5.便秘
<便秘とは>
便秘とは一般に4~5日以上にわたって排便がないことをいいますが、便通には個人差があり、1~2日排便がなくても、不快感がなければ、便秘とはいえませんし、毎日排便があっても排便量が少なくすっきりしない状態なら便秘といえます。
排便時に努力と苦痛を要し、不快感、お腹がはる、腹痛などがあって日常生活に支障をきたす症状をいいます。
- 下痢・便秘の定義
健常者:排便間隔の平均は27.9±9.5時間
便の水分量60~100ML/日
便重量80~200g/日
下 痢:便中の水分量が増加し、液状の便を排出する
便の水分量200ML/日以上
便重量200g/日以上
便 秘:排便回数の減少、1回の排便量が少ない、あるいは硬い便の排出
便重量35g/回以下
- 排便の仕組み
1.大腸で消化されなかった食物繊維や腸内細菌などが便となり、下行結腸からS状結腸に貯えられる
2.食物が胃壁を刺激すると神経系の反射運動が起こり、大腸が蠕動運動を始める(内容物を押しだそうとする作用)
3.直腸内に便が送られ、直腸壁が刺激を受ける
4.排便中枢・延髄などに信号が送られ、便意が起こる
5.交感神経の緊張がとれ、副交感神経を興奮させる
6.直腸の蠕動運動が促進し、内肛門括約筋がゆるむ
7.外肛門括約筋を意識的にゆるめ、腹圧を高める
8.排便が行われる
<便秘の病因分類>
便秘は経過から急性と慢性に分けられ、原因から器質性と機能性に分けられる。機能性便秘は一過性(単純性)便秘、習慣性便秘、弛緩性便秘、けいれん性便秘に分けられます。
1.器質性便秘(症候性便秘):
何らかの器質的異常を伴うもので、腸管の異常、隣接する腹腔内臓器の炎症、腫瘍などにより腸内容物の通過障害を現すものや内分泌疾患、神経疾患、糖尿病、薬物中毒などによる腸管運動の麻痺によって便秘が起こります。
この場合の治療は、原因疾患の治療が第一であり、ときには迅速な対応が必要となります。
2.機能性便秘:
・一過性単純性便秘:
一時的な排便抑制や旅行など環境の変化、食事の偏り、少食、ストレスなどによる便秘。バランスのよい食事をとり、規則正しい生活を心がける。
・直腸性(習慣性)便秘:
習慣的に便意をおさえたり、下剤・浣腸を乱用していることにより排便反射が減弱し、排便が起こりにくくなる。便は硬く、途切れがちである。朝食を十分にとり、繊維の多い食物や水分をとる。また、朝のトイレタイムに時間的ゆとりを持つように心がける。
・弛緩性便秘:
大腸の運動と緊張の低下により腸の内容物の通過が遅れ、水分が吸収されて便が硬くなる。老人や出産後の女性に多く、腹筋力の衰えで排便時に腹圧がかかりにくいことが考えられます。繊維の多い食物をとり、適度の運動を心がける。
・けいれん性便秘:
過敏性腸症候群に見られるものが多い。ストレス、自律神経の失調など自律神経のアンバランスによるもので、しばしば下痢と便秘が交互に起こることが多く、排便前の腹痛を伴う。下部大腸の運動・緊張の亢進のためにけいれん収縮が起こり、その部位の腸管が狭くなって腸内容物の通過が遅れ、水分が吸収されて便は兎の糞のようになる。
薬物治療効果は少なく、腸運動調整剤か抗コリン剤(臭化メペンゾラート)に塩類下剤を用いる。心因性の強い場合は、必要に応じて抗不安剤や抗うつ剤、自律神経調整剤などを併用する。
3.薬剤性便秘:
薬の服用により副作用として便秘が起こる。便秘の原因となる薬剤に、抗コリン作用剤(パーキンソン病治療剤、抗うつ剤など)、ガン疼痛に対する麻薬、制酸剤、カルシウム剤などがあるが、これらの服用を中止できない場合があるので、下剤を併用することになります。
<薬の種類とのみ方>
1.浸透圧性下剤
◆塩類下剤:酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム
器質性便秘、機能性便秘、食中毒、薬物中毒などの際の腸内有害物質の排除に使われる。
水溶性無機塩類は、腸管から吸収されにくく、浸透圧作用により腸管からの水分を吸収・保留し、腸内内容物を液状にするとともに腸の蠕動を促進する。大量の水とともに服用すると効果的で1~2時間で効き目が現れ、習慣性が少なく、長期間の使用ができる。腎障害がある場合は高マグネシウム血症を起こしやすい。副作用として、悪心、食欲不振、また長期服用により高マグネシウム血症を起こすと、だるさや力が抜けたような感じが起こることがある。
◆膨脹性下剤:カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)
直腸性便秘、弛緩性便秘、痔疾患患者に使われ、腸管内で水分を吸収して膨脹して内容物を増大して、大腸に刺激を与えて排便を起こさせる。12~24時間以内に効果が現れ、2~3日服用を続けると最も効果が現れる。そのため規則正しい排便ができるまで、服用し続けることが必要となる。消化管での吸収がなく、習慣性もないので長期投与ができる。また、便は軟便になって排泄されるため、排便痔の痛みが少なく痔の人にも使用できる。腸狭窄、重症の硬結便の人には禁忌。副作用として、悪心、嘔吐、腹部膨満感などが起こることがある。
◆糖類下剤:
非吸収性の糖類を服用することによって、浸透圧作用の下痢を起こさせまた、非吸収糖が腸内細菌によって変化をうけてガスを生じ、便を酸性化する。
●ラクツロース・・・肝硬変などの肝不全傾向のある便秘症に使われ、浸透圧作用により便を軟らかくし、また酸性化することによって腸内細菌によるアンモニアの発生を抑制する。副作用として、悪心、嘔吐、腹痛、鼓腸(腸にガスがたまって、ふくらんだ状態)、食欲不振が起こることがある。なお、水様便が出た場合はすぐに中止して、医師に申し出て下さい。
●D-ソルビトール・・・胃造影検査後の硫酸バリウムによる便秘を防ぐ目的で使われる。大量に服用すると腹痛、下痢、腹部膨満感、おならが出るなどの症状が起こることがある。
◆浸潤性下剤:ジオクチルソジウムスルホサクシネート(DDS)・カサンスラノール
直腸性便秘、弛緩性便秘、痔疾患患者に使われ、ジオクチルジソジウムスルホサクシネートの界面活性作用により、便の表面張力を低下させ水分を浸潤しやすくし、便を軟らかくする。さらに配合されたカサンスラノールの腸蠕動運動亢進作用により排便を起こさせる。1日1回、就寝前に大量の水とともに服用すれば、翌朝には無理なく排便ができる。腸狭窄、重症の硬結便の人、授乳中の婦人には禁忌。副作用として、口の渇き、悪疹、腹痛、腹部不快感、腹部膨満感、、お腹が鳴るなどの症状が起こることがある。また、発疹、じんま疹などの過敏症状が現れたら、すぐに中止して医師に申し出て下さい。服用中、尿が黄褐色~赤色になることがある。
2.刺激性下剤
腸壁を刺激して腸の弱った運動を活発にさせて排便を起こさせる。作用は比較的強いが、習慣性があり長期に用いると耐性が現れ、増量しないと効かなくなるので短期間の使用に限る。けいれん性便秘に使用するのは望ましくない。
◆小腸刺激剤:ヒマシ油
小腸でリシノール酸とグリセリンに分解され、その刺激により小腸の運動を活発にして、服用後2時間ほどで効果がある。そのため、食中毒、急性腸炎など早く体外から出したいときに使われる。けいれん性便秘、急性虫垂炎、腹膜炎の患者には禁忌。また、骨盤内の充血を起こすので、月経時、妊娠時に使用すると大量出血をする危険性がある。副作用として、発疹などの過敏症状、悪疹、嘔吐、腹痛などが起こることがあり、連用すると栄養の吸収を阻害して栄養不良を起こすことがある。
◆大腸刺激剤:
大腸粘膜を刺激して運動を起こさせ、排便を容易にする。服用後6~15時間かかって排便させるため、就寝前に服用する。連用により刺激性が低下し、増量が必要となるが、他の下剤との併用により長期投与が可能である。主に直腸性便秘、弛緩性便秘に使われる。
●アントラキノン誘導体・・・ダイオウ、センナ、アロエ
生薬に含有されている配糖体が、大腸を刺激して、蠕動を高め排便を促す。連用すると耐性が増し、薬に頼りがちになるので長期投与は避ける。急性虫垂炎、腸出血などの急性疾患、月経時、妊娠時、授乳婦、痔疾患のある場合は使用を避ける。また、アロエにおいては、妊娠中の投与により胎児が脱糞して、子宮内を汚染するので禁忌である。服用中、尿が褐色~赤色になることがある。
●ジフェニール誘導体・・・ピコスルファートナトリウム
症状に応じて服用量を調節できる液剤があり、習慣性が少なく妊婦や胎児への安全性がほぼ確立されている。
◆直腸刺激剤(坐薬):
●ビサコジル坐薬・・・直腸粘膜を直接刺激し、排便反射を起こさせる。急性虫垂炎、腸出血などの急性疾患、月経時、妊娠時、授乳婦、痔疾患のあるある場合は使用を避ける。
●炭酸水素ナトリウム配合坐薬・・・肛門から挿入後、体温で温められて、直腸内で炭酸ガスを徐々に発生しその刺激で排便を起こさせる。副作用として、軽度の刺激感、下腹部の痛みやまだ便が残っているよに感じることがある。
3.その他
◆副交感神経刺激剤:臭化ネオスチグミン
消化管機能低下による弛緩性便秘に使われる。
◆浣腸剤:グリセリン、薬用石鹸
腸管壁の水分を吸収することにより、局所をしげきし、便を軟らかく、潤滑化することによって排便を促進する。弛緩性便秘、直腸性便秘に使われ、直腸粘膜が刺激され、また習慣性になるのでできるだけ連用は避ける。妊婦には使用しない。
<日常生活の注意点>
1.規則正しい排便習慣:必ず朝食をとるようにし、その後排便する努力をする。
2.適度の運動:適度に体を動かすと腸の動きを促す効果があります。排便の際に使う腹筋を鍛える運動も便秘解消に役立ちます。
3.食事:穀物、芋類、果物、生野菜など食物繊維の多いものを食べるようにし、早朝の冷水、冷たい牛乳、ヨーグルト、冷果汁などを飲むようにしましょう。
ただし、けいれん性便秘の食事療法は、その他の便秘の食事療法とは別で、刺激の少ないもの、繊維の少ないものをとりしょう。