17.痛風(高尿酸血症)
現在、日本では「痛風」の患者数は約60万人、予備軍は約500万人といわれ、30~50代の特に男性(男女比約20:1)に多いのが特徴です。女性に少ないのは、女性ホルモンが尿酸を体外へ排泄しやすくしているためで、女性ホルモンが減少する更年期以降に発生する場合が多いようです。
<痛風とは>
痛風は、「風が吹いただけでも痛む」と表現されるように足の親指の付け根に突然、激痛が走ることで始まり、1週間~10日間後には治まってしまいます。これは、「尿酸」という物質が体内に異常に蓄積し、急性の関節炎を起こす病気です。食べ物や体内組織に含まれるプリン体と呼ばれる成分が分解されて尿酸になり、通常は尿から排泄されますが、食べ過ぎや飲み過ぎなどにより血液中の尿酸濃度が高い状態が続くと、尿酸は血液中に溶けきれなくなり、結晶化して関節に沈着し、炎症を繰り返すことになります。
血液中の尿酸が7mg/dLを超えると「高尿酸血症」と診断されます。この状態をほおっておくと、個人差はありますが、5~10年ほどで痛風になり、腎臓の機能の低下(尿酸が腎臓に蓄積して腎不全を起こす)、 動脈硬化による脳出血、脳梗塞などの脳血管障害、心筋梗塞、狭心症などの虚血性心疾患、尿路結石が起きやすいなどの合併症を引き起こします。
痛風の発症部位
発作のほとんどが足の親指の付け根に起きますが、足首、膝などのどこの関節にも起こる可能性があります。その理由として考えられるのは、
①関節の部位はからだの中心より遠いので、体温も3~4度低い。体温が下がると尿酸が結晶化しやすい。
②足親指の関節に体重がかかるため、関節内で結晶ができやすく、また体重がかかることの刺激により沈着した尿酸塩が剥がれやすくなる。
また、長期間治療をせずに放置すると、体温の低い部分、例えば耳上半分に尿酸塩による痛風結節ができやすくなります。特に帽子をかぶる習慣のある人は、耳に痛風結節が起こりやすくなります。
<薬の種類と飲み方>
治療では、まず生活習慣の改善を行い、それでも尿酸値が十分に下がらない場合や発作が起こった場合に薬剤の服用を行います。
痛風の治療薬は大きく、発作時(発作の前兆がある時期と発作が起こっている時期)に服用する薬と痛風の原因となる尿酸値を下げる薬の2つに分けられます。
*発作予兆期(前兆期)
コルヒチン1錠(0.5mg)を予兆期あるいは発症後遅くとも2時間以内に服用する。
コルヒチンには、白血球の働きを抑える作用があるため、痛みや腫れを起こす白血球からの炎症物質が放出されないように働きます。ただし、あくまでも発作を抑える薬で、尿酸値を下げる働きはありません。
-副作用と注意-
副作用として最も多いのは、腹痛と下痢であり(特に大量服用した場合)、嘔吐、末梢神経炎などがみられることがあります。
妊婦は服用しない。また、父親が服用した場合、その配偶者からダウン症候群及びその他の先天異常児の出生が報告されているので、注意する。
*発作の極期
非ステロイド性鎮痛剤を短期間のみ比較的大量に投与して炎症の鎮静化を図ります。炎症作用の強い短時間作用型のジクロフェナムナトリウム、インドメタシンなどの比較的高用量が用いられます。
発作中は、歩き回らずに安静にし、患部を冷やすと痛みが和らぎます。
*発作軽快期
痛みが治まってきたら、非ステロイド性鎮痛剤の量を減らし、症状に応じて服用する。症状が治まったら服用を止める。
*寛解期
痛みは引いているので、非ステロイド性鎮痛剤は必要としませんが、尿酸値を下げる薬(尿酸排泄促進剤、尿酸生成抑制剤)で3~6ヵ月程をかけて徐々に尿酸値6mg/dL以下にコントロールしていきまので、きちんと服用を続けて下さい。
治療開始後尿酸値が安定する6ヵ月以内では、尿酸値の変動(急激な低下)により発作が起きやすくなります。
◆尿酸排泄促進剤:
腎臓に働きかけて尿酸の排泄量を増やし、尿酸値を下げます。
急性発作がおさまるまで、尿酸排泄促進剤の投与は開始せず、始めは少量を使い血中の尿酸値を測定しながら徐々に増量して行き、尿酸値が目標に達するようにします。普通は6ヵ月程かかりますので、その間もきちんとのみ続けることが必要です。
尿酸排泄促進剤を使用している場合は、尿酸をより多く排出させるため、飲む水の量を多くし、1日の尿量が1.5~2.0Lとなるように心がけて下さい。
●プロベネシド
尿酸の尿細管再吸収を抑制し、尿中への排泄を促進します。
-副作用と注意-
他剤(アスピリン、抗生剤など)との相互作用があるため、必ず併用している薬がある場合は医師・薬剤師に相談して下さい。
●ベンズブロマロン
関節炎発作がおさまってから使用します。また、尿をアルカリ性にする必要があるため、尿アルカリ化剤と併用して使われます。
-副作用と注意-
尿管結石の既往や腎障害のある人、妊婦及び妊娠の可能性のある人には使用できません。
6ヵ月以内に劇症肝炎が発症する場合があるため、この期間は、定期的に肝機能検査を受けるようにし、食欲不振、全身倦怠感、発熱、目や皮膚が黄変するなどの症状があらわれた場合は、服用を中止し、直ちに受診するようにして下さい。
他剤(アスピリン、ワーファリンなど)との相互作用があるため、必ず併用している薬がある場合は医師・薬剤師に相談して下さい。
◆尿アルカリ化剤:
尿をアルカリ側にします。尿のpHが5.5以下の酸性尿では尿酸は過飽和状態になり、尿酸結石が出来やすくなります。また、アルカリが強すぎてもリン酸塩が析出し、細菌が繁殖しやすくなるため、尿のpH6.0~7.0に調整する薬剤です。
●クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム
尿の酸性度を低下させます。
-副作用と注意-
散剤は、塩味が強いので、のみにくい場合は水などに溶かして服用して下さい。
◆尿酸生成抑制剤:
●アロプリノール
肝臓で、尿酸を生成する酵素の働きを抑えます。
急性発作がおさまるまで、投与を開始しない。鎮静化してから使用する。
-副作用と注意-
使用中は水分を多く摂り、尿量を1日2L以上とすることが望ましい。
投与から数日から数週間後に発熱、悪寒、頻脈、皮疹が起こることがまれにあるので注意する。
他剤(テォフィリン、ワーファリンなど)との相互作用があるため、必ず併用している薬がある場合は医師・薬剤師に相談して下さい。
<日常生活の注意点>
痛風(高尿酸血症)を予防するために、次のような点に注意しましょう。
1.肥満の解消:
痛風の人は、高血圧、高脂血症、肥満、糖尿病を合併していることが多いので、カロリーや塩分を控えるようにして下さい。
2.プリン体を摂りすぎない:プリン体として400mg/日を超えない。
極めて多い (300mg~) |
鶏レバー、マイワシ干物、イサキ白子、あんこう肝酒蒸し、カツオブシ、ニボシ、 干し椎茸 |
多い (200~300mg) |
豚レバー、牛レバー、カツオ、マイワシ、大正エビ、マアジ干物、サンマ干物 |
少ない (50~100mg) |
ウナギ、ワカサギ、豚ロース、豚バラ、牛肩ロース、牛肩バラ、牛タン、マトン、 ボンレスハム、プレスハム、ベーコン、ツミレ、ほうれんそう、カリフラワー |
極めて少ない (~50mg) |
コンビーフ、魚肉ソーセージ、かまぼこ、焼きちくわ、さつま揚げ、カズノコ、スジコ、 ウインナソーセージ、豆腐、牛乳、チーズ、バター、鶏卵、とうもろこし、じゃがいも、 さつまいも、米飯、パン、うどん、そば、果物、キャベツ、トマト、にんじん、大根、 白菜、ひじき、わかめ、こんぶ |
3.尿をアルカリ化する食品の摂取:
尿をアルカリ化する食品 | アルカリ度 酸性度 | 尿を酸性化する食品 |
ひじき、わかめ こんぶ、干し椎茸、大豆 ほうれんそう ごぼう、さつま芋 にんじん バナナ、さと芋 キャベツ、メロン 大根、かぶ、なす じゃが芋、グレープフルーツ |
高い ↑ | | | | | ↓ 低い |
卵、豚肉、サバ 牛乳、アオヤギ カツオ、ホタテ、 精白米、ブリ マグロ、サンマ アジ、カマス イワシ、カレイ アナゴ、芝エビ 大正エビ |
4.十分に水分を摂る:
尿中の尿酸濃度を低下させるために、1日2Lの尿量を確保しましょう。ただし、ビールなどのアルコール飲料やジュースなどの糖分含む飲料で摂らないようにして下さい。
5.アルコールを控える:
アルコールは肥満の原因にもなりますし、尿酸の生成促進、排泄を低下させます。特にビールはプリン体を多く含んでいるので要注意です。飲み過ぎないこと(日本酒1合、ビール500mL、ウイスキーダブル1杯)、飲まない日(週2日)をつくりましょう。
6.適度な運動:
激しい運動は体内水分を減らし尿酸濃度を濃くするため、マイペースでできる歩行やジョギングなど軽めの運動(有酸素運動)を続けるようにして下さい。運動の前後には、十分な水分の補給はは忘れずに。
7.ストレスの解消:
ストレスがあると発作が起こりやすくなります。また、ストレスが多いとアルコールを飲んだり、過食したり過度の運動をしたりと尿酸値を上昇させる要因を生み出します。
参考文献:高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第1版