非ステロイド性消炎鎮痛剤 NSAID

(non-steroidal anti-inflammatory drug)


 非ステロイド性消炎鎮痛剤(以下:NSAIDs)は、ステロイド骨格(ペルヒドロシクロペンタノフェナントレン)を持たないが、薬理学的にはステロイド剤と類似の抗炎症作用等を有する薬物の総称で、その作用機序はPG産生を抑制することによる。


1.非ステロイド性消炎鎮痛剤とは  

 一般にNSAIDsと言った場合、抗炎症、鎮痛、抗血小板作用をもつインドメタシンなどを指す。アセトアミノフェン、フェナセチンなどにも弱い抗炎症作用は認められるが、これらは解熱鎮痛剤として扱われるので、狭い意味のNSAIDsとして扱わない(炎症作用の強弱で解熱鎮痛剤と消炎鎮痛剤に分類される)。

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(1)非ステロイド性消炎鎮痛剤の歴史 

 紀元前、アッシリアやエジプトではヤナギの葉、樹皮やヒメツルニチソウなどを煎じてリウマチに使い、ヒポクラテスもヤナギの樹皮を鎮痛・解熱に使ったという記録がある。また、古代インドでもヤナギを歯痛に使われており、これが日本で楊枝に使われたとする説もある。このように19世紀の初め頃までは、生薬などが使われ、特にヤナギの樹皮や、それから抽出されたサリチンが使われた。

〔表 1〕非ステロイド性消炎鎮痛剤の歴史   ()内は日本での商品名
@ 紀元前〜
19世紀初頭
ヤナギの葉や樹皮などを関節炎治療に使用
その粉末、または抽出物サリチンを発熱や関節炎に使用
 
A 1838年 サリチンよりサリチル酸を抽出・同定(Piria)  
B 1853年 アセチルサリチル酸を合成(Gerhardt)  
C 1860年 サリチル酸を合成(Kolbe)  
D 1876年 急性リウマチにサリチンを使用(MacLagan,in The Lancet) M.9
E 1997年 アセチルサリチル酸の合成を改良(Hoffmann) M.30
F 1899年 アセチルサリチル酸をアスピリンとして登録・市販(Bayer) M.32
G 1946年 フェニルブタゾン(ブタゾリジン)が合成 S.21
H 1971年 NSAIDsの作用機序としてのCOX障害理論(Vane)   
I 1982年 半減期の長い薬物の開発:ピロキシカム(バキソ)など
剤型・DDSの技術:ジクロフェナクNa(ボルタレン)坐剤
 
J 1986年 剤型・DDSの技術:ロキソプロフェンNa(ロキソニン)  
K 1990年 剤型・DDSの技術:ナブメトン(レリフェン) H.2
L 1991年 COX-1、2の発見  
M 1994年 選択的阻害剤の開発:エトドラク(オステラック、ハイペン)  
N 1996年 メロキシカム(欧州)  
O 1999年 セレコキシブ、バルデコキシブ(米国) H.11
P 2002年 COX-3の発見  

 その後、NSAIDsの開発の推移は〔表 1〕のように、アスピリン全盛時代から、インドメタシン、ジクロフェナクNaなどの標準的製剤へ、次いで胃腸障害の軽減を目的にプロピオン酸系製剤、プロドラッグ、そしてオキシカム系製剤の開発など、数十種類のNSAIDsが開発されてきたが、胃腸障害の面では、現在でも満足すべき製剤は開発されておらず、この開発の歴史はそれらの副作用克服の歴史と言っても過言ではないが、現在でもこの問題は解決されていない。

 米国においてはNSAIDsの使用が 170万人もあり、それに起因する消化管障害患者が10〜20万人、このため毎年 1〜2 万人が死亡していると報告されている。

 NSAIDsとして1958年から現在(2004年12月)までに、日本において許可されたのは57種類であり、次の23製剤が副作用などにより実質的に中止または販売中止となっている。23/57≠403 であり、実に約40%の製剤が消えている。

・実質的中止製剤( 3種類):
   フェニルブタゾン、ケトフェニルブタゾン(ケタゾン)、クロフェゾン(パナス)
・販売中止製剤(20種類):
    オキシフェンブタゾン(タンデリール)、 イブフェナック、グラフェニン、アザプロパゾン、ジフェナミゾール、
    クロフェノキサミド・フェニルブタゾン複合体(クロフェゾン)、 フェンチアザク、クリダナク、フェプラゾン、
    スキシプ ゾン、アスピリンDLリジン、スプロフェン、フェルビナクエチル、アルクロフェナク(アロピジン)、
    トルメチンNa(トレクチン)、 チノリジン、ジフルニサル(ドロビット)、フェンブフェン(ナパノール)、
    トルフェナム酸(クロタム)、 フロクタフェン(イダロン)

(2)市販されている非ステロイド性消炎鎮痛剤

 〔表 2〕は現在、市販されている主なNSAIDs製剤である。なお、平成 6年9月の再評価により、急性上気道炎に対しては、 1日 2回までの頓服使用となった。

〔表 2〕市販されている主な非ステロイド性消炎鎮痛剤一覧表(内用)
分類 一般名 商品名 発売年 摘要
[酸性製剤]  
1.カルボン酸系
(1)サリチル酸系 アスピリン アスピリン    
サリチゾン 1981 坐剤のみ 1〜3回
各種アスピリン バファリン 1963 頭痛:A-1、リウマチ:A-2、バファリン81r:@-1
(2)アリール酸系
 a.インドール酢酸系 インドメタシン インダシン、インテバン 1966 *-1
インドメタシンファルネシル インフリー* 1991 A-1
アセメタシン ランツジール* 1984 B-2、頓服:2回
スリンダク クリノリル* 1982 A-1
プログルメタシン ミリダシン** 1988 B-1
 b.フェニル酢酸系 ジクロフェナクNa ボルタレン 1974 *-2
アンフェナクNa フェナゾックス 1986 C
 c.ピラノ酢酸系 エトドラク ハイペン、オステラック 1994 A-1
 d.ナフタレン系 ナブメトン レリフェン** 1990 @-1
 e.イソキサゾール系 モフェゾラク ジソペイン 1994 B-1
(3)プロピオン酸系 イブプロフェン ブルフェン 1971 B-1、頓服:2回  坐剤:2回
ナプロキセン ナイキサン 1977 A-2
ケトプロフェン カピステン、オルヂス 1978 *-3
フルルビプロフェン フロベン 1979 B-1
フェノプロフェン フェノプロン 1982 B-1、頓服:2回
ザルトプロフェン ペオン、ソレトン 1993 B-1
チアプロフェン スルガム 1984 B-1、頓服:2回
プラノプロフェン ニフラン 1981 B-1、頓服:2回
オキサプロジン アルボ 1986 @-2
ロキソプロフェン ロキソニン* 1986 B-1、頓服:2回
アルミノプロフェン ミナルフェン 1988 B-1
(4)フェナム酸系
  (アントラニール酸)
メフェナム酸 ポンタール 1966 *-4
フルフェナム酸Al オパイリン 1967 B-1、頓服:2回
2.エノ−ル酸系
(1) ピラゾロン系 スルピリン メチロン 1937 *-5
ミグレニン ミグレニン 1958 A-2
イソプロピルアンチピリン 配合剤として   B-2
(2) オキシカム系
  (ベンゾサイアジン)
ピロキシカム フェルデン、バキソ 1982 *-6
テノキシカム チルコチル 1988 @-1
アンピロキシカム フルカム 1994 @-1
メロキシカム モービック 2001 @-1
ロルノキシカム ロルカム 2001 *-7
[非酸性製剤]  
  エピリゾール メブロン 1970 A-1、頓服:2回
チアラミド ソランタール 1975 B-1、頓服:2回
エモルファゾン ペントイル 1984 B-1
注)商品名欄 *印:プロドラッグ **印:プロドラッグ化により非酸性
   発売年欄 数字:先発製剤の内用剤の発売年
   摘要欄  内用回数/日:
          @-1: 1回 A-1: 2回 B-1: 3回 C: 4回
           @-2: 1〜2回 A-2: 2〜3回 B-2: 3〜4回
          @-3: 1〜3回 A-3: 2〜4回
             頓服 2回: 1日 2回まで
           *-1:インドメタシン・・・・・・@-3、SP:A-1、頓服 2回
               坐剤:1〜2回、クリ-ム、軟膏、ゾル、外用液:数回、パップ:2回
           *-2:ジクロフェナクNa・・・・B-1、頓服:2回、SR:A-1、坐剤:1〜2回
           *-3:ケトプロフェン・・・・・・B-1、頓服:2回、SR:@-1、坐剤:1〜2回 
            *-4:メフェナム酸 初回500r、その後 6時間毎に250r、急性上気道炎では500r 2回
            *-5:スルピリン・・・・・・・・末:2回まで、坐剤:1回
           *-6:ピロキシカム・・・・・・・@-1、坐剤:1回、軟膏:数回
          *-7:ロルノキシカム・・・・・・・1回 8rを 1日 3回まで、 3日間まで

 非酸性製剤は以前、塩基性製剤と称していたもので、エモルファゾン(ペントイル)が上市されて、この製剤は解離しないため酸性、塩基性の判定ができないので、これを非酸性とし、従来塩基性と言われた製剤もこの分類に入れた。非酸性製剤は諸外国ではその評価は低く、ほとんど使われていない。

 非酸性剤では急性炎症と疼痛を抑制するが抗リウマチ作用はなく、酸性剤に比べて適応範囲は狭い。    

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 塩基Baseと塩Saltでは作用上に違いはなく、いずれも塩基になって作用するものと考えられている。ただ、塩にすると水に溶け易くはなるが、脂溶性は低下し、生体膜透過性は減弱する。従って、塩として認可されているNSAIDsを、皮膚吸収剤として利用することは困難である。これは薬局製剤で内用剤を外用剤にする場合(保険では認められないが)の留意点の一つである。

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2.非ステロイド性消炎鎮痛剤の作用機序  

 NSAIDsの作用は鎮痛・消炎、解熱、抗血小板作用であるが、臨床においては、鎮痛・消炎の目的で使われることが多い。

(1)非ステロイド性消炎鎮痛剤のCOX阻害作用 

 NSAIDsの薬理作用の本体は、COXを阻害して、PGの合成を抑制し、炎症部位に対して消炎・鎮痛作用を示すことにある。このPGの合成抑制作用と抗炎症作用とはほぼ比例することが認められている。

(2)COX阻害以外の作用

 NSAIDsの作用機序は、COX阻害作用のみがすべてではない。例えば、アスピリンは低濃度でもPG産生を抑制するが、その血中濃度では抗炎症作用は得られない。また、アスピリンのCOX阻害作用は非アセチル化サリチル酸に比べて、非常に強力であるにもかかわらず、慢性リウマチ患者に使うと臨床効果はほとんど同等である。また、PGE類は炎症起因物質であるが、一方、一部の炎症モデル動物では逆に抗炎症作用を示すことが知られている。これらからNSAIDsの作用機序がCOX阻害のみでは説明できないことを示している。

(3)関節リウマチの関節外症状

 現在、NSAIDsの大多数は、程度の差はあっても、COX阻害によるPG生成抑制作用を有すると考えられている。

 これに対してステロイドは、ホスホリパーゼA2 の活性を阻害して、細胞膜からアラキドン酸の遊離が阻止し、その結果、COX代謝系ばかりでなく、リポオキシゲナーゼ代謝系も完全にその作用が抑制されて、PG、トロンボキサン(TX)、 LT及びHETEなどがすべて生成されなくなるため、特に強力な抗炎症効果が発揮されるものと考えられている。

HETE:hydroxy-eicosatetnsaidsenoic acid
〔表 3〕抗炎症剤一般の作用機序
製剤群 作用点
◇ステロイド剤
  プレドニゾロン
  デキサメサゾン
  コルチゾ−ル
・ホスホリパーゼA2 の活性化阻害
・カリクレインからキニンの生じる過程の阻害
・白血球の血管壁接着と血管外への遊出を阻害
・ライソゾーム膜の安定化
◇非ステロイド性消炎剤
  アスピリン
  インドメタシン 他
・多くはアラキドン酸カスケードの阻害
・一部のものは作用点不明、その他



3.シクロオキシゲナーゼ阻害剤 

 酸性のNSAIDsの薬理作用の本体は、アラキドン酸よりPGが合成される代謝経路(アラキドン酸カスケード)における律速段階の酵素の 1つであるシクロオキシゲナーゼcyclo-oxygenase(以下:COX) 活性を阻害して、PGの生成を抑制することにより炎症部位において消炎・鎮痛効果を発揮する。

 なお、COXは1976〜77年にウシやヒツジの精嚢腺から精製されて以来、多くの酵素学的解析が行われている。

(1)アスピリンと他のNSAIDs

 アスピリンと他のNSAIDsとの最大の違いは、血小板機能に対する抑制作用である。アスピリンはCOXを不可逆的に不活化するが、他の多くのNSAIDsは可逆的、拮抗的にCOXを阻害する。

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 血小板にはタンパク合成作用はほとんどないので、一度COX活性を失った血小板は寿命( 8〜11日)が終わるまで機能は抑制されたままである。このため、40r/日程度の少量*のアスピリンでも心筋梗塞、脳梗塞などに対する治療効果がある。

 アスピリンの抗血小板用としての承認用量:
    81〜324r/1日 1回。この量では抗炎症作用は期待できない。

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(2)PGエンドペルオキシド合成酵素(PES)とは  

 PGエンドペルオキシド合成酵素(PES)は、COXとヒドロペルオキシダーゼという 2種の活性をもつ酵素の総称で、国際生化学分子生物学連合の酵素命名委員会の公式名称である。

 COXはアラキドン酸からPG-G2を産生する酵素であり、アラキドン酸に 2分子の酸素を付加して環状の炭素鎖を作る。また、PG-G2を還元し、水酸基を持つPG-H2を産生するヒドロペルオキシダ−ゼ活性も合わせ持っており、アラキドン酸からPG-H2にいたる 2段階の反応を行っている。    

 従って、厳格な区分ではCOXは前半の反応を行う酵素活性を指す。通常COXと言えば、COXとヒドロペルオキシダーゼと 2つの活性をあわせ、アラキドン酸からPG-H2に至る反応を触媒する酵素全体のことを表すので、正式にはPESと言うべきである。

 COXは活性部位にセリンをもつ酸素添加反応触媒酵素であって、アラキドン酸の11位と15位の炭素に酸素の挿入を触媒する。なお、セリンプロテアーゼとは活性部位にセリンをもつタンパク分解酵素の総称で、 1分子中 1個のセリンが選択的に修飾されて完全に失活する。高等動物の消化酵素の多くがこれに属し、トリプシン、キモトリプシン、プラスミン、トロンビンなどがある。

 組織に種々の起炎性刺激が加えられると、ホスホリパーゼA2 の活性化が起こり、この酵素が細胞膜のリン脂質からアラキドン酸を遊離させる。遊離したアラキドン酸からはCOXにより、PGsやTX-A2、リポキシゲナーゼ経路によりロイコトリエン(LTs)やその他、薬理活性物質が順次生成される。これをアラキドン酸カスケードと呼び多くの酵素が関与する。

アラキドン酸カスケード:ansaidschidonic cascade    cascade:小滝
 細胞膜が化学的あるいは物理的刺激を受けて障害されると、ホスホリパーゼA2が活性化され、細胞膜のリン脂質からアラキドン酸が産生される。このアラキドン酸はCOXの作用によりPG-G2となり、アラキドン酸カスケードと表現されるように生体内に種々のPG活性物質が作られる。これらはいずれも産生された近くの細胞、組織に作用するオータコイドautacoidであり、種々の生理機能、生体反応の発現に関与する。

(3)COXの構造と活性

 COXの遺伝子クローニングが1988年に行われ、その後、1991年にそのアイソザイムが発見され、COX-1とCOX-2の2種類のサブタイプが存在することが判明 した。さらに、2002年にCOX-1由来のタンパクであるCOX-3の存在が示唆され、アセトアミノフェンがこのCOX-3を抑制することが判明してきた。

@COXの構造
COXにはCOX-1とCOX-2は、いずれもアミノ酸数約 580から 600で、分子量約 7万の鉄を含むヘムタンパク質であり、別々の遺伝子産物であるがアミノ酸配列のホモロジーは約70%と高く、活性中心のアミノ酸配列や、アセチル化を受けるセリン残基の場所、C末端のアミノ酸配列など、立体構造上も類似性が高く大きな違いはない(ヒトのCOX-1遺伝子は第 9染色体上に、COX-2遺伝子は第 1染色体上にマップされる)。
COX-1とCOX-2のいずれも、N末端からシグナル・ペプチド−上皮成長因子(EGF)様ドメイン−膜結合ドメイン−触媒ドメイン−小胞体移行シグナルの5つの部分から構成され、これらが 2量体を形成して活性を示す。
この中で酵素活性の中心となるのは触媒ドメインで、COX活性はこの部分に含まれるヘム鉄が、近くのチロシン残基( 385位)から電子を引き抜き、チロシンラジカルを形成し、アラキドン酸と反応することにより発現するとされている。
この触媒ドメインのCOX活性部分は、COX-1に比べてCOX-2の活性部分の方が若干広いことが指摘されており、COX-2の 509番目のバリンがCOX-1では 523番目のイソロイシンに相当することになり、これにより活性中心の横にあるポケット様の構造が、COX-1では蓋をされるようになって、活性部分を狭めている。

ACOX-1とCOX-2の違い
COX-1は正常状態では恒常的に血管内皮細胞や胃粘膜上皮細胞に発現し、胃粘膜保護や腎血流量の増加、血小板作用など生体維持に関与する構造的COX(構成酵素)であり、細胞膜付近の小胞体に認められ、多くの細胞に存在する。

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これに対しCOX-2は正常時にはほとんど存在せず、ホルモン、サイトカイン、エンドトキシン、成長因子、発ガン因子などによって一過性に誘導され発現する。  
つまり、炎症時に局所的に発現(誘導)することから誘導的COX(炎症性COX)とされる。その産生は核で行われ、細胞内では小胞体とともに核膜にも存在する。

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COX-1とCOX-2は由来する基質に違いがある。COX-1は主として細胞外から供給される多量のアラキドン酸を基質とする。COX-2は細胞膜からホスホリパーゼA2 によって切り出されるアラキドン酸を基質とする。この由来するアラキドン酸の違いは、両酵素の基質に対する親和性の差が考えられており、COX-2の方がアラキドン酸に対する親和性が高いため、ホスホリパーゼA2によって細胞内に遊離された少量のアラキドン酸に対しても反応するものと考えられている。

BCOX-1の活性
COX-1は胃粘膜においては、食物などから供給されたアラキドン酸を基質として、胃粘膜細胞のCOX-1からPG-E2が産生され、胃酸分泌抑制、胃粘膜血流増加、粘液分泌亢進などの作用により胃粘膜保護作用を示す。
血管では血管内皮細胞によりPG-I2が産生され、血管拡張作用、血栓溶解作用などにより血管内の血流の維持に関与するとされている。さらに血小板には核がないためにCOX-2は存在せず、出血時の血小板凝集に必要なTX-A2の産生には、COX-1のみが関与する。
この他にも腎血流量の維持、針を刺した時のような急激で反射的な痛みの発現、細胞障害時の急性炎症などに対してもCOX-1が関与することが指摘されている。
細胞質のホスホリパ−ゼは活性化されると核膜に移行し、アラキドン酸の切り出しを行うが、COX-2は小胞体とともに核膜にも多く認められるので、COX-2 のみがこれらの細胞質ホスホリパーゼの反応に連動しているとの指摘もある。しかし、細胞膜から切り出されたアラキドン酸でも、量が多い場合にはCOX-1による反応が起きる可能性もある。

CCOX-2の活性
COX-2は酵素活性の発現には少なくとも 1〜2時間を要するので、恒常的な機能や瞬間的な生理的反応に必要なPGの産生には対応できない。このためCOX-2が関わるのは、主として刺激に対して一定時間経過後にPG-E2の産生を通じて発現する急性炎症の初期相である。炎症部位でのCOX-2、PG-E2の産生細胞は単球、好中球とされ、細胞当たりのPG-E2の産生量は単球の方が約10倍であるが、細胞数は好中球の方が多いので、両細胞から産生されるPG-E2は同量となる。
COX-2の機能は炎症に代表され、気管支喘息のモデルで抗原チャレンジ後 3〜6 時間で、COX-2で染色された好酸球が気道上皮下に観察される。また、培養肥満細胞をサイトカインなどで刺激すると遅発相でCOX-2の発現と相関して、PG-D2産生が認められることが示されている。
一般にCOX-2のIC50と最大 1日投与量はよく相関しているので、これによってもNSAIDsの抗炎症効果はCOX-2阻害活性に依存していることが分かる。また、COX-1/COX-2比は、大規模臨床試験における重症消化管障害の発症率とよく逆相関している。しかし、COX-1阻害も鎮痛効果には重要とする説もあり、COX-2選択剤が常に勝るとは断定できない。

COX-2はサイトカインのような炎症刺激により誘導されて疼痛、浮腫をきたすPGを産生する。このCOX-2は、炎症部位のみならず、大腸ガン、アルツハイマー病の脳組織などに発現している。NSAIDs服用者にはこれらの疾患が少ないという疫学研究もあり、現在、種々のCOX-2阻害剤で臨床試験が行われている。しかし、明らかな有用性を示した報告は少ない。
  :COX-2抑制剤が血管新生を抑制して抗ガン作用を発揮したり、アルツハイマー病の進行を遅らせる可能性がある。
また、骨粗鬆症における骨吸収にもCOX-2が関与していると報告されている。
NSAIDsにはCOX阻害以外の作用も知られており、NSAIDsの適応疾患は今後さらに拡大するものと予想される。
中国でリウマチに使われている雷公藤は、直接のCOX阻害活性はない。しかし、COX-2の発現を選択的に抑制する作用がある。

(4)COX阻害剤

 従来のNSAIDsは、いわゆるdual inhibitorであって、COX-1とCOX-2の両方を阻害(どちらかと言えばCOX-1の阻害の方が強いものが多い)するため、生体維持に必要なPG合成阻害となり、胃腸障害や腎障害が避けられなかった。

 例えば、インドメタシンなどの非選択的NSAIDsは COX-1、2の両方の活性を抑えるため、胃粘膜などのPG-E2の産生を低下させ胃潰瘍などの障害を引き起こす。

 NSAIDsの消炎・鎮痛作用や解熱作用を発現するためには、COX-2に対する抑制作用が必要で、一方、COX-1に対する作用は胃粘膜保護作用や血小板凝集を抑制し、胃粘膜障害、出血傾向などの副作用に関わることが推測されている。従ってNSAIDsでは、特にCOX-2に対する選択性が高いものほど効果があり、COX-2阻害剤の有用性が注目され、COX-1の阻害に起因する副作用の軽減が期待されている。

 COX-2は胃においては潰瘍の治癒を遅延させることが報告されているが、また、逆にCOX-2受容体阻害剤は前投与によりインドメタシンによる潰瘍形成を阻止するので、副作用の少ない消炎鎮痛剤として期待されている。大腸ガンではCOX-2の発現が亢進しており、NSAIDs投与によりガンの進展抑制を認めることが明らかにされている。他にも排卵・分娩、骨吸収などへの関与が言われている。

 米国ではCOX-2選択性の高いセレコキシブ(日本では現在製造承認申請中)、バルデコキシブが市販されている。日本ではCOX-1とCOX-2を同程度に阻害する製剤として、1990年にナフタレン系のナブメトン(レリフェン)、1993年 にプロピオン酸系のザルトプロフェン(ソレトン)、1994年にCOX-2を選択的に阻害する(いわゆる優先的COX-2阻害剤)ピラノ酢酸系のエトドラク(オステラック、ハイペン)、 2001年にメロキシカム(モ-ビック) が承認されている。エトドラグはCOX-1に比べて、COX-2に対しては、10倍の選択的阻害作用をもつ。COX-2とCOX-1の選択性の比はメロキシカムは 3倍程度であるが、セレコキシブは375倍と選択性に差があるが、試験系によってCOX-2とCOX-1の比が異なるため、確定していない。

〔表 4〕COX阻害活性の比較
@COX-2阻害活性が強いもの:
 メロキシカム(モービック)、エトドラク(オステラック)、ジクロフェナクNa(ボルタレン)
 慢性関節リウマチ患者における重症消化管障害合併率に関しては、COX-2選択性が強いほど安全性が高い。
ACOX-1とCOX-2を同程度阻害:
 ザルトプロフェン(ペオン、ソレトン)、ロキソプロフェン(ロキソニン)、ナブメトン(レリフェン)・・・・活性代謝物 イブプロフェン(ブルフェン)
BCOX-1阻害活性が強いもの:
 インドメタシン、アスピリン、オキサプロジン(アルボ)

 その他、COX-2特異的阻害剤として報告された化合物には、ニメスリド、フロスライド(CG2P-28238)、L-745337、FK-3311、T-614、Dup-697、SC-58125、NS-398などがあるが、高度選択的COX-2阻害剤セレコキシブは未だ承認されていない。 ただ、COX-2だけを抑制すると解熱作用は減弱する。

 炎症反応には主としてCOX-2が関与しているため、COX-2特異的阻害剤は副作用の少ない理想的な薬剤と思われがちである(グルココルチコイドはCOX-2の発現のみを抑制する)。しかし、胃の部位によっても、また、肝、腎糸球体のヘンレ係蹄などにもCOX-2が見られるため、COX-2の特異的阻害剤が汎用された場合でも、胃や肝、腎に障害が起こる可能性について考慮しなければならない。


4.非ステロイド性消炎鎮痛剤の適応

 NSAIDsの一般的な適応範囲は、@リウマチ性疾患 Aその他の痛み(頭痛、生理痛、歯痛など) B解熱 C抗血栓 DPG関連疾患などである。

 疼痛や発熱を伴う上気道炎症や術後疼痛などの急性炎症、関節リウマチをはじめとする運動器疾患では、first choiceの製剤として使われる。

(1)解熱の適応のない非ステロイド性消炎鎮痛剤の適応疾患

 NSAIDsは解熱鎮痛消炎剤(114)として統括されているものの、すべての製剤に鎮痛消炎及び解熱の適応があるわけでない。解熱の適応のないものもある。

〔表 5〕解熱の適応のない非ステロイド性消炎鎮痛剤
分類 製剤一般名(主な商品名)
サリチル酸系 サリチルアミド、サリチル酸Na
インドール系 インドメタシン坐剤(インダシン、インテバン)*-1、インドメタシン ファルネシン(インフリー)、スリンダク(クリノリル)
フェニル酢酸系 アンフェナクNa(フェナゾックス)、ジクロフェナクNa(ボルタレン-SR)・・・・ボルタレン錠、サポ-には解熱の適応がある。
フェニルプロピオン酸系 アルミノプロフェン(ミナルフェン)、オキサプロジン(アルボ)、 フルルビプロフェン(フロベン)、ザルトプロフェン(ペオン)、
持効型ケトプロフェン(オルヂスSR、メナミンSR)
オキシカム系 テノキシカム(チルコチル)、ロルノキシカム(ロルカム)、メロキシカム(モ-ビック)
非酸性系鎮痛剤 エモルファゾン(ペントイル)、エピリゾール(メブロン)、塩酸チアラミド(ソランタ-ル)
*-1:経口剤には解熱の適応がある

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(2)非ステロイド性消炎鎮痛剤の再評価

 1994年 9月 8日、NSAIDsなど32種類、 681品目の解熱鎮痛消炎剤の再評価結果の発表があり、アスピリン、イブプロフェンなど27種類の製剤について、これまで「かぜ症候群」、「感冒の解熱」、「上気道炎」などバラバラだった“かぜ”に関連する表現が、「急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)」という限定した記載に統一され、用法・用量も、使用はすべて「頓服」となり、回数も「原則として 1日 2回まで」と制限された。これは急性上気道炎は自然治癒の強い疾患であり、安全対策の見地からNSAIDsの投与は必要最小限にすることとされたためによる。

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 ただ、頓服投与は急性上気道炎に使用する場合で、慢性関節リウマチ、神経痛、背腰痛、頚腕症候群や手術並びに外傷後の消炎・鎮痛などに使用する場合は従来と同じである。

 なお、長時間持続型のナプロキセン(ナイキサン)、 ピロキシカム(フェルデン、バキソ)は“かぜ”への適応が削除された。理由は、体内半減期が長いので、かえって副作用の発現するおそれがあるとされ、用法・用量が頓服の場合でも、 1日 1回であることによる。


5.非ステロイド性消炎鎮痛剤の使用の実際

 「何が一番効果があるか?」という質問が多いが、現段階においては、すべてに一番効く製剤はなく、抗炎症効力は副作用発現と比例していると言われるので、抗炎症効果の強い製剤は必ずしも良い製剤とは言えない。

(1)非ステロイド性消炎鎮痛剤の一般的な使用原則

 使用する目的は何かを明らかにし、NSAIDsによる治療が原因療法でなく、対症療法であることを認識して、患者に適応した製剤を選択する。

@臨床の処方計画による選択:  
 医師は患者の次のような症状に応じて、それぞれ配慮して処方計画をたてる。

  1. 鎮痛のみに対して:
    単に鎮痛効果を求める場合、つまり肩、腰などの単純な疼痛に対しては、アントラニール酸系のメフェナム酸、フェニル酢酸系のジクロフェナクNa、プロピオン酸系のイブプロフェンを選択する。
    メフェナム酸は鎮痛作用が主体で急性炎症の疼痛に対して広く使用されているが、抗炎症作用は弱いので、抗リウマチ剤として使われることは殆どない。従って、アントラニール酸系では、フルフェナム酸Alがリウマチに使われる。
    一般に一時的な疼痛、急性疾患、臓器障害、老人等の場合には、半減期の短いスリンダク、プロピオン酸系剤が、胃腸障害のある場合にはプロドラッグ型、 プロピオン酸系剤が使われる。
  2. 鎮痛・消炎・解熱に対して:
    これは、腱鞘炎、関節炎、軽いリウマチに対するもので、この場合はアスピリ ン、プロピオン酸系のイブプロフェン、ナプロキセンなどを選択する。
    アスピリンを除いて胃腸障害は少ない。
  3. 慢性炎症に対して:
    炎症が強く、特に慢性炎症に属する疾患に対してはインドメタシン、スリンダク、ピロキシカムなどを選択する。リウマチ専門病院で実際にリウマチに投与されているNSAIDsは、スリンダク、インドメタシン、ジクロフェナクNa、ロキソプロフェン、ピロキシカムの順で、この 5種類で全NSAIDs量の大部分を占めている。特に疾患活動性コントロ−ルの面からの検討では、スリンダク、ピロキシカム、ロキソプロフェンが最も優れており、次いでインドメタシン、さらにジクロフェナクNaであるとの報告がある。つまりリウマチという極めて難治性で、関節の疼痛を主訴としている疾患の場合、切れ味の優れたものが選ばれるからであろう。
    慢性関節リウマチには 150〜200μg/mlのアスピリン血中濃度が必要であるが、200μg/ml以上の濃度になると耳鳴りが生じる。また、長期にわたるアスピリンの投与は、胃腸障害を併発するので好ましくない。
    ピラゾロン系製剤は慢性炎症には有効であるが、副作用に注意を要するために長期投与には適当でない。
    一般にNSAIDsの長期投与の場合、特に 4週以後に肝障害を生じることがあるので、なるべく短い期間の使用が望ましい。長期投与の場合には肝機能検査を時々行う必要がある。製剤を変更することも薬効の上では必要である。
  4. 筋弛緩効果を求めて:
    これにはb.に記載された製剤を用いる。さらにマイナートランキライザ−の併用も効果がある。マイナートランキライザーには筋弛緩作用があるので、効果はあるが、眠気に注意する。

ANSAIDsの分類とその特徴を知り、有用性のある製剤を選択:

  1. 酸性剤と非酸性剤による選択:
    酸性剤の作用部位は末梢で、消炎、鎮痛、解熱作用の他に抗リウマチ作用があるために、急性炎症から慢性炎症まで幅広く有効である。
    生体内で唯一の酸性と言ってよい場所は胃と尿細管であるが、酸性剤は胃内や尿細管内では非イオン体が多く、細胞膜を通過しやすいので、それらの細胞を障害する危険性が高く、特に胃内では pHが低いためその傾向が強い。尿細管内では尿酸と吸収における競合拮抗を起こし、尿酸排泄作用を示す。
    非酸性剤では急性炎症と疼痛を抑制するが抗リウマチ作用はなく、酸性剤に比べて適応範囲は狭い。
  2. 剤形(DDS製剤など)による選択:
  3. 作用時間(血中濃度の推移)による選択:

B製剤選択にあたって、患者の既往歴、アレルギー歴、合併症を考慮:

C用法、用量は症状の強さ、年齢、肝・腎機能によって投与:

D副作用を定期的にチェックし早期発見に努力:

E薬物相互作用に配慮: ⇒相互作用
 アスピリンと他のNSAIDsとの併用は、胃腸管からの吸収を抑制して、血中濃度が上昇しない。例えば、アスピリンとインドメタシンを同時に投与すると、効果は相殺される。

F製剤の変更: ⇒NSAIDsは 1剤投与が原則
基本骨格が同じグル−プはその作用が似ているので、製剤を変更する場合には違った基本骨格のものを選択する。
なお、NSAIDsは 1剤投与が原則で、NSAIDs同士の 2剤の併用は、薬効の増強や副作用の分散を目的とするには意味がないと言われている。生体内で起こる薬物の相互作用の結果、逆に薬効の低下、中毒などの副作用発生を示すことがあるので、原則は 1剤投与である。

:NSAIDsはCOX阻害という作用機序が共通しているために、 2剤併用すれば、効果は増強されるが、各々の常用量を使えば、 2倍量が投与されたことになる。従って、単剤で注意しながら増量した方が実際的である。

(2)適用において注意すべきもの      ⇒患者背景によるNSAIDsの選択

 添付文書における禁忌例については使用を避けるが、次の疾患を持つ患者には原則的に使用を避けるべきであるが、特に連用する場合には十分注意する。

@消化性潰瘍: (胃の弱い人を含む)
  ⇒可:坐剤、経皮吸収剤、徐放剤、腸溶剤、プロドラッグ、COX-2阻害剤 、プロピオン酸系
NSAIDsにおいては、消化性潰瘍のある患者は投与禁忌となっている。長期投与における胃潰瘍及び十二指腸潰瘍に適用のあるミソプロストール(サイトテック)も開発されているが、消化性潰瘍に対して十分注意する。
  ミソプロストール(サイトテック)の効能・効果:  原則としてNSAIDsを 3カ月以上長期投与する必要がある関節炎患者の胃潰瘍及び十二指腸潰瘍
PG-G2からPG-H2への変換には、活性酸素の一つである水酸ラジカルが放出され、組織障害の原因と考えられている。

A重篤な血液異常: ⇒出血傾向のある場合はCOX-2阻害剤
 血液の異常をさらに悪化させるので注意する。

B肝障害
  ⇒可 :経皮吸収剤、坐剤、半減期の短いもの、構造の簡単なもの
    不可:プロドラッグ、インドメタシン、ピラゾロン系、構造の複雑なもの
NSAIDsによる肝障害の多くは、免疫学的機構に起因する過敏性反応によるものであるが、肝障害時にはこの反応が重篤化しやすい。
肝障害時にNSAIDsの血漿中消失半減期が延長する時は勿論、変化がない時も十分に注意する。重篤な肝障害がある患者には投与しない。また肝障害またはその既往歴のある患者には慎重に投与する。プロドラッグは効果低下?

C腎障害
    ⇒可 :スリンダク、プロピオン酸系、半減期の短いもの、経皮吸収剤
     不可:半減期の長いもの、ピラゾロン系、ピロキシカム
腎障害患者では腎機能のPG依存性が高まっており、NSAIDsによるPG産生阻害により、さらに腎障害が生じやすい。しかも、腎障害患者では薬剤排泄能が低下しているので、特に腎排泄型の長期作用型の製剤は注意する。
PGが腎血流量の調節、糸球体濾過量の調節、血圧調節の作用を担っている。この作用が強く発揮されるのは浮腫のある場合や、利尿剤投与時である。即ち、心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群などで浮腫が生じ、有効循環血液量が減少している場合や、腎障害で腎血流が減少している場合である。このような場合にはレニン・アンジオテンシン系の機能亢進が生じ、これに拮抗して腎血行動態を維持するために、腎のPG生合成が亢進する。このような状態でNSAIDsを投与すると、腎でのPG生合成が阻害されることになり、浮腫は増悪し、腎機能がさ  らに悪化するおそれがある。また、プロベネシドなどが投与されている場合も注  意が必要である。
従って、なるべく腎でのPG産生に影響を与えない製剤を選択する。腎PGを選択的に阻害せず腎機能への悪影響がないと報告されているのはスリンダクである。

D心機能不全
PG合成阻害作用による水、Na貯留傾向があるため、心機能不全が更に悪化。

E重篤な高血圧症
PG合成阻害作用による水、Na貯留傾向があるため、血圧を更に上昇。

F本剤成分に対する過敏症
NSAIDs使用による過敏症の既往歴の者には禁忌であるが、アレルギーのある患者には構造の簡単なものを選択して十分に注意する。

G直腸炎、直腸出血または痔疾: ⇒症状を悪化させる

Hアスピリン喘息の既往:アスピリン喘息の発症機序

I高齢者
  ⇒可 :半減期の短いもの、プロピオン酸系、スリンダク、経皮吸収剤 COX-2阻害剤
    不可:半減期の長いもの、ピラゾロン系、ピロキシカム

  1. 腎PG合成系への影響の少ないアリルプロピオン酸系、スリンダクなどを選択
  2. 投与量は常用量の1/2〜2/3程度から開始し、必要に応じて漸増する。長期使用にあたっては、時々有効性と自覚的副作用をチェックし、有効であれば投与量あるいは投与回数を減らす
  3. 健忘症の高齢者については過量服用などの誤服用のないように注意する
  4. 可能な限り全身投与より局所投与に切り替え、病変部が浅く限局している時は外皮用剤が安全である
  5. NSAIDsが食道に停留することによって起こる薬剤性食道潰瘍に注意する。

高齢者等ではNSAIDsによる消化性潰瘍の合併症(穿孔、出血等)の危険性が高いので、ミソプロストールと併用投与する場合は経過を十分に観察する。

J妊婦・授乳期: ⇒不可:インドメタシン、アスピリン
なるべく用いない。やむを得ず使用するときはやや少量とする。

Kワ-ファリン、トルブタミド使用者:  ⇒1日量の少ないもの(ジクロフェナク、ピロキシカム)

(3)効果判定と変更・中止の目安

 臨床ではNSAIDsに対する感受性は、人によって大きく異なり、responderと non-responderがあると言われて、NSAIDsの有効性は患者間の差が大きく、薬剤間の差より大きい。また、副作用の発現は個々の患者及び疾患によって異なる。

 このようにNSAIDsの有用性(薬効と安全性)は個体差が大きいので、使用に伴う効果判定は重要である。

 一般に効果判定は急性疾患では 2〜 3日、慢性疾患では 2〜 4週間後に行い、効果がみられない場合、あるいは副作用発現例では、異なる分類群の非ステロイド性消炎鎮痛剤へ変更する。

 一般にNSAIDsの場合、きわめて効果のあるのは、全症例の10%以下とされているが、NSAIDsの症状改善度の標準は次のように報告されている。

@著明改善(著効)   :10%以下
A中等度改善(有効以上):20〜40%
B軽度改善(やや有効) :50〜70%

 NSAIDsの変更・中止は急性上気道炎、歯痛などでは、数日以内の短期投与が多いので問題にならないが、慢性疾患では長期投与されるので、変更・中止のタイミングが問題になる。

 重症消化管障害や腎障害を合併した場合、危険性が期待される効果より明らかに上回るので、NSAIDs投与は直ちに中止する。胃潰瘍があってもNSAIDsの投与をどうしても続けなければならない場合であっても、NSAIDs投与は対症療法であることを重視すべきであろう。

 慢性疾患に対して 2週間以上投与しても効果が不十分な場合、他のNSAIDsに変更して効果が得られることもある。


6.DDS(drug delivery system)

 DDSとは、薬物を必要とする組織などに効率よく配送するシステムであり、薬物の有用性を高める手段であるが、NSAIDsの場合は消化管障害の軽減が主な目的となっている。

 一般に従来型の製剤は、副作用の発生頻度が高いので、腸溶剤、徐放剤、プロドラッグ、ニトロキシブチル基の導入及び経皮吸収型製剤などが開発され、患者の病態に対応した剤形が選択されている。

 プロドラッグとは、薬物を化学的に修飾した誘導体で、それ自体は生理活性を示さないが、投与後、体内で代謝されて、元の活性体に復元して薬効を示す製剤技法である。つまり活性体の化学構造を修飾して、不活性の前駆体として用いるもので、その目的としては、薬物の安全性、吸収性の増大、作用の持続化、臓器指向性の向上などが挙げられる。

 NSAIDsは胃粘膜局所ではCOX-1を阻害するため、防御因子としてのPG 産生を抑制して消化管障害を起こしやすい。種々のDDSの技法による製剤が開発 されているが、血中を介して胃粘膜に到達したNSAIDsによる消化管障害は完 全には阻止できない。

 ミリダシン、レリフェンは薬物として投与される前駆体は非酸性化合物で、活性体は酸性化合物となる。ロキソニンはプロドラッグで、tnsaidsns-OH体が活性型であるが、前駆物質の未変化体にも抗炎症作用があると言われている。

問題(10)にもどる

 このようにプロドラッグにすれば、消化管への吸収時の直接刺激によるPG合成阻害作用を防止し、胃障害などは確かに減少するが、多くは吸収時あるいは肝で非可逆的代謝を受けて産生された活性体が血中に入り、胃粘膜に運ばれてからの活性体によるPG合成阻害作用は防止できない。このことは坐剤や注射剤でも同様である。ただ、クリノリルだけは可逆的で、炎症の場では活性体スルフィド体(RSR´)になって作用するが、腎、胃では非活性体が多く、スルフィド体が接触しないので、腎や胃障害を起こすことは少ないと言われている。


7.妊娠中の非ステロイド性消炎鎮痛剤の使い方

 NSAIDsは胎盤をよく通過する。例えばインドメタシンは、家兎母体に投与後15分以内に胎仔血中に検出され、 120分以内に母体血中の50%に達することが報告されている。

 NSAIDsの最も重要な作用機序は、PGの生成阻害作用であるが、この機序のために、胎児に次のような影響が知られている。

@胎児尿量の減少、羊水減少、fetal distress(胎児切迫仮死)、羊水混濁、胎児死亡
     fetal:胎児の  distress:苦痛
A早期の動脈管閉鎖、持続肺高血圧症、持続胎児循環症
B予定日超過、分娩変遷

 動脈管は胎児循環の最も大切な経路で、出生後、肺呼吸の開始とともに速やかに収縮し、ヒトでは10〜15時間で機能的に閉鎖するとされる。PG-EやPG-Iは、動脈管が開存したままでいるのに関与しているものと考えられている。

 妊娠中にNSAIDsが投与されると胎児に移行し、PGの生成阻害を介し動脈管が収縮する。このため胎児では肺高血圧と右心不全が生じる。この状態が新生児期にも持続し、持続肺高血圧症(persistent pulmonary hypertension) と持続胎児循環症(persistent fetal circulation:PFC)が起こり、新生児に強いチアノ−ゼが生じ、20〜40%の児が死亡するという。

〔表6〕妊娠中の非ステロイド性消炎鎮痛剤の使い方(佐藤による)
@非妊娠時と同様の注意で処方してよい薬剤:
  アセトアミノフェン*-1(ピリナジン、カロナール、アンヒバなど)
A非妊娠時と異なる特別な注意*-2同様の注意で処方してよい薬剤:
  アスピリン(アスピリン、バファリンなど)、インドメタシン*-3(インダシンなど)、ケトプロフェン(メナミン、カピステンなど)、
 ジクロフェナクNa(ボルタレン、ナボールなど)、フェンブフェン(ナパノール、アンフェットなど)、プラノプロフェン(ニフランなど)、
 メフェナム酸(ポンタールなど)、ロキソプロフェン(ロキソニン)
B妊娠中は処方してはならない、あるいは処方しない方がよい薬剤*-4
  スルピリン(メチロンなど)、ミグレニン、チアプロフェン酸(スルガムなど)、イブプロフェン(ブルフェンなど)、
  ピロキシカム(フェルデン、バキソなど)、 オキサプロジン(アルボ、アクチリンなど)、ナプロキセン(ナイキサンなど)、
 スリンダク(クリノリルなど)
*-1:NSAIDsに入れない場合もある。
*-2:妊娠初期の使用に関しては、催奇形性などは報告されていない。妊娠後半期に関しては、NSAIDsとしての共通の問題がある。
*-3:インドメタシンは添付文書では投与しないことになっている。しかし、その薬理作用の重要性から、非妊娠時とは異なる特別な注意が必要だが、処方してよい薬剤に含めた。もし、アセトアミノフェン以外のNSAIDsが必要な場合は、使用経験の豊富さから考えて、アスピリンが選ばれる。
*-4:妊娠中は処方してはならない、あるいは処方しない方がよい薬剤は、添付文書上、妊娠中(あるいはその一期間)は投与しないこと、若しくは投与しないことが望ましいとなっているものを含める。

〔文献〕

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鈴木・山本:COXの酵素としての性質,治療学 Vol.30 No.12,9-13,1996.

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森田 育男:COX-1とCOX-2,医学のあゆみ Vol.196 No.3,175-179,2001.

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