経口副腎皮質ステロイドについて


皮質ステロイドの発見・摘出は、第二次世界大戦の終期、米国で戦争時のストレス抵抗性の増加、疲労防止のため、多くの費用をかけてなされた。このため、下垂体・副腎皮質系は20世紀の医学で最も進歩した分野とされる。


1.副腎皮質ステロイドとは(cortex:皮、樹皮)

ステロイドはギリシア語の stereos(硬い、しっかりしている)に oid(のような)に由来する。

副腎皮質から生成・分泌されるステロイドホルモンを総称して、コルチコイド corticoid といい、糖質コルチコイド、電解質(鉱質)コルチコイド及び副腎性アンドロゲンがある。

(1)糖質コルチコイド:

糖質コルチコイドにはコルチゾ−ル(ヒドロコルチゾン)、デオキシコルチゾ−ル、コルチコステロンがある。糖質コルチコイドの代表はコルチゾ−ルで、副腎皮質の束状層より、ヒトでは 1日量として20mg分泌しているが、ACTHで最大限刺激すると 1日量として 240mgのコルチゾ−ルを分泌する。

プレドニゾロンの 5mgは、副腎から 1日に分泌するコルチゾ−ル量(約20mg)とほぼ同力価となる。一般に経口ステロイド剤の 1錠はコルチゾ−ルの 1日分泌量に相当する。つまり、わが国で市販されている糖質コルチコイド剤は原則として 1錠中の含有量がほぼ同一の力価ということになる(但し、規格により同力価でないものもある)。

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(2)電解質コルチコイド(ミネラルコルチコイド):

電解質ホルモンにはアルドステロン、デオキシコルチコステロン(DOC) がある。体内の水分と電解質代謝を調節する重要な因子であり、主として腎の遠位尿細管に作用して、ナトリウムを再吸収し、これと交換にカリウムを排泄させる。これによって細胞外液のナトリウムは増加し、カリウムは減少する。なお、正常人のアルドステロン分泌量は約 100mg/日とされている。

天然の電解質作用を増強した合成ステロイド剤として、9α-フルオロ化合物の酢酸フルドロコルチゾン(フロリネフ)がある。これは強力な電解質コルチコイド作用(アルドステロンにほぼ匹敵する)と、比較的強い糖質コルチコイド作用があり、1987年からナトリウム喪失型の副腎皮質酵素欠損症(アジソン病)などの治療に使われている。

(3)副腎性アンドロゲン(副腎性性ホルモン):

副腎性アンドロゲンには、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、DHEA- 硫酸塩、アンドロステンジオンがある。

副腎から分泌される男性ステロイドの代表はDHEAで、性腺由来のテストステロンと同様にタンパク同化作用を示すが、その作用は極めて弱い。



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2.糖質コルチコイドの作用

糖質コルチコイド(以下ステロイドと略)の生理・薬理作用の殆どは受容体を介して発現する。

(1)ステロイド受容体

ステロイドは脂溶性で、標的細胞の細胞膜を濃度勾配に従って自由に通過して細胞内に入る。細胞内に入ったステロイドは、94KDa の分子量の受容体と結合する。

いわゆるホルモン受容体は局在する部位によって、細胞膜受容体と細胞内(細胞質内)受容体に大別される。細胞膜受容体にはペプチドホルモン、糖タンパクホルモン、アドレナリンなどの受容体があり、細胞内受容体にはステロイドホルモン、甲状腺ホルモン、ビタミンD、レチノイン酸などの受容体がある。

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細胞内受容体は主として核内に存在しているが、ステロイド受容体は細胞質に局在していると考えられている。

ステロイド受容体は末梢組織のみならず中枢神経系にも分布しており、精神活動調節機構におけるステロイドが注目されている。また、受容体が存在することは、臨床的に受容体異常症があることになり、数は少ないがステロイド不応症が報告されている。

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ステロイドは、生体内において、生理的分泌量であらゆる臓器に重要な生理作用を及ぼしているが、その薬理作用の増強を求めて大量投与しても、効果発現の機序は同じである。つまり、拡散によって細胞膜から細胞内に入ったステロイドは、その受容体と結合して、それを鋳型とする mRNAの合成を経て、特定の抗炎症性蛋白を産生し標的細胞に作用する。投与してから効果発現まで 1〜 4時間の時間的経過が必要なのはそのためである。

(2)糖質コルチコイドの主な作用

糖質コルチコイドの主な作用としては次がある。

  1. 代謝作用(主として生体組織の異化作用)
  2. 水・電解質作用
  3. 抗炎症作用→次項→易感染性
  4. 免疫抑制作用→易感染性
  5. 中枢神経系作用→各種精神症状の発症
  6. 造血系作用→赤血球、血小板及び好中球の増加、好酸球、リンパ球の減少
  7. 消化性潰瘍形成作用→消化性潰瘍
  8. 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)とのネガティブ・フィ−ドバック作用


抗炎症作用とは、生体が本来有している、炎症という修復作用を抑え込むことであるから、細菌などの感染による炎症(例えば結核)には不適である。つまりステロイドを用いると炎症は抑えるが、免疫力を低下させ、細菌を増殖させる。



3.ステロイドの実際的な使用について

副腎皮質ステロイドは、炎症に対して最も効果が期待でき「魔法の薬」のように広範囲に繁用される反面、副作用も多く、典型的な両刃の剣となる薬剤である。

(1)市販されているステロイド剤

〔表 1〕は現在、市販されている主な経口ステロイド剤である。



〔表 1〕経口ステロイドの開発年、商品名、対応量
分類
一般名(商品名)
開発年
合成者名
対応量
摘要
(1)short-acting
酢酸コルチゾン (コ-トン)
1948(1951)
Sarett
25mg
コルチゾ-ル (コ-トリル)
1950(1952)
Wendler
20mg
酢酸フルドロコルチゾン(フロリネフ)
1954(1987)
Fried
1.5mg
(2)intermediate-acting
プレドニゾン
1955(中止)
Herzog
6mg
プレドニゾロン (プレドニン)
1955(1955)
Herzog
5mg
メチルプレドニゾロン (メドロ-ル)
1956(1958)
Spero
4mg
トリアムシノロン (ケナコルト、レダコ-ト)
1956(1958)
Bernstein
4mg
(3)long-acting
酢酸パラメタゾン (パラメゾン)
1959(1961)
Edwards
1.5mg
デキサメタゾン (デカドロン)
1958(1962)
Arth
0.75mg
ベタメタゾン (リンデロン、ベトネラン)
1958(1962)
Oliveto
0.5mg


 注)開発年欄:( )内はわが国での発売年
対応量欄:プレドニゾロン「 5mg」と同等の糖質ステロイド効果量


ステロイドは water solubleでないため、リン酸、硫酸、コハク酸のそれぞれのエステル型として溶解度が高められている。

副腎皮質ステロイドは生物学的半減期によって、short acting、intermediate acting、long acting の三つに分類される。long acting の薬剤は、間脳−下垂体−副腎系の抑制を生じやすく、脳浮腫を主体とする疾患などの一部を除いては、一般に使用が減ってきている。



〔表 2〕主な副腎ステロイドの種類と性状(Axelrod L:改変)
含有量
コルチコイド活性
半 減 期
副腎抑制
mg/Tab.
鉱質
糖質
血中(分)
生物学的(時)
◇short-acting酢酸コルチゾン (コ-トン)
25
0.8
0.8
30
8〜12
2+
コルチゾ-ル (コ-トリル)
10
1
1
90
8〜12
2+
酢酸フルドロコルチゾン(フロリネフ)
0.1
4.2
10
7
◇intermediate-actingプレドニゾン
5
0.8
3.5
60
12〜36
2+
プレドニゾロン (プレドニン)
5
0.8
4
200
12〜36
2+
メチルプレドニゾロン (メドロ-ル)
4,2
0〜0.5
5
200
12〜36
2+
トリアムシノロン (ケナコルト、レダコ-ト)
4,2
0
5
200
18〜36
3+
◇long-acting酢酸パラメタゾン (パラメゾン)
2,6
0
10
300
36〜54
3+
デキサメタゾン (デカドロン)
0.5
0
30
300
36〜54
4+
ベタメタゾン (リンデロン、ベトネラン)
0.5, 0.1
35
300
36〜54
4+

注)コルチコイド活性 :コルチゾ-ル(ハイドロコルチゾン)を 1とした効力比
生体内半減期:一般に力価の高いものほど長い


各ステロイド間の糖質コルチコイド作用の強弱の差は、主に糖質コルチコイド受容体に対する結合親和性の差と、体内での代謝速度の差に由来する。

ステロイドは天然品を含めて、いずれも糖質ステロイドと鉱質ステロイドの二つの作用を有している。臨床上では、鉱質ステロイドの作用の少ない方が、副作用も軽度で治療効果も大きい。

(2)ステロイド剤使用の原則

ステロイド剤は、治療の目的で使用される場合、通常の生理的分泌量の数倍以上が投与される。このホルモンの分泌が Negative feedbackのメカニズムによって調節されているので、間脳−下垂体−副腎系の抑制という副作用の発現は不可避であり、他の治療可能な薬剤があれば最初に選択すべきでない。

しかし、副腎皮質ステロイドは、しばしば致命的な疾患の救命や、耐え難い疼痛を抑えるなどの、卓効があるので繁用されている。

一般に薬物投与の四大原則は、遅過ぎない、少量過ぎない、多量過ぎない、長過ぎない であって、これが厳守されなければならない。

ステロイド剤使用による効果の確保、副作用の軽減及び離脱のための一般的な方法として次が挙げられる。

  1. ステロイド投与の前にまず他の有効な薬剤を配慮する。

  2. 適応があるか他剤が無効な場合に、早期に十分量を使用し、不必要な長期投与は避ける。

  3. できるだけ作用期間の短い、鉱質ステロイド作用の少ないものを選ぶ。

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  4. パルス療法の適応があれば、メチルプレドニンを 1日 1回以上(例えば 500mgを6〜 8時間ごと)使用し、 3日以内にintermediate acting の経口剤に切り替え漸減する。
    パルス療法 pulse therapy(超大量ステロイド療法)には、鉱質ステロイド作用が少なく、比較的作用時間の短いメチルプレドニゾロンが適している。

  5. 経口剤は早朝 1回投与する。また、夜の投与は好ましくなくできるだけ避ける。しかし、慢性関節リウマチにおける早朝の関節痛、こわばりの改善のために少量のステロイドを投与する場合もある。

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    →日内変動 、ステロイド投与量

  6. 長期投与の場合、漸減法から早めに隔日投与に切り替える。この場合、休薬日の代わりに10mg以下のプレドニゾロンを投与する方法もある。しかし、これで原疾患が悪化すれば、直ちに連日投与に切り替える。但し、急性期の場合、リウマチ性関節炎、血管炎を伴った膠原病には隔日投与は不適である。

  7. 1日20mg以上のプレドニゾロンを 1週間分以上か、それ以下でも 1カ月以上使用している場合、 0となるか 1錠分まで慎重に時間をかけて減量する。 6〜 9カ月間は、手術などストレス発生のおそれがある場合に臨時にステロイドを投与する。
    この場合、内視鏡などの諸検査やウイルス感染症などの小さいストレスには、100mg/日のヒドロコルチゾン相当を 2〜 3日投与し、外傷、手術などの大きなストレスでは、ヒドロコルチゾン 100mg相当の製剤を 6〜 8時間毎に投与し、 3日以内に減量を始める。

  8. 副作用、離脱症候群の定期的チェックを行う。プレドニゾロンとして30mg/日以上の場合は週 1回、それ以下でも長期投与の場合、月 1回のチェックが必要。
    血清電解質の異常と起立性血圧低下が急性副腎不全のよい指標になる。また、副腎機能の改善の客観的指標としてACTHによるチェック(rapid ACTH test)も広く行われている。即ち、朝 8時のステロイド内服前のコルチゾ−ルレベルが10μg/100オ以上であれば、薬剤が中止できる目安となる。成人では、 250mgのACTHを朝 8時に筋注し、30〜60分後に20μg/100オ以上となっておれば、間脳−下垂体−副腎系の抑制が消失したものとみなす。


(3)生体内の日内変動

ヒトの血中ステロイド濃度は、一般に定期的な日内変動があり、早朝に高く午後から低下し、夜中に最低のレベルとなる。従って、この血中濃度の生理的リズムに合わせた投与法が合理的である。例えば、 1日 4回経口投与の場合、 4:3:2:1の比率での投与し、 1日 1回投与の場合は早朝に投与するのが合理的と言える。

うつ病との関連か、あるいは自然状態では副腎皮質ステロイドの血中濃度は朝高く夜低いという生体リズムを乱すためか、不眠に悩まされる場合もある。

intermediate acting の薬剤を投与した翌日は休薬日とする隔日投与法が、間脳−下垂体−副腎系の抑制を軽減する方法の一つとして適用されることがある。 2日分の量を 1日目に投与し、翌日を休薬日として血中ステロイド量を 0にしてACTHの分泌を促す方法である。


(4)臨床適応と一般的な使用量

ステロイドの用量は、症状によって決定され、年齢、性別によるものではないが、〔表 3〕は各疾患に対する一般的な用量である。

副腎皮質ステロイドは生物学的半減期によって、short acting、intermediate acting、long acting の三つに分類される。long acting の薬剤は、間脳−下垂体−副腎系の抑制を生じやすく、脳浮腫を主体とする疾患などの一部を除いては、一般に使用が減ってきている。



〔表 3〕ステロイドの臨床適応と使用量(プレドニゾロン相当量)
疾患名
使用量等
副腎皮質機能低下症 コルチゾ−ル製剤 20mg (補充療法)
慢性関節リウマチ 初回: 5〜10mg
リウマチ熱 初回:30〜60mg 漸減
エリテマト−デス活動性40〜60mg 漸減
重 症60〜80mg
多発性筋炎 初回:40〜60mg 漸減
結節性多発性動脈炎 40〜60mg
気管支喘息 40mg 漸減 短時間
薬物アレルギ−(即時反応) デキサメタゾン 4〜8mg 静注
ショック 同上を必要に応じて繰り返す
ネフロ−ゼ症候群 初回:40mg 漸減
急性白血病 40〜60〜(100)mg
骨髄腫 20〜40〜(100)mg
再生不良性貧血 20〜(100)mg
本態性血小板減少性紫斑病 20〜60mg
後天性溶血性貧血 20〜40mg
肝性昏睡 100〜300mg 静注
サルコイド−シス 30mg 漸減
重症感染症 30〜40mg 漸減
多発性硬化症 30〜40mg 漸減
ギランバレ−症候群 30〜40mg 漸減
ベル麻痺 30〜50mg 漸減

(中山 一誠:やさしい薬理学,124)


初期治療にデキサメタゾン、ベタメタゾン、プレドニゾロンが用いられることが多い。成人では通常、プレドニゾロンに換算して20〜40mg/日の中等量を初期投与とする。デキサメタゾン、ベタメタゾンを初期投与した例では、副腎抑制が強いので、まず同量に換算したプレドニゾロン投与に切り替えて、数週間投与してから減量を開始した方がよい。臨床症状並びに検査成績が改善された時点で、数週間ごとに減量して維持量に達する。

トリアムシノロンは、他のステロイドに比べてステロイドミオパチ−を起こし易く、デキサメタゾン、ベタメタゾンは下垂体からのACTHの分泌抑制が強く、長期投与により離脱困難となることがあるので、プレドニゾロンが用いられることが多い。

ネフロ−ゼ症候群、全身性エリテマト−デスについてはパルス療法も行われる。


(5)ステロイドの投与量

殆どのステロイド作用は受容体を介するので、ステロイドが作用を発揮する第一段階は受容体と結合することである。ステロイドが総ての受容体と結合する投与量であれば、それ以上の効果が期待できないので、その時点の投与量が最大投与量となる。

一般に 1日当たりの投与量が等しくても、 8時間毎に 3等分して投与するのが最も有効で、これに次ぐのが 1回/日投与で、隔日投与が最も効果が少なく、慢性関節リウマチなどでは非投与日に発熱などを認めることがある。ただ、隔日投与は、下垂体・副腎皮質系機能の回復には有効である。膠原病、慢性関節リウマチなどで、疾患活動が消失しステロイド離脱が可能となった症例で、副腎機能が低下している場合、プレドニゾロン 5〜10mgを隔日に投与しながら機能回復を待つ。通常、 1年前後を要するが、早朝の血中コルチゾ−ル濃度が機能回復の簡単な指標となる。


(6)ステロイドの離脱

成人では、間脳−下垂体−副腎系の抑制が生じる最小限はプレドニゾロン10mg/日と言われているが、20〜30mg/日のプレドニゾロンを 1週間以上、またそれ以下も 1カ月以上投与を続けると、完全に投与を中止してからその機能の回復には、 6〜 9カ月の期間が必要であるから、その間に手術などを受ける場合には、そのストレスに対応するためにも、維持量の補充が必要である。

このように、長期間にわたって、一定以上のステロイド剤を投与された場合には、Negative feedback により、間脳−下垂体−副腎系の抑制が続いているため、急に中止したり、投与量を生理的分泌量にしたとき、余分のストレスにさらされると、急性副腎不全による、いわゆる離脱症候群が生ずることがあり、ときに死に至ることもある。

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*長期間及び一定以上のステロイド剤の投与:



4.添付文書における一般的注意・禁忌

一般的注意、禁忌などについて、添付文書には次のように記載されている。


(1)一般的注意

誘発感染症、持続性副腎皮質機能不全、消化性潰瘍、糖尿病、精神障害などの重篤な副作用が現れるので次に注意する。

  1. 投与に際しては特に適応、症状を考慮し、他の治療法によって十分に治療効果が期待できる場合には、投与しない。また、局所的投与で十分な場合には、局所療法を行う。

  2. 投与中は副作用の出現に対し、常に十分な配慮と観察を行い、また、患者をストレスから避けるようにし、事故、手術などの場合には、増量するなど適切な処置を行う。

  3. 連用後、投与を急に中止すると、ときに発熱、頭痛、食欲不振、脱力感、筋肉痛、関節痛、ショックなどの離脱症状が現れることがあるので、投与を中止する場合には、徐々に減量するなど慎重に行う。離脱症状が現れた場合には、直ちに再投与または増量する。



5.添付文書における禁忌・原則禁忌・慎重投与

添付文書に禁忌、原則禁忌、慎重投与すべき患者は次のとおりである。

  1. 禁  忌:過敏症の既往歴のある患者
  2. 原則禁忌:〔表 4〕
  3. 慎重投与:〔表 5〕



〔表 4〕原則禁忌となる疾患など
該当する疾患患者
理 由
(1)有効な抗菌剤の存在しない感染症、全身の真菌症免疫機能抑制作用により、症状の悪化が増悪
(2)消化性潰瘍肉芽組織増殖抑制作用により、潰瘍治療(組織修復)が障害
(3)精神病大脳辺縁系の神経伝達物質に影響を与え、症状が増悪
(4)結核性疾患免疫機能抑制作用により、症状の悪化が増悪
(5)単純疱疹性角膜炎
(6)後嚢白内障症状が増悪
(7)緑内障眼内圧の上昇により、緑内障が増悪
(8)高血圧症電解質代謝作用により、高血圧症が増悪
(9)電解質異常電解質代謝作用により、電解質異常が増悪
(10)血栓症血液凝固促進作用により、症状が増悪
(11)最近行った内臓の手術創のある患者創傷治癒(組織修復)が障害
(12)急性心筋梗塞を起こした患者心破裂を起こしたとの報告



〔表 5〕慎重投与すべき疾患など
該当する疾患患者
理 由
(1)感染症免疫機能抑制作用により、感染症が増悪
(2)糖尿病糖新生作用などにより、血糖が上昇し、糖尿病が増悪
(3)骨粗鬆症蛋白異化作用などにより骨粗鬆症が増悪
(4)腎不全薬物排泄遅延により、体内蓄積による副作用の発現
(5)甲状腺機能低下血中半減期の時間延長の報告があり、副作用の発現
(6)肝硬変代謝酵素活性の低下などにより、副作用が発現
(7)脂肪肝脂肪分解・再分布作用により、肝臓への脂肪沈着を増大させ、脂肪肝が増悪
(8)脂肪塞栓症大量投与により、脂肪塞栓症の報告、症状の増悪
(9)重症筋無力症蛋白異化作用により、使用当初、一次症状が増悪
(10)高齢者感染症の誘発、糖尿病、骨粗鬆症、高血圧症、後嚢白内障、緑内障などの副作用が現れ易いので、慎重に投与



6.ステロイドの相互作用

次の薬剤との併用に注意する。なお、「併用しない」と記載のある薬剤はない。

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〔表 6〕併用に注意すべき薬剤
併用薬剤
理 由
(1)バルビツ−ル酸誘導体
フェニトイン

リファンピシン

これらの薬剤は肝の代謝酵素(CYP-3A群)を誘導し、ステロイドの代謝を促進させるので、ステロイドの作用が減弱することが報告されているので、併用する場合には用量に注意する。ステロイドの投与量を増量しなければならない場合もある。
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(2)サリチル酸誘導体ステロイドはサリチル酸誘導体の腎排泄を増加し、肝での代謝を増強すると考えられている。従って、併用時にステロイドを減量すると、血清中のサリチル酸誘導体の濃度が増加し、サリチル酸中毒を起こすことが報告されているので、併用する場合には用量に注意する。
併用により消化性潰瘍の増加が考えられる。
(3)抗凝固剤・経口糖尿病用剤ステロイドはこれらの作用を減弱させることが報告されいるので、併用する場合には用量について注意する。
ステロイドは血液凝固能を高め、抗凝血剤の作用に拮抗し、また、ステロイドは肝での糖新生促進作用があり、血糖値を高める作用がある。
(4)利尿剤(K保持性利尿剤を除く)
併用により、低K血症が現れることがあるので、併用する場合には用量について注意する。ステロイドの鉱質ステロイド作用は遠位尿細管に作用し、Kの尿中排泄を増加させる。
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(5)HIVプロテア-ゼ阻害剤
サキナビル

リトナビル
P-450に対する競合の可能性、あるいは本剤がP-450を誘導することにより、本剤のAUCの上昇またはこれらの薬剤の代謝が促進され、AUCが低下するおそれがある。



7.ステロイドの副作用

ステロイドは抗炎症作用、免疫抑制作用でも“King of Kings” と呼ばれる卓越した効果を示す反面、中等量以上を長期投与すると重篤な副作用が出現する。このことが副作用が強い薬剤の第一は抗ガン剤で、次が中等量以上の長期間投与した場合のステロイドとされている。

短期間の服用では多少の副作用が出ても、必ず後で治るし、短期投与では通常安全域の広い薬物であり、パルス療法などの超大量投与も可能である。


(1)重大な副作用とその他の副作用

副作用は、臨床的には生命に危険を及ぼす重症副作用major side effectsと、危険の少ない軽症副作用minor side effectsに分けられる。

なお、重症副作用の出現頻度は、報告者によって異なるが、一般に10〜20%とされる。重症副作用が出現した場合には、ステロイドの投与を継続することが困難となるが、長期大量投与例では、急に中止すると急性副腎不全を起こすおそれがあるので注意する。

ステロイド療法を困難にさせる最大の原因は、副作用にある。現在のところ、ステロイドの抗炎症作用、免疫抑制作用、血糖上昇作用、蛋白異化作用、骨異化作用は分離できないと考えられている。従って、程度の差はあれ、ほとんど総ての例に何らかの副作用の出現が出ると考えられている。ステロイドの種類、投与量、投与方法を検討することにより、副作用を軽減する試みがなされているが、未だに画期的な方法はない。

軽症副作用を合併した場合には、一般にステロイド投与を注意して継続し、対症的な治療を行うことになる。



〔表 7〕ステロイドの重大な副作用
(1)感染症の誘発または増悪
(2)続発性副腎皮質機能不全、糖尿病
(3)消化性潰瘍(その他、消化管出血及び穿孔)、膵炎
(4)精神障害(重篤なうつ病など)、痙攣
(5)骨粗鬆症、大腿骨及び上腕骨などの骨頭無菌性壊死、ミオパチ−
(6)緑内障、後嚢白内障 → 定期的に検査
(7)血栓症



〔表 8〕その他の副作用
(1)内分泌月経異常、男性化(ざ瘡、多毛)など←男性ホルモン様作用
(2)消化器下痢、悪心・嘔吐、胃痛、胸やけ、腹部膨満感、口渇、食欲不振、食欲亢進など←胃酸増加、粘膜刺激
(3)精神神経系(軽度精神症状)不眠、情緒障害、多幸感、頭痛、めまい←電解質異常特に細胞外のNa+増加及び脳酸素消費減少
(4)筋・骨格筋肉痛、関節痛、 筋萎縮、筋力低下(ステロイドミオパチ−)
(5)脂質・蛋白質代謝満月様顔貌、野牛肩、窒素負平衡、脂肪肝、中心性肥満、体重増加→脂肪沈着異常(体脂質の分布変化)
注)脂質は顔面、胴体部、頚に蓄積し、四肢で減少する。
(6)体液・電解質浮腫、血圧上昇、低カリウム性アルカロ−シスなど
注)尿細管におけるNa+再吸収促進(水分の組織内貯留)、K+ の排泄増加
(7)眼中心性漿液性網脈絡膜症などによる網膜障害、眼球突出など
(8)血液白血球増多など
プロトロンビン時間を短縮、プロトロンビン単位を増加
→血栓
(9)皮膚瘡、多毛、脱毛、色素沈着、皮下溢血、紫斑、皮膚の菲薄化・脆弱化、皮膚線条、掻痒、発汗異常、顔面紅斑、創傷治癒障害、脂肪織炎など
(10)過敏症発疹など
(11)その他発熱、疲労感、ステロイド腎症、精子数及びその運動性の増減


(2)投与量と副作用

治療のために投与されるステロイドの量は、副腎皮質から生理的に分泌される量をはるかに上回るので副作用が問題になる。ただ、その副作用の中でも、主作用が強調されたものである。

例えば、糖新生作用により、血糖が上昇して耐糖能低下、蛋白異化作用の促進により筋萎縮、皮膚の菲薄化や皮膚線条が起こり、また、長期投与でACTH抑制が起こり、副腎皮質が萎縮する。


(3)製剤と副作用

コルチゾ−ル、プレドニゾロンは、弱い電解質作用があり、ときに低K血症、高血圧をきたすのに対し、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾンにはこのよう作用は少ない。この理由として、コルチゾ−ル、プレドニゾロンがアルドステロンと構造上類似しているので、アルドステロン受容体と弱いながらも結合能を有しているので、電解質作用を呈するのに対し、デキサメタゾンなどはアルドステロン受容体と結合しないためとされている。
各製剤間でも、生体に対する特徴があり、出現する副作用も異なる。また、個体差もあるので複雑である。例えば、膠原病のステロイド治療で、治療効果が発現すると初めて満月様顔貌を呈するといわれるが、その他の疾患の治療では早い人では 1カ月で出現する。



〔表 9〕各種ステロイドの生体に対する特徴
コルチゾ-ル
(コ-トリル)
プレドニゾロン
(プレドニン)
メチルプレドニゾロン
(メドロ-ル)
トリアムシノロン
(ケナコルト、レダコ-ト)
酢酸パラメタゾン
(パラメゾン)
デキサメタゾン
(デカドロン)
ベタメタゾン
(リンデロン、ベトネラン)
浮腫・ナトリウムの蓄積
3+
2+
+
0
0
+
0
カリウムの欠乏
2+
+
+
2+
+
+
0
高血圧
+
2+
+
+
+
+
2+
精神の興奮、うつ状態
+
2+
+
+
+
2+
+
食欲亢進、体重増加
2+
2+
+
0
2+
4+
3+
消化器潰瘍
+
3+
2+
3+
2+
2+
2+
紫斑
+
3+
2+
3+
2+
2+
2+
満月様顔貌(ム-ンフェ-ス)
2+
2+
2+
3+
+
2+
2+
多毛
2+
2+
2+
3+
+
+
0
皮膚効果
+
+
+
3+
+
+
+
骨粗鬆症
2+
3+
3+
3+
2+
2+
2+
糖尿病
2+
3+
3+
2+
+
+
2+
局所効果
3+
3+
2+
3+
2+
2+
2+
副腎萎縮
2+
2+
2+
3+
3+
4+
4+



8.服薬指導関連事項

基本的には、医師は「ステロイドの抗炎症作用、抗アレルギ−作用、ホルモン補充作用の何れを期待して投与しているか」の処方意図を把握して、添付文書の「一般的注意」、「相互作用」及び「副作用」を基本に次の事項について指導する。

  1. 重大な副作用については、その副作用の「前触れ症状」は必ず伝える。

    消化性潰瘍が起きることがあるが、ステロイド潰瘍の場合は、通常の潰瘍発症と異なり、痛みなどの症状がなく、突然、胃・十二指腸穿孔、吐血、下血で起こることがあるので注意する。なお、消化性潰瘍は十二指腸潰瘍より胃潰瘍が多く、特に幽門前庭部や小彎にそって発症することが多い。

    問題(10)に戻る

    ステロイド潰瘍の発生頻度は高野らのステロイド剤による副作用に関する全国調査の結果、ステロイド剤投与による副作用の中で、消化管合併症の頻度は、感染症の合併に次いで多く、全副作用の25.0〜26.4%を占めると報告している。並木によるとステロイド剤投与の 469例の中で、ステロイド潰瘍の発生頻度は 9.6%と報告している。

    ステロイド潰瘍はデキサメタゾンが最も高率に胃病変を起こし易く、次いでプレドニゾロンで、トリアムシノロンやパラメタゾンでは、ほとんど発症しないと言われている。投与量ではプレドニゾロンに換算して20mg/日以上の投与量になると胃病変が起こり易いとされている。投与期間については投与開始より比較的早期に発症するという報告と、 3カ月以上の長期投与で発症し易いとの報告もあり一定していない。なお、非ステロイド性消炎鎮痛剤などの併用投与などの影響が大きい。

    プレドニゾロン20mg/日以上投与するときは、H2-ブロッカ−を併用する。10mg/日では潰瘍の発生は少ない。総投与量 1g以上では注意する。

  2. 自己の判断による服薬中止に注意する。連用後の急な服薬中止により、離脱症状が現れることがある。副腎の萎縮が強ければ場合によっては重篤な転帰をとることがある。

  3. ステロイド投与中の患者に、ワクチン(種痘など)を接種して、神経障害、抗体反応の欠如が起きたとの報告がある(リンパ球及びリンパ球組織を障害し抗体産生を抑制するため)。

  4. 高齢者には注意する。 ャ〔表 5〕

  5. 小児には、発育抑制や長期投与した場合、頭蓋内圧亢進症状が現れることがある。

  6. 動物実験で催奇形作用が報告されており、また、新生児に副腎不全を起こすことがあるので、妊婦などには治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する。

  7. 母乳中へ移行することがあるので、投与中は授乳を避ける。

  8. 服用を忘れた場合
    1. 1日 1回服用の場合
      気付いた時にすぐ服用する。翌日まで気付かなかった場合には、忘れた分は抜いて、次回 2回分は服用しない。

    2. 1日 1回以上服用の場合
      気付いた時にすぐ服用する。次回まで気付かなかった場合には、忘れた分は抜いて、次回 2回分は服用しない。これは血中濃度の一時的な変化は効果に影響を与えぬことによる。


〔文献〕



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