睡眠時無呼吸症候群について

 


 最近では睡眠時の無呼吸、低換気、酸素飽和度低下、周期性呼吸、不規則呼吸などを包括して睡眠呼吸障害としている。睡眠時呼吸障害は古くから知られていたが、1970年代後半以降に特に注目されてきた。


1.睡眠時無呼吸症候群とは  

 米国では、スリーマイル島の原発事故、アラスカ沖のタンカー座礁事故、高速道路での大型トレーラーの事故などの原因の一つとして、寝不足や睡眠障害が考えられていたが、さらにスペースシャトル・チャレンジャー号の事故原因がNASA職員の睡眠障害などに問題があったことに着目し、いち早くこの問題に取り組んでいる。また、睡眠障害研究委員会の調査では、ハイウエーなどの事故から心疾患など の治療費まで、睡眠障害による国家的損失は1989年時点で少なくとも年間 159億ドル以上と報告されていた。

注:睡眠時無呼吸症候群 :Sleep Apnea Syndrome(SAS)
  閉塞型睡眠時無呼吸症候群:Obstructive Sleep Apnea Syndrome(OSAS)

 米国では、「高血圧の治療で血圧がなかなか下がらない場合は、睡眠時無呼吸症候群(以下:SAS))の合併を調べる」ように医師に教育している。

 日本でも2003年 2月の山陽新幹線で起こった列車緊急停車事故の原因が、SASによる日中過眠による居眠り運転と判明して話題になっている。

(1)睡眠時無呼吸症候群の定義

 SASは、1976年、ギルミノー Guilleminault教授(米国スタンフォード大学)らによって提唱された睡眠時の呼吸異常で、これによれば睡眠時無呼吸とは、「睡眠時における10秒以上の鼻及び口における気流の停止」であり、SASとは、「 7時間の夜間睡眠中のレム期及びノンレム期の双方において、少なくとも30回以上の無呼吸(10秒以上の換気停止)が観察され、かつ反復する無呼吸がノンレム期で認められるもの」と定義された。

 しかし最近では 1時間当たりの無呼吸指数もしくは無呼吸低呼吸指数(AHI :apnea hypopnea index)が 5以上、かつ反復する無呼吸のエピソードがノンレム期にも認められるもの」の場合にSASと診断される。

無呼吸指数(AI:apnea index):
睡眠 1時間ごとに認められる無呼吸の回数を「無呼吸指数」と呼ぶ。
 

 「いびき」の大きい人の約70%に、睡眠中に何度も呼吸が止まるとの報告がある。無呼吸とは、前記のように呼吸に伴う気流が鼻孔あるいは口のレベルで、少なくとも10秒以上停止した状態で、いずれも無呼吸時に酸素飽和度が低下する。

問題(1)にもどる

 無呼吸は閉塞型、中枢型及びこの両者の混合型に分類する。

@ 閉塞型無呼吸:
  ⇒無呼吸のタイプで最も頻度が多く、無呼吸中、呼吸努力があり、胸郭の動きがみとめられるもの
睡眠中反復して上気道が閉塞して、呼吸をしようとしても空気が流れなくなる状態で、中枢型の方が重篤に思われがちであるが、実際に問題になるのは、閉塞型の方である。閉塞型睡眠時無呼吸の原因で多いのは、肥満、顎が小さく後退している顔面形態、大きな舌などの骨格上の特徴、扁桃腺の腫れ、脳卒中後遺症などがあり、特に大多数は肥満を伴う。
肥満特に内臓脂肪の増加には注意する。内臓脂肪は皮下脂肪の約 3倍のアディポサイトカイン産生能力がある。産生されたサイトカインのTNF-αなどは症状に影響を及ぼす。
日本人の特徴として、BMI(body mass index)>25 を超えると軽度の肥満でもOSASが多い。なお、内臓脂肪の過剰蓄積は、臍の部分での横断CTで内臓脂肪面積が 100p2(これを推定する基準として、ウエスト周径が男性では85p、女性では90p以上)が肥満の判定となる。
A 中枢型無呼吸:
  ⇒呼吸調節系の異常が主体。無呼吸中、呼吸中枢から呼吸筋への出力が消失するもの
呼吸が止まっているときに胸郭、腹壁で呼吸運動が認められない。中枢型無呼吸は、呼吸を調節する呼吸中枢の障害が原因で起こり、肥満していない高齢患者に頻度が高く、上気道閉塞を伴わない。
また、心不全(循環時間の遅延)や、心不全が軽度でも低酸素血症が加わった場合にも起きる。
B 混合型無呼吸:
  ⇒中枢型と閉塞型が混合。同じ無呼吸発作に、初めは中枢型、後に閉塞型に移行するもの
どのタイプが多いかにより、一般には閉塞型か中枢型に分けられる場合が多い。

〔参考〕米国の新しい睡眠時呼吸障害の分類:
    1999年の米国の新しい睡眠時呼吸障害の分類は次のようである。
    @閉塞型睡眠時無呼吸低呼吸症候群
    A中枢型睡眠時無呼吸低呼吸症候群
    Bチェーンストークス呼吸症候群
    C肺胞低換気症候群  

  

(2)睡眠時無呼吸症候群の疫学

 睡眠障害として不眠症とともにSASが重視されている。SAS、特にOSASに関する大規模な疫学調査が行われて、次第に病態が解明されてきた。

 日本では少なくとも慢性の睡眠障害の人が 1,000万人と推定されており、そのうちSASの患者は約 200万人(一般人口の 1〜4 %との報告もあり、これは気管支喘息の罹患率とほぼ同じ)と推定されている。なお、欧米では成人男性の約 4%、女性で約 2%と報告されており、重症例は働き盛りの40〜50歳代の男性に多いとされている。

問題(2)にもどる

 日本におけるSASの患者は、男性 9:女性 1の発症頻度と推定され、働き盛りの男性に多く、女性は少ないが閉経後には増加している。しかし、男性に比べるとOSASの予後は女性の方が悪いとの報告もときに見られる。

 無呼吸により夜間に呼吸が止まって、そのまま死ぬことはまずないが、無呼吸を放置しておくと、繰り返す無呼吸がトリガ−となり、著しい急峻な血圧上昇と心拍変動がみられ、心筋梗塞などの心血管系の疾患の発生が増えて、平均余命が短縮することが知られている。特に重症OSASを無治療で放置しておくと、OSAS自体が重症化するだけでなく、心血管障害、脳血管障害を合併し、これが原因となって死亡する例もある。

問題(3)にもどる

 欧米での調査では、無呼吸指数が20以上の例では、加齢とともに生存率が明らかに低下している。

 厚労省呼吸不全研究班の報告によれば、高度の肥満(BMIで30以上)、高度の傾眠、持続的な高炭酸ガス血症を伴った重症SASの患者は、肥満低換気症候群と定義され、通常のSASの患者より生命予後が悪いと発表している。

 欧米人と同じ身長・体重であれば、日本人のSAS患者の方が重症であるとされ、またSASに対する認識が浅く「すぐ居眠りをする怠け者」などと評価される。

(3)睡眠時無呼吸症候群の原因

 SASは呼吸調節系の障害のために、覚醒時にみられる随意調節が睡眠中にできなくなって発現するものと考えられている。

 SASのリスクファクターとして、肥満、アルコール多飲、喫煙、上気道感染などが関与している。また、ベンゾジアゼピン誘導体などの睡眠剤・鎮静剤は、上気道を支持する筋群の活動を抑制する可能性があるので(舌咽筋トーヌス低下、換気応答抑制などの作用)、呼吸機能が減弱した患者の閉塞型無呼吸を増悪する危険性があり、また、睡眠時に無呼吸症を起こしやすい高齢者などに不用意に投与すると、呼吸不全を起こし突然死するおそれがあるので注意する。しかし、BonnetやGuill minault らは、クロナゼパムなどの使用によって、無呼吸が減少したとする報告もあり、SASに対する睡眠剤の投与には十分注意する。

問題(4)にもどる

 SASの主な原因は、上気道の閉塞である。これは胸部と腹部に呼吸努力はみられるものの、空気の通路である上気道(軟口蓋*、舌、扁桃腺など)が塞がって呼吸ができなくなった状態で、完全に呼吸は止まっていないものの、呼吸が弱った場合(低呼吸)もある。また、場合によっては無呼吸が30秒〜2 分に及ぶこともある。

軟口蓋:上顎の奥の柔らかい部分、また口蓋垂はのどの中央の奥にある原因疾患としては次がある。
〔表 1〕睡眠時無呼吸症候群の原因疾患
A. 閉塞型睡眠時無呼吸
1.肥満      ⇒軟口蓋や咽頭壁に余分な脂肪が付き、気道を狭める
2.上気道の形態異常
 @扁桃肥大、アデノイド   ⇒リンパ組織の炎症による腫大
  A鼻中隔湾曲、軟口蓋下垂
  B下顎発育異常(小顎症、鳥顔・後退下顎など)
3.咽喉頭軟部組織の腫脹、炎症
 粘液水腫・末端肥大症・悪性リンパ腫・声門上喉頭浮腫・口蓋破裂形成術後など
4.機能的異常
 薬物(抗不安薬・睡眠薬など)・アルコール
B. 中枢型睡眠時無呼吸
1.脳幹発振中枢の異常(周期性呼吸・Cheyne-Stokes呼吸)
 @局所性脳障害(血管障害・腫瘍・感染など)
  A広汎性脳障害(変性疾患・感染・脱髄疾患など) Shy-Drager症候群の末期など
  B心障害(心不全・房室ブロックなど)
  C高所低酸素症
  Dその他
   筋緊張性ジストロフィー
2.脳幹呼吸中枢のリズム形成機構の生涯
  @脳血管障害(脳幹梗塞及び出血)
   Wallenberg症候群など
  A脳幹脳炎など
3.化学制御系の異常
  @Ondine's curse症候群
  APickwick 症候群(原発性肺低換気症候群胞)
  B慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  C頚−延髄障害
    a.ポリオ  b.頚髄症 c.cervical cordotomy  d.頭蓋−頚椎移行部奇形

 健常人でも睡眠時には、いびき、無呼吸や低換気が起こりやすい。睡眠によって呼吸制御系の機能の低下、睡眠により上気道開口筋の呼吸との協調運動が失われ、吸息時に狭窄を起こしやすく、体位(重力)の影響で舌筋などが上気道を塞ぎ易くなるなどの理由による。さらに口蓋扁桃やアデノイドの腫大、下顎の狭小化などの形態異常が加われば、さらに無呼吸が発生し易い。狭くなった上気道は吸息時の胸腔陰圧によって虚脱し、無呼吸が発生する。

 仰臥位では舌根部が沈下し、上気道が狭小化しやすいため、側臥位にすると、上気道の狭小化を防げる。軽症例ではこれだけで改善する場合がある。

 アルコ−ル、睡眠剤は、いずれも睡眠中の上気道筋の活動性を低下させるため、いびき、無呼吸級を増強する。したがって、就寝前の服用は止めさせるのがよい。

問題(4)にもどる

(4)睡眠時無呼吸症候群の症状

 睡眠時無呼吸症候群は呼吸調節系に何らかの障害があり、睡眠中には覚醒時にみられる随意調節が無くなるため、呼吸障害が露呈されるものと考えられている。

 SASの主な症状は睡眠中の窒息感、繰り返す睡眠中の覚醒、目覚めの悪さ、日中の倦怠感、集中力の低下とそれによる昼間の眠気、注意力障害などにより、日中の作業能力の低下に加え、交通事故発生の割合が高いことが報告されている。

 睡眠中及び日中の症状を〔表 2〕に示す。

〔表 2〕臨床症状
睡眠中の症状 日中の症状
・いびき ・傾眠傾向
・異常呼吸、無呼吸 ・居眠り
・異常な体動 ・起床時の頭痛
・頻回な覚醒 ・記憶力、集中力の低下
・頻尿 ・性欲の減退
・夜尿症 ・性格の変化
・労作時の息切れ

 睡眠中の無呼吸発作が頻回に起こると、このような状態では睡眠中に動脈の酸素飽和度の値が著しく低下し(低酸素血症)、炭酸ガスが過剰状態(高炭酸ガス血症)となり、血液が酸性化するとともに、重要な臓器に障害を及ぼす。

炭酸ガス過剰状態:
炭酸ガス分圧が上昇すると換気は直線的に増加する(ガス換気応答)。この傾斜が大きいほど動脈血炭酸ガス分圧(PaCO2) の変化に対して換気量 は大きく変化する。ある一定値以下にPaCO2 が低下すると無呼吸(換気0)となり、これを無呼吸閾値という。無呼吸閾値が大きくなると中枢型の無呼吸が起こりやすくなる。

 心臓への負担が増加することによって、特に循環器系への影響が大きく、40〜50%に高血圧症が合併する。また、肺動脈圧の上昇、右心不全、頻脈性や徐脈性の不整脈が起こる。

 24時間の血圧の変動をモニターすると、昼間より夜間の血圧が上昇している例が多い。

 肥満者が多いということもあるが、高尿酸血症、高脂血症、肝障害などの合併が高い頻度で見られる。

 繰り返し起こる無呼吸発作により、頻回の覚醒や断眠が起こり、睡眠の妨げとなり、日中の傾眠傾向が強くなり、集中力の低下、性格の変化など精神症状に影響する。特に日中の傾眠が強い場合には、居眠りのために運転中に交通事故を起こしたり、仕事の能率の低下をきたす。

 睡眠時に無呼吸期が多発すると、主として次の二つの経路により生体に悪影響を生じる。
 @無呼吸による低酸素血症・呼吸性アシドーシス
  A頻回の覚醒や浅い睡眠などによる中枢神経系の機能障害

(5)いびきと睡眠時無呼吸症候群

 夜間睡眠中の症状として、“いびき”は閉塞型の例で高頻度にみられ、間欠的な“いびき”として周囲の人にも影響するが、患者自身も睡眠中に喉の窒息感により目が覚める。

 “いびき”のなかで「寝入りばなの“いびき”」、「疲れた時の“いびき”」、「飲酒後だけにかく“いびき”」は心配ないが、急に大きくなった“いびき”は注意が必要である。特に朝まで続く“いびき”の場合は高血圧を合併する頻度が高く 非常に危険である。

 呼吸が止まった後、急に大きく苦しそうな“いびき”は睡眠時無呼吸症候群に関わる“いびき”である。

 子どもの睡眠時無呼吸の原因として、咽頭扁桃(アデノイド)や口蓋扁桃の肥大による閉塞型が圧倒的に多いが、その他に鼻炎・副鼻腔炎、小顎症、巨舌症や肥満が原因になる。睡眠時無呼吸は、どの年齢の子どもにも見られるが、扁桃の肥大が原因となるのは 2〜6 歳児に多い。

 子どもに、「“いびき”をかき、それが急に静かになることを繰り返す。寝起きが悪い」などがあれば、医師の診察を受ける必要がある。小児では、成人のように完全な無呼吸が見られなくても、呼吸が浅くなって、動脈血中の酸素が不足する状態がしばしば認められるので、注意を要する。診断には睡眠中の酸素飽和度の低下の有無をモニタ−で確認する。

(6)乳幼児突然死症候群と睡眠時無呼吸

 生後 1〜6 カ月の未熟児、低出生体重児( 2.5s未満)、低発育児に多く見られる乳幼児突然死症候群(SIDS:sudden infant death syndrome)は、うつ伏せ寝、人工乳保育、周囲の喫煙習慣が危険因子とされるが、原因がはっきりせず、睡眠時無呼吸との関連が注目されている。


2.睡眠時無呼吸症候群の診断基準と検査 

 確定診断にはポリグラフ(ポリソムノグラフィ:polysomnography) 検査が必要で、睡眠中の換気運動や呼吸気流、脳波、筋電図、眼電図(電気眼球図)、心電図、血圧、酸素飽和度などを連続記録し解析する。

(1)AASMの新しい診断基準

 1999年 8月にAASM(American Academy of Medicine)により新しい診断基準が提唱された。睡眠関連呼吸障害は病態生理学的に〔表 3〕のように 4つに分類された。

〔表 3〕AASMによる診断基準
閉塞性睡眠時無呼吸/低呼吸症候群(OSAHS):
Aまたは B+C を満たした場合に診断できる
A: 他因子で説明できない日中傾眠
B: 次の 2項目以上
・睡眠中の窒息感やあえぎ呼吸    ・日中の倦怠感
・睡眠中の頻繁な完全覚醒       ・集中力の低下 ・熟眠感の欠如
C: 睡眠 1時間当たり 5以上の閉塞型呼吸イベント(閉塞型無呼吸、低呼吸、呼吸努力関連覚醒イベントが含まれる)がある
中枢型睡眠時無呼吸/低呼吸症候群:
下記のA、B、Cを満たした場合
A: 下記症状のうち少なくとも 1つが他因子で説明できない
・日中傾眠
・夜間の頻回なる覚醒
B: 睡眠 1時間当たり 5以上の中枢型の無呼吸/低呼吸
C: PaCO2(覚醒時)<45 torr
チェ−ンストークス呼吸症候群:
下記のA、Bを満たした場合
A: うっ血性心不全や脳神経疾患が認められる
B: 周期的な漸増・漸減の呼吸パターン
睡眠時低換気症候群:
下記のA、Bを満たした場合
A: 次の 1項目以上
・肺性心          ・赤血球増多症  
・肺性高血圧症     ・覚醒時の高炭酸ガス血症
・過度の日中傾眠 (PaCO2<45 torr)
B: 次の一方または両方が認められる
・睡眠中のPaCO2 が覚醒時仰臥位に比べ 10torr以上の増加
・無呼吸/低呼吸によるものでない睡眠中の低酸素血症

(2)無呼吸指数(AI)による場合

 無呼吸指数(AI)が 5以上の場合にSASと診断されるが、中年以降の、特に 男性では AI≧5であることが少なくない。 AI≧20 の患者群の 9年生存率が、 AI<20 の群に比べて有意に低いとの長期観察による報告もある。従って、治療 開始の一つの基準として、 AI≧20 が重視されている。

(3)臨床所見による場合

 臨床所見は、睡眠時には、大きいいびき、無呼吸発作、異常体動、覚醒あるいは不眠、不整脈、昼間の覚醒時の異常な眠気(excessive daytime sleepness:EDS) が重要な所見で、その他、早朝の頭痛、知的活動能力低下、性格変化、インポテンスなどが起こり、集中力も低下して交通事故の多発や、記憶力も減退し社会的不適合などの問題が起こりやすい。

 これらはSASになると、息苦しくて熟睡できず、体は眠っていているが、脳は覚醒している状態になり、慢性的な睡眠不足となって上記のような症状が出る。さらに症状が進行すると、体が慢性的な酸欠状態になり、心臓は少ない酸素を体の隅々まで供給するために負担が増加する。このような状態が続くと、高血圧や心不全、不整脈、心筋梗塞などの合併症も起こる。

 SASの患者には、各種不整脈、高血圧、肺高血圧、冠循環障害、脳循環障害、糖尿病などの頻度が高いことが知られ、小児では発育障害や学業不振などの原因になることもある。

 睡眠検査によって夜の睡眠中の状態を知るが、検査は呼吸と酸素だけを測る簡易型のスクリーニング検査と確定診断をするための精密検査としての終夜ポリソムノグラフィー(PSG)とがある。ポリソムノグラフィーは脳波、呼吸音、胸の運 動、酸素濃度、睡眠姿勢、心電図などを持続的に記録する。

(4)日常生活における判定

 下記のESSによって、合計点を計算し、正常は 9点以下とする。

Epworth Sleepiness Scale(ESS)(Johns MW)
@座って読書中  
Aテレビを見ているとき  
B会議、劇場などで積極的に発現せずに座っているとき  
C乗客として 1時間続けて交通機関に乗っているとき  
D午後に横になったとすれば、そのとき  
E座って人と話をしているとき  
Fアルコールを飲まずに昼食をとった後、静かに座っているとき  
G自動車を運転中に信号や交通渋滞などにより数分間止まったとき
8項目の異なる日常生活上の状況で、まったく眠らない( 0点)、ときに眠る( 1点)、しばしば眠る( 2点)、いつも眠る( 3点)

3.睡眠時無呼吸症候群の治療

 SASの患者の多くは肥満を伴っているため、減量指導は肥満例のすべてに行う。しかし、減量だけで重症のSASを改善することは困難である。

 治療は原因や合併症に留意して行われる。合併症となる基礎疾患(肥満、心不全、甲状腺機能低下症による内分泌異常など)のある場合は、その治療を基本とし、必要に応じて薬物による対症療法を行う。

 睡眠時無呼吸症候群の治療は、いかにして気道が狭くなるのを防ぐかにある。

 治療には鼻マスクによる持続気道陽圧呼吸が中心となり、手術療法や歯科装具 などによる治療も行われるが、薬物療法による場合もある。

(1)日常生活における注意

 因果関係は不明であるが喫煙者に重症例が多い傾向が見られ、循環器系の合併症を防ぐためにも禁煙対策が必要である。

問題(5)にもどる

 就寝前の飲酒、睡眠剤の服用、過労などは、“いびき”や無呼吸を増強させるので注意する。飲酒は筋肉が弛緩して症状が悪化するので、就寝前の飲酒はやめる。睡眠時の姿勢も、仰向けに寝ると重力の影響で舌根が少し落ちる。口蓋垂が長かったり、軟口蓋がたるんでいたり、舌根部が落ち込んだりして、気道を塞いで空気が通れなくなると無呼吸を起こしやすいので、横向きに寝るようにする。

問題(6)にもどる

 最大の原因は肥満であるから(日本人の肥満によらないSASは約30%)、肥満の場合の減量は原因療法の基本で、体重を減らすだけでも軽快するが、減量のみでは効果が少ない。

 内臓脂肪型の脂肪蓄積の程度は睡眠時における低酸素血症の重症度とも相関するので、食事療法、運動療法を勧める。

(2)経鼻持続陽圧呼吸療法  (nasalCPAP:シーパップ)

(持続気道陽圧呼吸nasal continuous positive airway pressure:n-CPAP 吸気と呼気の圧力を変えられるBiPAP)

 経鼻持続陽圧呼吸療法(CPAP:シーパップ)は、最も有効な対症療法として、欧米で最も選択されている。日本でも保険適用されており、軽症〜重症までの患者に行われ、すみやかに深い睡眠を得ることができ、優れた効果が得られている。

 この装置は、睡眠中に鼻につけたマスクから、持続的に空気を流して気道を拡げる圧力(陽圧)をかけ、息を吸うときに気道が閉塞するのを防ぐ。個々の患者ごとに睡眠ポリグラフの記録に基づいて、有効な適正圧を設定する。現在、約 200万人ともいわれる睡眠時無呼吸症候群の患者のうち、CPAP治療を受けているのは約 1万人程度であるが、鼻腔閉塞や鼻中隔弯曲がある場合には使用できないことがある。

米国では人口 2億7,000万人 に対し、睡眠時無呼吸症候群の患者が 1,200万人でそのうち実際にCPAP治療の治療を受けているのは 100万人と推定されている。

(3)マウスピース療法(スリープ・スプリントなど)

 口腔内装具(マウスピース)で下顎を前方にずらして固定することで、睡眠中の咽頭部狭窄を軽減させる治療で、軽症〜中等症の人や、CPAPによる治療を続けられない人に適用される。

 スリープ・スプリントは長谷川 誠教授らのグループが約15年前に開発したもので、歯科材料のレジンでできたマウスピースのような器具で、これを装着して寝る と下顎が少し前方に突き出る形になるため、睡眠中に筋肉が弛緩しても舌根が落ち 込むのを防ぐことができる。麻酔をしたり切ったりしないで、ただ上下の歯に装着 するだけなので、手術のような痛みもなく、簡単に使えるというのが利点である。 長谷川教授らは、これまでに 1,000例以上の軽症〜中等症の患者に、このスリープ ・スプリントを使用し、80〜90%の効果を得ている。ただし、スリープ・スプリン トは健康な歯が20本以上あること、鼻づまりを伴っていないことなどの条件を必要とする。

 また、寝付きの悪い人は、口中に器具を入れた違和感でますます眠れなくなることもある。耳鼻科の医師の診断を受けてスリープ・スプリントの適用と判断されれば、歯科に依頼してそれを作ってもろうことになる。作成はスリープ・スプリント作成の講習を受けた歯科医に限られ、費用は保険の適用がないので、自費で 5〜6 万円ほどかかる。

(4)薬物療法 

 薬物療法は中枢型、比較的軽度の閉塞型症例に適用され、中等度以上の閉塞型症例に対しては補助的に適用される。

 OSASには薬物療法として炭酸脱水酵素阻害剤(アセタゾラミド:ダイアモックス)、プロゲステロン製剤、三環系抗うつ剤などが用いられるが、SASに対しては、アセタゾラミド錠のみが適用(末、注は適用されていない)されている。

問題(7)にもどる

 ストリキニーネには上気道を支配する筋群の筋ト−ヌスを高める効果があり、閉塞型無呼吸を減少するとの報告もあるが、その副作用のために一般的な適用は制限 されている。


4.アセタゾラミド

 薬物療法としては、呼吸中枢を刺激する薬剤が使われる。炭酸脱水酵素抑制剤のアセタゾラミド(ダイアモックス)は、比較的軽症患者で他の治療法が行えない場合に使われる。代謝性アシドーシスのため耐薬性が生じるので注意する。

(1)睡眠時無呼吸症候群とアセタゾラミド

 睡眠時無呼吸症候群に対するアセタゾラミドの投与量は、250〜500r/日を分服する。利尿剤として使う場合も 250〜500r/日を 1〜2 回経口投与する。

 長期使用による呼吸刺激効果の耐性(慣れの現象)が問題になるが、アセタゾラミドを 6カ月〜1年 以上投与した12症例でも有効例が存在することが確認されている。しかし、重度のOSASに対しての効果が十分にあるか否かは明らかでない。種々の報告によれば、アセタゾラミドは軽症〜中等症の閉塞型無呼吸の症例の一部に効果があるものの、全例に有効なわけでないので、それぞれの症例で適応を考慮すべきであろう。

(2)作用機序

 アセタゾラミドは、炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase:CA)阻害剤で、赤血球、毛様体、肝、肺及び胃において、著明な炭酸脱水酵素阻害作用を示す。

 炭酸脱水酵素は体内に広く分布し、CO2 の処理や電解質平衡などの役割を果たしている。

@ 腎における重炭酸イオン再吸収抑制(代謝性アシドーシス)による呼吸中枢刺激作用、利尿作用:
アセタゾラミドは、軽度の代謝性アシドーシスを起こさせるとともに、呼吸ニューロンに対する直接作用を有し、周期性を示す中枢性無呼吸に有効とされる。アセタゾラミドには呼吸刺激作用がある。
問題(8)にもどる
アセタゾラミドが中枢型無呼吸を改善する作用機序は、血液を代謝性アシドーシスにすることにより、H+ を増加させ、増加したH+ により呼吸中枢が刺激され、換気量が増大し、併せて低酸素・CO2 換気応答が改善されることによる。この換気量の増大により、血中O2 が増加し、CO2 は減少し、呼吸性アシドーシス及び無呼吸による睡眠中の低酸素血症が改善する。
血液ガスの改善により、上気道を支配する舌咽神経と横隔膜を支配する横隔膜神経の放電のずれが少なくなり、上気道閉塞を軽減し、閉塞型や混合型無呼吸にも有効であると考えられている。
近位尿細管において、炭酸脱水酵素の活性を抑制し利尿作用を示す。この作用は尿細管細胞で、 CO2+H2O→H2CO3→H++HCO3-の過程を触媒することによって発現される。
この酵素活性が抑制されるとNa+と交換に排泄されるH+の生成を抑制するので、そのために交換で再吸収されるH2CO3 が減少し、結局Na+の再吸収が抑制され排泄が増加し利尿作用が起こる。連用するとNa+だけでなく、K+、HCO3-などの排泄も亢進するので、その結果、血液のpHが低下し、アシドーシスに傾き利尿効果が低下する。
A 眼圧降下作用:
眼組織中の炭酸脱水酵素は、二酸化炭素の水和、炭酸の脱水の可逆的反応を触媒する。
炭酸脱水酵素阻害剤は、毛様体に存在する炭酸脱水酵素U型を特異的に阻害し、房水の産生を減少させ眼圧を下降させる。その機序は炭酸脱水酵素U型を特異的に阻害することによって、HCO3-の形成及び後房への輸送を遅延させ、次いで逆イオンであるNa+の後房への輸送及びそれに伴う水の後房への輸送を低下さ せることにより房水産生を抑制し、眼圧下降作用を示すと考えられている。
B 抗てんかん作用:
アセタゾラミドの抗けいれん効果は、利尿作用とは無関係で、脳内の炭酸脱水酵素の直接の阻害により発現すると考えられている。中枢神経組織内に存在する炭酸脱水酵素を抑制し、脳におけるCO2 濃度を局所的に増大させることにより、脳の異常興奮を減少させ、神経伝達を抑制することによって抗けいれん作用を発揮し、その強さは脳内炭酸脱水酵素の阻害の強さに相関するとされている。

(3)報告などによる評価

 アセタゾラミドの効果に関して、報告者によっての違いは、SASの患者が種々の質の集団から成り立っているからであろう。

@ 日本における多施設共同臨床試験: ⇒睡眠時無呼吸症候群:神経精神薬理 9
日本における睡眠時無呼吸症候群に対するアセタゾラミド(250〜500r/日、 1週間)の多施設共同臨床試験が行われた。
評価: 軽度代謝性アシドーシスを起こさせるとともに、呼吸ニューロンに対する直接作用を有し、周期性を示す中枢性無呼吸にも有効とされる。
中枢型のみならず、閉塞型、混合型無呼吸に対しても有効であり、睡眠効率、動脈血ガス分析時の改善を示した。
有効率:85%(67例中57例に有効)
自覚症状にも改善がみられた。同時に睡眠中の酸素飽和度、覚醒時の動脈血ガス分析値を有意に改善した。
A White らの報告:
White らは、傾眠・睡眠障害の自覚症状を有する 6名の中枢型無呼吸を呈した症例に、アセタゾラミドを 1,000r/日、 1週間投与によって、自覚症状及び無呼吸が69%減少したと報告している。
B Shore らの報告:
Shore らは、アセタゾラミド投与により中枢型無呼吸が混合型無呼吸に変化し、傾眠症状の増悪を見た症例を報告している。Sharp らは、種々の無呼吸の型を呈した10例にアセタゾラミドを投与したが、中枢型無呼吸にはほとんど効果を認めず、中枢型・閉塞型両方の型が見られた症例において中枢型が閉塞型に変化したことを観察している。

(4)副作用

 アセタゾラミドは長期間用いると、慣れの現象を示す報告があり、長期間使用の予後に及ぼす効果は不明で、適用にも限界があると考えられている。

 副作用としては、手足のしびれ感(7.2%)、多尿・頻尿(4.3%)、消化器症状(食欲不振、下痢など)、精神神経系症状(運動失調様症状、眠気、めまいなど)などが見られたが、投与中止例は 3%のみで、ほぼ安全に使用可能であった。

 アセタゾラミドは腎尿細管でのHCO3-の再吸収を抑制し、代謝性アシドーシスを起こす。また、choroid plexusでの炭酸脱水酵素阻害作用により、脳脊髄液中のHCO3-が低下すること、脳組織内、特にグリア細胞内での炭酸脱水酵素阻害作用により組織からのCO2 運搬が障害され、脳組織のCO2が上昇することなどによっても換気刺激効果が起こる。このため睡眠時無呼吸に対しても何らかの影響があると考えられているが確定していない。

 また、肥満、アデノイドなどの上気道狭搾を有する症例や、抗うつ剤、プロゲステロンの無効例に対しても有効であることが認められた。


5.その他の薬物治療

(1)プロゲステロン製剤

 プロスタール 50〜100r/日 2回に分けて経口投与する。

 プロゲステロンは一部の程度の軽い閉塞型無呼吸の症例に効果があると考えられている。

 睡眠呼吸異常の出現頻度は、とくに肥満者においては男性に多く認められ、また女性においては閉経後に増加することが認められている。このことから女性ホルモンは睡眠呼吸異常に対しは防御的役割を有すると考えられ、治療応用が試みられている。

問題(9)にもどる

 プロゲステロン製剤には呼吸刺激作用があり、健常人への投与により、肺胞換気量の増加、低酸素・高炭酸ガス換気応答の亢進がみられる。肥満・肺胞低換気症候(Pickwick症候群)に有効とされている。

Pickwickian 症候群:
Burwellら(Am J Med 21:811,1956)が報告した。肥満、傾眠、けいれん、チアノ−ゼ、周期性呼吸、多血症、右室肥大、右心不全の 8徴候を有する症例である。現在は肥満を伴う肺胞低換気症候群で右心不全を伴うものとして扱われ、重症のSASと考えられている。

 プロゲステロンの誘導体MPA(medroxyprogesterone) の睡眠時無呼吸に対する検討では、有意な変化が認められていない。ただ、Orrら はMPA投与による臨床症状の改善を認めており、Strohlらは自覚症状の改善が認められた「レムresponders」においては有意な無呼吸の減少を報告している。「responders」はよりPaO2 が高い症例、すなわち肥満・肺胞低換気症候群を呈する症例であったことを認めてい る。

 高炭酸ガス血症を伴う患者には、保険適用外であるが、プロゲステロン製剤(黄体ホルモン製剤)の効果が検討されている。しかし、その有効性については確定していない。プロゲステロン(プロスタール)の中枢性換気刺激作用によりPaO2 (動脈血炭酸ガス分圧)の低下作用が期待できるが、無呼吸指数の改善効果は症例により一定しない。軽度の体温上昇や呼吸性アルカローシスに注意する。

(2)三環系抗うつ剤

 三環系抗うつ剤は体重を減少することが難しく、傾眠症状が問題となる軽症の閉塞型無呼吸の症例に効果があるようである。

問題(10)にもどる

 三環系抗うつ剤は、narcolepsy cataplexy症候群の患者における睡眠時無呼吸を改善する報告があり、三環系抗うつ剤が閉塞型無呼吸の治療に効果があるのではないかと考えられた。最初の報告は種々の神経学的異常を基礎疾患とする症例の無呼吸に対するものであるが、無呼吸の程度が軽い軽症例には有効であったものの、全睡眠時間の15%以上無呼吸が認められた 6例中の 4例には、結局、気管切開が必要であったとしている。

 Smithら は、三環系抗うつ剤の閉塞型無呼吸に及ぼす効果を検討し、レム睡眠時間の減少を認めているが、さらにノンレム睡眠における無呼吸の減少、低呼吸の増加を観察し、三環系抗うつ剤が上気道の緊張に影響を及ぼして無呼吸の改善が起こった可能性を示唆している。

 三環系抗うつ剤では低呼吸との関連性が指摘されるレム睡眠の割合を減少させる効果がある。

(3)その他  

 鼻閉は睡眠を中断させ、無呼吸を増加させる。男性は女性に比べて睡眠中の口呼吸の回数が多い。また、男性は加齢に伴い口呼吸の回数が増加する。口呼吸は睡眠時無呼吸と関連している。これに対して鼻呼吸は睡眠中の呼吸リズム形成の維持に必要であり、SASではできるだけ睡眠時に鼻呼吸することが望ましいが、鼻閉はこれを妨げ、口呼吸することになる。この鼻閉を改善するために、抗アレルギー剤、抗ロイコトリエン剤、粘液調節剤、点鼻ステロイド剤なとがOSAS治療に使われる。


〔文献〕

長谷川 誠:いびきと睡眠時無呼吸症候群,ヘルシスト Vol.26 No.6,50-55,2002.

堀江 孝至:睡眠時無呼吸症候群,内科 Vol.77 No.6,77,1996.

稲葉・千葉:睡眠時無呼吸症候群,小児科診療 Vol.65 増刊,332-334,2002.

神山  潤:睡眠時無呼吸,小児科 Vol.44 No.4,5-7,2003.

栗山 喬之:睡眠時無呼吸症候群をめぐる最近の知見,日本医事新報,No.4033 1-13,2001. 

成井 浩司:恐ろしい睡眠時無呼吸症候群,毎日ライフ No.420,49-52,2003.

赤柴 恒人:今日の治療指針(2005年版),睡眠時無呼吸症候群,226-227

麻野井英次:睡眠時無呼吸と心不全,medicina Vol.38 No.10,1702-1704,2001.

成井 浩司:睡眠時呼吸障害と加齢,medicina Vol.38 No.4,609-614,2001.

高崎雄司他:睡眠時無呼吸症候群の疫学,医学のあゆみ,Vol.214 No.6,531-536,2005.

飛田  渉:睡眠時無呼吸症候群の概念と病態生理,医学のあゆみ,Vol.214 No.6,523-528,2005.

巽 浩一郎:睡眠時無呼吸症候群における薬物療法,医学のあゆみ,Vol. 214 No.6,618-626,2005.



生涯教育コーナー目次に戻る