7.貧血(鉄欠乏性貧血)
<貧血とは>
貧血とは、血液中の赤血球の数が減少したり、赤血球の中に含まれているヘモグロビン(血色素)が減少した状態をいいます。ヘモグロビンは肺から各臓器や組織に酸素を運搬する働きをします。そのため、貧血の症状として、疲れやすい、手足が冷える、頭が痛い、注意力が散漫になる、耳鳴り、めまい、動悸、息切れなどが起こります。
貧血は、その原因によって次のような種類があります。
・鉄欠乏性貧血
体内の鉄が不足することによって、ヘモグロビンの産生が不十分になるために起こります。貧血のほとんどはこの鉄欠乏性貧血です。
・再生不良性貧血
血液をつくる骨髄の機能が低下し、赤血球が十分に作られなくなるために起こります。
・溶血性貧血
何らかの原因によって、産生された赤血球が通常の寿命(約120日)より早く壊れてしまうために起こります。
・巨赤芽球性貧血
葉酸、ビタミンB12の欠乏が主な原因で、赤血球の親である赤芽球の合成に障害が生じ、赤芽球が巨大化し、赤血球がうまく作られず貧血が起こります。また、巨赤芽球性貧血のうち、胃壁から分泌される内因子の欠乏によりビタミンB12の吸収が低下することから起こる貧血を悪性貧血といいます。
・腎性貧血
人工透析を受けている人や慢性腎不全、急性腎不全、ネフローゼ症候群などの腎疾患が原因で、腎臓から分泌される造血因子であるエリスロポエチンが減少し、赤血球の産生が低下することにより起こります。
・二次性貧血
別名続発性貧血、症候性貧血と呼ばれることもあります。主に、腎不全、慢性感染症(寄生虫感染症も含む)、膠原病、悪性腫瘍、肝疾患、内分泌疾患など、造血器疾患以外によって起こります。特に高齢者においては、二次性貧血の頻度が最も高く、貧血を初発症状として、陰に悪性腫瘍が潜んでいることがあります。
以上のうち、圧倒的に多いのは鉄欠乏性貧血です。ここではこの鉄欠乏性貧血について記載します。
<体内での鉄の利用>
ヘモグロビンの主成分は、鉄とたんぱく質です。1日に平均15~20MGの鉄を食べ物からとっているといわれています。胃に入った鉄は、胃酸で吸収されやすい形になって、十二指腸で1日わずか1MGしか吸収されません。この1MGが血液の成分として利用されたり、フェリチンというたんぱく質と結合して肝臓、脾臓に貯蔵鉄として蓄えられます。また、一方で腸粘膜や皮膚から垢として1日0.5~1MGが排出されます。
<なぜ、女性に多いのか>
女性は、月経により1カ月で約15~50MG(血液1MLに鉄0.5MGが含まれ、月平均44MLの血液量が失われる)の鉄が体外に排出されます。これを1日当たりに考えると、約0.5~1.5MGの鉄が失われることになります。先にあるように1日1MGの鉄を吸収して、皮膚や腸粘膜から0.5~1mgが排出、その上、月経で0.5~1.5MGが排出されるということから月経のある女性では、吸収量より排出量の方が多くなり、慢性的に鉄欠乏性状態になるわけです。毎月の月経で失われる鉄を補うには、女性は男性の2倍以上の鉄を摂る必要があるわけです。
また、妊娠したとき胎児の赤血球をつくるために、体が鉄を最低でも1日4MG必要とするといわれています。妊娠すると、胎児に優先的に鉄を運び、母体が鉄不足になっても胎児の鉄は確保されるようになっています。
<鉄を必要量摂取しているのに・・>
体内に取り入れられた鉄は、胃酸の働きで吸収されやすい形になりますが、胃腸に障害があったり、胃切除を受けている人では鉄の吸収が悪くなります。また、月経、胃・十二指腸潰瘍、ポリープ、痔などによる慢性的な出血も鉄排出量が増え、鉄不足の原因になります。
また、炭酸飲料を毎日飲んでいる人では、胃の中が炭酸類により酸性からアルカリ性に傾いている時間が長くなり、鉄の吸収不足になりがちです。
<薬の種類とのみ方>
◆鉄剤
内服の鉄剤には、徐放性と非徐放性のものがあります。これらの違いは副作用を防止する工夫の違いぐらいです。
●徐放性鉄剤:フマル酸第一鉄、硫酸鉄
胃から腸にかけてゆっくりと鉄を放出して、少しずつ吸収されるようになっているため、胃粘膜への刺激は少なく、空腹時にのむことができます。ただ、この製剤は胃酸がないと効果がないため、胃の切除を受けた人には使えません。
●非徐放性鉄剤:クエン酸第一鉄ナトリウム、溶性ピロリン酸第二鉄
胃を切除した人や胃酸の分泌が低下している高齢者、低酸症の人に吸収可能な薬剤です。
-副作用と注意-
・徐放性、非徐放性ともに主な副作用として、悪心、嘔吐、食欲不振、腹痛、下痢便秘などの胃腸障害です。
・鉄剤を服用すると便が黒くなることがありますが、心配はいりません。
・貧血が改善されたからといって、指示なしに勝手にのむのを止めたりしないで下さい。
<日常生活の注意点>
鉄欠乏性貧血を予防するには、食生活を改善することが大切です。
・食事は規則正しいくとる:朝、昼、晩の3食で体に必要な栄養素をとることが基本です。
・鉄の多い食品をとる:1日の鉄の所要量は男性及び閉経後の女性では10MG、成人女性では12MG、妊娠前期は15MG、妊娠後期及び授乳期では20MGとなっていますので、鉄を多く含む食品(レバー、海藻や緑黄色野菜、かき、あさりなど)を積極的にとりましょう。
・たんぱく質の多い食品をとる:ヘモグロビンをつくるには、鉄だけでなくたんぱく質も必要となります。良質のたんぱく質の多い食品としては、魚、肉類、牛乳、卵などがあります。
・ビタミンCを多くとる:ビタミンCは、鉄と一緒にとると、鉄の吸収をよくする働きがあります。
・酸味、香辛料などの刺激物も適量とる:酢、香辛料、梅干しなどは胃酸の分泌を高め、鉄の吸収を高めます。
・鉄の吸収を阻害する因子を取り除く:食事の前後にコーヒー、紅茶、緑茶などのタンニンを多く含む食品を控える。また、穀物、ぬか、食物繊維などの蓚酸、インスタント食品や加工食品に含まれるリン酸も鉄の吸収を抑制します。
・ビタミンB12、葉酸を多くとる:血液をつくるには、ビタミンB12や葉酸も欠かせません。ビタミンB12はレバー、貝類、卵黄、葉酸は、干した果物や緑黄色野菜などに多く含まれます。