大量出血をする危険性がある。また、痙攣性便秘、急性虫垂炎、腹膜炎には禁忌である。
また、ヘノポジ油、綿馬エキス、四塩化エチレンなどの脂溶性の駆虫剤と併用すると、これらの製剤の吸収を促進し、中毒を起こすことがある。

A大腸刺激剤: ⇒栄養の吸収を妨げない

大腸の粘膜に選択的に刺激効果があり、胃、小腸で分解されず、大腸の腸内細菌などによって変化を受けて刺激性物質となって作用する。
以前はフェノールフタレン誘導体(ラキサトールなど)が多く用いられたが、用量調節が難しく、動物試験では発ガン性もあることから、最近では薬用量の範囲が広く、用量調節が比較的容易なアントラキノン誘導体が繁用される。連用によって被刺激性が低下し、増量が必要になるが、塩類下剤、膨張性下剤、浸潤性下剤との併用で長期投与が可能である。大腸刺激性下剤のビソキサンチン(ラキソナリン)は発売中止。
痙攣性便秘の場合、大腸が刺激されることで、痛みが起こることがあるので注意。
〔適応〕便秘症

 A.アントラキノン誘導体: 効果発現⇒ 8〜12時間

   カスカラサグラダ流エキス、センナエキス、センノシド など

〔特徴〕 a.作用は強いが習慣性あり c.腸管粘膜に炎症変化を起こす
     b.骨盤内充血をきたすので妊婦、月経時には一般に原則禁忌、要注意
センナ、ダイオウ、カスカラサグラダ、アロエなどの生薬に含有される配糖体のエモジン、クリソファノ−ル、レイン、センノサイドA及びBなどが有効成分である。胆汁や腸液によって加水分解され、大部分は小腸より一旦、吸収された後、血行あるいは直接的に大腸に達して、大腸粘膜及びアウエルバッハ神経叢を刺激して、蠕動を高め排便を促す。従って、センナエキスを直接、腸内に注入しても下剤としての作用はない。センナエキスと糞便から採取した大腸菌の培養液と作用させたものを腸内に注入すると下剤効果があらわれる(大腸菌の作用によって活性化され蠕動運動が促進される)。
問題(6)にもどる
CMC、DDSなどの単独では、比較的効果の弱い緩下剤が、アントラキノン誘導体のセンナ、ダイオウ、カスカラサグラダなどと配合される。
アントラキノン誘導体は、連用すると耐性が増大し、腸管の細胞(神経細胞)を障害し、有効性を減ずる可能性がある。薬剤に頼り勝ちになるので長期連用は避ける。また、連用すると大腸粘膜にメラニン色素が沈着(大腸メラノ−シス:大腸黒皮症)すると言う報告があるが可逆性である。
急性虫垂炎、腸出血などの急性疾患、及び月経時、妊娠時、痔疾のある場合は原則禁忌、要注意など添付文書の記載は違うが十分に注意する。母乳への移行があるので授乳婦への投与は避ける。
カスカラサグラダ流エキスは、カリフォルニアインデアンが樹皮から採取して利用していた。骨盤内充血が無く、痔疾患者、妊婦、月経時にも使用できるが、薬価は収載されているものの製品の入手は難しい。    ⇒尿が褐色〜赤色

 B.ジフェノール誘導体: 効果発現⇒ 7〜12時間

   ピコスルファートNa(ラキソベロン他)

胃、小腸ではほとんど分解されずに大腸に達し、大腸の腸内細菌叢が作る酵素(アリルサルファターゼ)によって加水分解され、活性型のジフェノール体と硫酸Naになる。このジフェノール体が大腸粘膜を刺激して蠕動を亢進させ、大腸運動亢進と水分吸収阻害作用を示し排便を促進する。
ピコスルファ−トNa(ラキソベロン) は錠剤、液剤があり使用性に富み、習慣性が少なく妊婦や胎児への安全性は、ほぼ確立していると考えられている。

B直腸刺激剤:(坐剤) 効果発現⇒ 15〜30分

  ビサコジル坐剤(テレミンソフト坐薬)、 炭酸水素Na配合(新レシカルボン坐剤他)

ビサコジル(コーラック:OTC)は、粘膜を直接刺激し、排便反射を起こさせるが、制酸・中和剤と併用した場合、溶出が早まり消化管の刺激が増強され、腹痛、悪心・嘔吐、腹部膨満感が出現する。
急性虫垂炎、腸出血などの急性疾患、及び月経時、妊娠時、痔疾のある場合は禁忌であり、母乳への移行があるので授乳婦への投与は避ける。

(4)副交感神経刺激剤

 主な副交感神経刺激剤として、臭化ネオスチグミン(ワゴスチグミン) が使われる。 腹痛と兎糞状の便を少量しか排便しない痙攣性便秘の患者には、蠕動を弱めるために、副交感神経遮断剤が併用される。迷走神経刺激剤ワゴスチグミンは消化管機能低下による弛緩性便秘(術後の腸管麻痺、自律神経遮断による便秘)に適用される。

 副交感神経刺激剤であるベタネコール(ベサコリン)が用いられることもあるが、効能・効果は術後などの消化管機能低下などである。前立腺肥大、心疾患、脳卒中後の患者には副作用のおそれがあり、一般に高齢者には使い難い。

(5)浣腸剤(直腸性)

  グリセリン(グリセリン坐剤、−浣腸「各社」)、 薬用石鹸(薬用石鹸「各社」)

 グリセリン浣腸液は、腸管壁の水分を吸収することにより、局所を刺激し、便を軟化・潤滑化することによって排便を促進する。妊婦には禁忌。

 弛緩性便秘、直腸性便秘に用いられる。直腸粘膜が刺激され、また、習慣となるので、できるだけ連用は避ける。連用による耐性のため効果が減弱したり、腹圧をかけないで楽に排泄できるため、腹圧減弱による排便困難が増加する。

 高齢者では直腸内に便が溜り、それが石のようになって排便が出来ないことがある(糞便嵌頓fecal compaction)。このような場合には、まず微温湯で浣腸し、暫く待って便が軟らかくなってから、浣腸剤を用いる。

問題(7)にもどる

 副作用については、直腸粘膜の糜爛や浣腸実施時に直腸粘膜を損傷した場合、あるいは痔疾のために血管内にグリセリン浣腸液が流入し、血色素尿が認められた報告もある。また、高齢者の場合、頻回の下痢による電解質異常なども起こることがあり、強制排便により血圧低下をきたすことがあるので注意する。


5.便秘症状に対する下剤の適用

 便秘の症状によって、次のように治療剤が用いられる。また、〔表 3〕のように禁忌があるので留意する。

(1) 弛緩性便秘に対する下剤

 食物繊維の多い食事や冷水または牛乳を早朝時に摂取させる。薬物療法としては、はじめ増量性下剤の塩類下剤(酸化マグネシウム)、膨張性下剤(バルコーゼ)を用い、効果が不十分の場合には大腸刺激性下剤(プルセニド、アローゼン、ラキソベロンなど)、さらには自律神経作用剤(ベサコリン)、パンテチン(パントシン)などを用いる。ただし、塩類下剤は心・腎機能不全患者では用いない方がよい。

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〔処方例〕  下記のいずれかを用いる。
  a.酸化マグネシウム     0.6〜2g   分3 食後
  b. パントシン        300〜600mg 分3 食後
     脂質代謝改善剤であるが、アセチルコリンの生成を促進して腸運動を亢進する。
    パントシンはパントテン酸の欠乏または代謝障害が関与すると推定される弛緩性便秘に使われる。
  c.プルゼニド(12mg)1〜2錠 または、ラキソベロン(2.5mg)2〜3錠 1回就寝前
  d.ラキソベロン液       10〜15滴 1回就寝前

(2)直腸性便秘に対する下剤

 便意を抑制するなど、排便の習慣の乱れによって生じることが多いので、便意があれば、すぐに排便するように注意する。

 直腸・肛門病変による疼痛のために排便困難を起こしている場合は、病変部の治療を初めに行う。新レシカルボン坐剤を用いる。直腸内で炭酸ガスを発生させて便意を促す。大腸刺激下剤は使わない。

問題(9)にもどる

 新レシカルボン坐剤またはテレミンソフト坐薬3号を 1〜2個を 1回就寝前に使用し、腸粘膜への直接刺激により排便反射を刺激する。直腸性便秘は弛緩性便秘を伴うので、プルゼニドなどを併用する。ビタミンB1 のアリナミンF、ノイビタには便秘の適応があり、症例によっては15〜75mg程度を併用する。

(3)痙攣性便秘に対する下剤

 多くは過敏性腸症候群に伴う便秘であり、過敏性腸症候群では便秘のほかに、腹痛、腹部不快感、ガス症状などの腹部症状を訴える。さらに不安感、抑うつ感などの精神症状、自律神経失調様症状、頭痛、腹痛などの不定愁訴を伴う症例が多い。

 痙攣性便秘に対する薬物効果は少ない。腸運動調整剤(セレキノン)か抗コリン剤(トランコロン)に酸化マグネシウムを用いる。心因性の強い場合には、必要に応じて抗不安剤、抗うつ剤、自律神経調整剤などを併用する。

問題(10)にもどる

 大腸刺激性下剤では症状の悪化を招くことがある。抗コリン剤は緑内障や前立腺肥大症では禁忌である(三環系抗うつ剤には抗コリン作用があるので注意する)。

〔処方例〕  下記のいずれかを用いる
  1) セレキノン(100mg)  3〜6錠      2) チアトン(10mg)    3錠 分3 食後
    ガスコン(40mg)    6錠           メイラックス(1mg)   2錠 分2 朝夕食後
    酸化マグネシウム  0.6〜2g 分3 食後
    セレキノンは消化管運動機能調整剤である。チアトンは抗コリン剤である。大腸の痙攣を緩和する。便秘に対しては増量性下剤を併用する。

(4) 下剤の禁忌

 添付文書による主な下剤の禁忌例を記載する。

〔表 3〕各種下剤の禁忌一覧
  禁   忌 摘 要
@ A B C D E F G H  
人工カルルス塩              
バルコ−ゼ               
ビ−マスS          
ヒマシ油        
プルゼニド        
ラキソベロン              
テレミンソフト坐薬 3号           
〔禁忌と理由〕
@ 急性腹症の疑われる患者⇒蠕動運動の亢進のため症状の悪化
A 重症の硬結便のある患者⇒    〃
   多量の硬い固形状の便の場合刺激性下剤で腹痛が悪化
B 痙攣性便秘のある患者 ⇒ 〃
C 授乳婦⇒母乳中に移行し、乳児の下痢を起こす
D 本剤に過敏症のある患者
E 電解質失調(特にK血症)のある患者⇒下痢が起こり電解質の喪失
F 肛門裂創、潰瘍性痔核のある患者⇒坐剤挿入に伴う物理的、機械的刺激を避ける
G ヘノポジ油、メンマなどの脂溶性駆虫剤の投与中の患者⇒中毒を起こす
H リン、ナフタリンなどの脂溶性物質による中毒時 ⇒症状の悪化
I 骨盤内臓器の炎症、月経時、妊娠時         ⇒通常禁忌

(5)下剤の乱用

 下剤を常時使用すると習慣性になり、結腸の神経細胞を障害するといわれている。下剤は有効最小量を必要最小期間使用するのがよい。

 下剤を使い過ぎると下剤中毒(laxative abuse)に陥る。また、下剤乱用による下剤性結腸症候群 Catharrtic colon syndromeの報告も多い。

 しかし、患者は下剤を使用すれば下痢を起こすのは当然と考えて、そのまま連用する。下痢が続くと腸に内容物は全く無いのに、常に便意を感じるようになり、下痢が続く。このような症状を下剤性結腸症候群と言う。

 この症状には主にK+ が関与している。下痢によって直接的にK+ が便とともに喪失する。また水分とNa+の喪失はアルドステロンの分泌を促進し、これがK+ 欠 乏を助長する。K+ 欠乏は筋力の低下、さらに腸緊張及び運動の低下を起こし、便秘を増強するなど悪循環を示す。

 下剤性結腸症候群は精神的因子が関与していることが多いので、患者によく説明して、下剤から離脱するように指導する。

(6)妊娠と下剤

 田代らによれば、妊婦では約40%が便秘を訴え、その半数もしくは1/4が下剤を服用していると報告している。

 妊娠により黄体ホルモンの分泌が活発になることや、妊娠の初期では卵巣の発育とともにプロゲステロンの分泌亢進が妊娠 4カ月頃まで持続し、腸管蠕動運動が抑制されるので便秘が起こりやすい。それ以降はプロゲステロン作用が低下するので、便秘傾向は低減される。しかし、悪阻による食事摂取量の減少、運動不足から便秘が起こる。さらに 6カ月頃より胎児の発育に伴う子宮肥大による腸管の圧迫、横隔膜の挙上、腹直筋の伸展なども腸管の運動を抑制し便秘しやすくなる。

 また血管の圧迫で下半身の血液うっ滞が起こり、痔疾を誘発・悪化させたりし、そのため排便を抑えることが、さらに便秘傾向を強くする。

 人工カルルス塩、バルコーゼ、ビーマスS、ビサコジルなどは、子宮収縮を誘発して流早産の危険性があるので、大量投与は避ける。

 アントラキノン系誘導体のカスカラサグラダ流エキス、アジャストAコーワ にもその記載があるが、センノシド(プルゼニドなど)は原則禁忌となっている。アロエは妊娠中の投与により胎児が脱糞し、子宮内を汚染するので禁忌である。

 女性の便秘では、生活習慣の是正や食事に注意し、下剤は膨張性下剤を用いる。刺激性下剤の長期常用は好ましくない。妊産婦への刺激性下剤の投与は、慎重投与とされているが、一般的な使用量ではまず危険はないとされている。ただし、切迫流・早産、前置胎盤の疑いの際には、浣腸は禁忌である。


6.便秘の生活指導

 マラソンなどの激しい運動により、腹痛、下痢になるほど腸も激しく蠕動する。反対に寝ていると腸は殆ど動かない。目がさめて起き上がり、活動すると腸も動きだす。朝に便意を催すことが多いのもこのためである。

 便秘の治療には生活様式の改善、食事療法が基本であって、自発的な排便を会得させるバイオフィードバック療法も有効である。

@ 規則正しい排便習慣をつける。
必ず朝食を摂るようにし、その後、排便する努力を続ける。朝食は胃・結腸反射を誘導し、大腸の蠕動運動を促進させる。
たとえ便意を催さなくても、朝食後は一定の時間にトイレに行くようにする。
A 排便に関与する腹筋などの筋力低下を防ぐために、腹筋運動など適度の運動をする。適度の運動により消化管の通過時間は短縮する。腹部のマッサージは消化管の通過時間や排便効果を検討した結果からは無効とされている。
B 便意を催させるような食事の摂取に心がける。この催便性食事としては次のものが知られている。
a. 早朝の冷水、冷牛乳、ヨーグルト、冷果汁などの冷飲料は寒冷刺激を与える。
b. 繊維の多い植物性食品など機械的刺激を与える。食物繊維は腸管内の水分の調整、糞便量の増加、消化管の通過時間の正常化などの作用がある。食物繊維を多く含む食事を摂るようにする。小麦ふすまを 1日大匙 1杯程度服用させるのもよい。食物繊維は消化酵素で消化できない炭水化物で、必ずしも繊維状ではない。
c. 香辛料、炭酸飲料(ビール、サイダーなどの発泡飲料)、脂肪の多い食品。
嗜好品と便通については患者が経験的に分かっていることが多い。コーヒーは大腸運動を亢進する。アルコールは下痢傾向となる。タバコは人により一定しない。
経口的に摂取するとアミノ酸は大腸運動を抑制し、脂肪は亢進する。なお、経静脈的投与でもアミノ酸は抑制するが、脂肪は影響しない。
d. 腸内細菌の繁殖を助け、炭酸ガス、水素ガス、アンモニアなどを産生する酢酸、酪酸、吉草酸を含む食品。

 ただし、痙攣性便秘の食事療法は、その他の便秘の食事療法とは別で、刺激の少ないもの、繊維残渣の少ないものを摂取する。


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