22.熱中症
<熱中症(heat illness)とは>
熱中症とは熱に中る(あたる)という意味で、暑熱環境によって体温の調節機能が破綻するなどして体内の水分や塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れて生じる障害の総称をいいます。予防法を知っていれば、防ぐことができますが、早期対処しないと死に至る可能性のある病態です。
<熱中症による死亡発生状況>
厚生労働省の統計(人口動態統計)より、熱中症による死亡発生状況が報告されています。
①熱中症による死亡者数の推移
1968年から2006年までの39年間での熱中症による死亡数は5,847件(男3,607件、女2,240件)で、2006年では414件の死亡が発生している。
②年代別発生状況
39年間の男女年代別の発生状況をみると、男性では0~4歳、15~19歳、50~54歳および80歳を中心とするピークが見られ、女性では0~4歳および80~84歳を中心とするピークが見られます。65歳以上の発生数が死亡総数に占める割合は1995年は54%、2004年は69%、2006年は68%と近年増加傾向にある。
③場面別発生状況
男性の15~19歳ではスポーツ場面、30~59歳は労働場面、65歳以上は日常生活での発生が多いと考えられる。
<体温調節機構>
人の体温は、外界の温度変化にかかわらずほぼ37℃になるように調節されていますが、からだの部位によって、また年齢、生理的変動により温度が異なります。体表に近い部分は温度が低く(殻の部分)、深部は温度が高く(芯の部分)、殻の温度は環境温に左右されて変化しますが、芯の温度は変化しません。体温とは口腔、直腸、腋窩の温度の深部温のことを意味します。
この口腔、直腸、腋窩の温度の中では、直腸温が“外界の温度変化にかかわらずほぼ一定している”という体温の定義に最も近くなります。また、これらの測定部位には体温差があり、例えば腋窩温が36.9℃の時、口腔温は37.1℃、直腸温は37.6℃と、直腸温に比べて口腔、腋窩の温度は0.2~0.7℃ほど低くなります。しかし、実際に肛門に温度計を入れるのは大変なために、口腔や腋窩の温度を測定して体温としている場合が多くあります。
また、幼児、小児は成人に比べて体温が高く、高齢者では低くなります。2歳以上では体温は 1日のうちで早朝3~6時に最低で、午後3~6時に最高を示し、成人女性では月経周期に伴って黄体期に高く、卵胞期に低いという二相性のリズムがあります。運動、食後には体温が上昇します。
◆体熱の産生・放散
正常体温の時は、体熱の産生と放散が等しいので、一定の温度を保つことができます。体温に関する情報は視床下部の体温調節中枢へ伝えられ、設定温度(セットポイント)より体温が低ければ体熱の産生を刺激して放散を抑制し、反対に体温が高ければ、体熱の産生を抑制し放散を刺激して、皮膚血管を拡張し、発汗を促進します。
①体熱の産生
活動している組織からは必ず熱産生がある。寒冷環境下では不随意的に伸筋と屈筋が反復して収縮を起こすふるえ、あるいはふるえによらない熱産生(非ふるえ熱産生)によって皮膚血管を収縮し、立毛させる。
②体熱の放散
からだの表面からは熱が放散(輻射)され、周囲の温度が体温より低ければ、皮膚から熱は輻射、伝導、対流などの物理的機構によって外気に放散され体温の上昇を抑える。体表面からは常に水分が蒸発して、体熱を奪う(不感蒸泄)。高温環境下では汗腺から交感神経の働きにより、汗が分泌されて体熱を発散している。
◆小児の体温調節
幼児、小児は体温の支配神経である自律神経の働きが未発達で、体温1℃上昇当たりの発汗量(発汗率)は低く、暑さへの対応に時間がかかります。(環境条件により異なるが、通常成人100gの汗でおおむね1℃体温を低下させる)
① | 基礎代謝量 | 成人に比べ | 高い |
② | 体表面積 | 高い | |
③ | 発汗量 | 低い | |
④ | 血管調節反応 | 低い | |
朝山正己:「夏のトレーニング・ガイドブック」より |
◆高齢者の体温調節
高齢者では、体温の支配神経である自律神経機能や汗腺の機能が低下しており、暑さや喉の渇きを感じにくく、暑さへの対処や水分補給が遅れたりします。また、膝痛などの持病により動くことがおっくうになり涼しいところへ移動していなかったり、冷房使用を避ける、トイレの回数を気にして水分摂取を控えるなどの生活スタイルが影響してきます。
① 体内水分量 成人に比べ 減少 ② 感覚 鈍い ③ 発汗(汗腺)機能 低下 ④ 体温調節機能 低下
<熱中症発症のメカニズム>
◆熱中症を引き起こす条件
高温、多湿、風が弱い、輻射源(熱を産生するもの)があるなどの環境ではからだから外気への熱放散が減少し、汗の蒸発も不十分となります。心疾患、糖尿病、精神神経疾患、広範囲の皮膚疾患などのある人は体温調節機能が低下しており、飲酒や自律神経に作用する薬剤などにより脱水を招くおそれがあります。
気象条件も大きく影響し、1年間の真夏日(最高気温が30℃以上の日)の日数が多くなったり、熱帯夜(夜間の最低気温が25℃以上の日)の日数が多くなると熱中症死亡数が増えます。また、梅雨の合間に突然気温が上昇した日や梅雨明けの蒸し暑い日など、からだが暑さに慣れ(暑熱順化)ていない時に起こりやすくなります。
気温の高い日に散歩する場合には、身長の低い幼児は大人よりも地面に近く気温が高くなります。通常の気温は1.5mの高さで測定し、例えば32℃であった場合、50cmの高さでは35℃、更に5cmの高さでは36℃以上になっていたとの報告があります。
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◎環境温度時の測定方法
スポーツ活動や労働時の熱中予防の環境指標として、WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature;湿球黒球温度)が有効とされる。これは暑さ寒さに関係する環境因子(気温、湿度、輻射熱、気流)のうち気温、湿度、輻射熱の3因子を取り入れた指標で、乾球温度(気温)、湿球温度(湿度)、黒球温度(輻射熱)の値から次の式で計算する。
屋外で日射のある場合:
WBGT=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度
室内で日射のない場合:
WBGT=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度
◆熱中症発症のメカニズム
体温調節は熱産生と熱放散のバランスによります。一般に体温耐性範囲は、高温領域の方が狭く、体温が41℃を超えるとミトコンドリアの酵素活性が傷害され、さらには細胞死やタンパク変性が起こり死に至ることになります。
体温よりも気温が低ければ、皮膚から熱は輻射、伝導、対流などの物理的機構によって外気に放散され、体温の上昇を抑え、湿度が低ければ汗をかくことで熱が奪われ、体温調節ができています。
しかし、気温もしくは運動による熱産生が体温より高くなると、外気への熱放散だけでは難しくなり、水 1gが蒸発すると 0.585Kcalもの熱量を発散することができる温熱性発汗に頼らざるおえなくなってきます。ところが湿度も75%以上になると、汗をかいても流れ落ちるばかりで蒸発も不十分となり、発汗による体温調節もできなくなってしまいます。
また、体温が37℃を超えると皮膚の血管が拡張し、血流量を増やして熱を放散しようとしますが、更に体温が上昇し、発汗によりからだの水分量が極端に減少すると、反対に心臓や脳を守るために血管が収縮し始め、その結果、発汗量が抑えられ、熱放散が困難になっていきます。熱中症はこのように体温を調節する機能がコントロールを失い、体温が上昇してしまう機能障害といえます。
<熱中症の症状>
症状と重症度で分類すると下記の表にあらわされます。
分類 | 症状 | ||||||||||
Ⅰ度 |
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Ⅱ度 |
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Ⅲ度 |
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<熱中症の病型>
①熱失神
暑熱環境下では体温調節のために皮膚血管が拡張する。それによって血圧が低下し、脳血流が減少して起こるもので、めまい、失神などがみられる。脈は速く、弱くなり、顔面蒼白、呼吸回数の増加、唇のしびれなどがみられる。
長時間立っていたり、立ち上がった時、運動後に起こりやすい。
②熱疲労
大量の汗をかき、水分の補給が追いつかないと脱水が起こり、熱疲労の原因となる。症状は、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気などがみられ、汗から塩分も失われるため、水を飲んでも塩分が補給されないと脱水を回復することができない。
③熱けいれん
大量に汗をかくと水と塩分が失われ、汗の塩分濃度は血液の塩分濃度より低いため、血液の塩分濃度が高くなる。その状態に水だけしか補給しなかった場合、反対に血液の塩分濃度が低下して、足、腕、腹部の筋肉に痛みを伴ったけいれんが起こる。
④熱射病
高温環境下で激しい運動を行うと、運動により発生した熱が体表面から発散できず、体温が上昇し体温調節中枢神経に障害が起きる状態。熱射病は異常な体温の上昇(40℃以上)と意識障害(反応が鈍い、言動がおかしい、意識がない)、足がもつれる、ふらつく、転倒するなどを特徴とし、頭痛、吐き気、めまいなどの前駆症状やショック症状などがみられる。
脳、心臓、肺、肝臓、腎臓などの臓器障害を合併することが多く、死亡率が高い。
<熱中症の救急処置>
熱中症では、予防が大切ですが、暑い時には熱中症の兆候に注意し、体調がすぐれない場合は早めに休息をとるようにしましょう。各病型により処置法が異なる場合がありますが、意識障害と体温に注意して、少しでも意識障害ある場合は重症とみなして対処して下さい。
①熱失神、②熱疲労
涼しい場所に運び、衣服をゆるめて寝かせ、水分(0.2%食塩水またはスポーツドリンクなど)を補給すれば通常は回復する。足を高くし、手足を末梢から中心部に向けてマッサージするのも有効である。吐き気や嘔吐などで水分補給できない場合は、病院で点滴を受ける必要がある。
③熱けいれん
生理食塩水(0.9%)を補給すれば、通常は回復する。
④熱射病
死亡する可能性の高い緊急事態で、からだを冷やしながら、集中治療のできる病院へ一刻も早く運ぶ必要がある。皮膚を直接冷やすより、水をかけたり濡れタオルを当てて扇ぐなどして熱放散を促進し、頚部、腋下(脇の下)、鼠径部(足の付け根)など太い血管を氷やアイスパックで冷やすなどして、いかに早く体温を下げて意識を回復させるかが予後を左右する。また、近くに十分な水が見つからない場合は、水筒の水、スポーツドリンクや清涼飲料水などを口に含み、患者の全身に霧状に吹きかけることで、汗による気化熱の冷却と同じような効果をもたらす。これらの液体は冷たい必要はない。循環が悪い場合は、足を高くし、マッサージを行う。
主な原因 | 症状 | 処置法 | |
熱失神 | 暑熱環境下で皮膚血管が拡張し血圧が低下 | めまい、失神、脈は速く、弱くなり、顔面蒼白、呼吸回数の増加、唇のしびれ | 涼しい場所に運び、衣服をゆるめて寝かせ、水分(0.2%*食塩水またはスポーツドリンクなど)を補給 *1L中2g、または100mL中40~80mgの食塩 |
熱疲労 | 体内の水分や塩分不足による脱水症状 | 大量の汗をかき、皮膚は青白く、体温は正常化やや高め、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気 | |
熱けいれん | 水分を補給しないまたは水だけしか補給しなかった場合による血液の塩分濃度の低下 | 足、腕、腹部の筋肉に痛みを伴ったけいれん | 生理食塩水(0.9%)を補給 |
熱射病 | 運動により発生した熱が体表面から発散できず、体温が上昇し体温調節中枢神経に障害が起きる | 異常な体温の上昇(40℃以上)と意識障害(反応が鈍い、言動がおかしい、意識がない)、足がもつれる、ふらつく、転倒するなどを特徴とし、頭痛、吐き気、めまいなどの前駆症状やショック症状 | 極めて緊急に対処し、体を冷やしながら、集中治療のできる病院へ一刻も早く運ぶ |
<日常生活の予防・注意点>
熱中症は死に至る可能性のある病態ですが、予防法を知っていれば、防ぐことができます。
1.暑さを避ける:日陰を選ぶ、帽子や日傘などで直射日光を遮りましょう。
2.服装にも工夫:通気性や吸水性の良い速乾素材などを選びましょう。
3.こまめに水分を補給:体温を下げるためにも汗をかくことは重要です。汗は血液中の水分や塩分から産生されるため、失った水分や汗を補給する必要があります。アルコールやカフェインは尿の量を増やし体内の水分を排泄してしまい、かえって水分を失うことになるため、0.2%食塩水またはスポーツドリンクなどを補給しましょう。また、3~6%の糖分が加わればより吸収されやすくなります。
4.急に暑くなる日に注意:人がうまく発汗できるようになるためには慣れが必要です。高温環境に4~5日で約8割程慣れ、さらに3~4週間で慣れてくると汗に無駄な塩分を出さないようにホルモン(アルドステロン)が働き防御するようになります。
5.個人の条件を考慮:朝食を抜いた、寝不足、風邪などで発熱している、体調不良、脱水状態、肥満、暑さに弱い、高齢者、小児などの個人の環境によっても影響されます。
6.高齢者:特にこまめに水分をとるように努め、睡眠中の熱中症を避けるために寝る前にも水分をとりましょう。入浴はぬるめの湯で短時間、また暑さを感じにくくなるため部屋に温度計などを置き、窓を開けて風通しをよくして、高温環境下を避けましょう。
7.小児:成人に比べ体表面積が大きいことから周囲の熱を取り入れやすく、未発達な発汗機能によりわずかな時間でも熱失神が起こりやすくなります。
こまめに水分をとるように努め、涼しい環境下で十分な休息を与え、発熱を促進する服装や上着の着脱に気をつけましょう。
<運動時の予防・注意点>
運動時には筋肉で大量の熱が発生するため、それだけ熱中症の危険が高く、短時間の運動やそれ程気温が高くなくても、熱中症が発生します。
また、暑い所で無理に運動しても効果は上がりませんので、休憩は30分に1回程度とるようにし、運動の前後(間)に体重を測り、体重が減少したら同量以上の水分を摂るようにして下さい。
水分減少のサイン | ||
体重の | 2% | 強いのどの渇き |
4% | だるさ めまい 頭痛 | |
6% | 汗が止まる 体温上昇 |
急に暑くなる7月下旬から8月上旬に集中して熱中症が発生しています。これは暑さに慣れていないためで、急に暑くなったときは運動を軽くして、慣らしていきましょう。
◆スポーツ活動中の熱中症予防8ヶ条 日本体育協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」より
1. | 知って防ごう熱中症 | : | スポーツで主に問題となるのは熱疲労と熱射病です |
2. | あわてるな、されど急ごう救急処置 | : | 万一の緊急事態に備え、救急処置を知っておきましょう |
3. | 暑いとき、無理な運動は事故のもと | : | 環境条件に応じた運動、休息、水分補給をしましょう |
4. | 急な暑さは要注意 | : | 熱中症の事故は急に暑くなったときに多く発生します |
5. | 失った水と塩分取り戻そう | : | 塩分が不足すると熱疲労からの回復が遅れますので、0.1~0.2%程度の食塩水を補給しましょう |
6. | 体重で知ろう健康と汗の量 | : | 運動による体重減少が2%を超えないように水分を補給しましょう |
7. | 薄着ルックでさわやかに | : | 暑いときには軽装にし、素材も吸湿性や通気性の良いものにしましょう |
8. | 体調不良は事故のもと | : | 体調が悪いと体温調節能力も低下し、熱中症につながります |
◆熱中症予防のための運動指針 日本体育協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」より
この指針は、熱中症予防8ヶ条をふまえたうえで、実際にどの程度の環境温度でどのように運動したらよいかを具体的に示したものです。環境温度の設定はWBGT(湿球黒球温度)で行っていますが、現場では測定できない場合が多いと思われるため、おおよそ相当する湿球温度、乾球温度も示してあります。
環境省では、WBGTの予測値及び東京、新潟、名古屋、大阪、福岡の気象台においてモニタリングしたWBGT速報値などを国立環境研究所のホームページから提供している。
http://www.nies.go.jp/health/HeatStroke/index.html
※ WBGT(湿球黒球温度)の算出方法
屋外:WBGT=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度
屋内:WBGT=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度
※ 環境条件の評価はWBGTが望ましい。
※ 湿球温度は気温が高いと過小評価される場合もあり、湿球温度を用いる場合には乾球温度も参考にする。
※ 乾球温度を用いる場合には、湿度に注意。湿度が高ければ、1ランクきびしい環境条件への注意が必要。
◆運動時の水分補給
競技30分前までに環境温度が乾球温度で28℃までであれば250mL、28℃以上の時は500mL程度の水を摂り、競技中には汗の量の50~80%を補給することが原則です。乾球温度で28℃以下では1時間に500mL、28℃以上では1時間に1000mLを2~5回に分けて摂取しましょう。
日本体育協会の実験によると、できるだけ飲水休憩をとり、自由飲水をすすめることにより発汗量の80%の補給が可能とされています。
〔参考〕
運動強度 | 水分摂取の目安 | |||
運動の種類 | 運動強度 (最大強度の%) |
持続時間 | 競技前 | 競技中 |
トラック競技 バスケット サッカーなど |
75~100% | 1時間以内 | 250~500mL | 500~1000mL |
マラソン 野球など |
50~90% | 1~3時間 | 250~500mL | 500~1000mL/1時間 |
ウルトラマラソン トライアスロンなど |
50~70% | 3時間以上 | 250~500mL | 500~1000mL/1時間 必ず塩分を補給 |
注意
1. 環境条件によって変化しますが、発汗による体重減少の70~80%の補給を目標とします。 気温の高い時には15~20分ごとに飲水休憩をとることによって、体重の上昇が 抑えられます。1回200~250mlの水分を1時間に2~4回に分けて補給してください。 2. 水の温度は5~15℃が望ましいです。 3. 食塩(0.1~0.2%)と糖分を含んだものが有効です。運動量が多いほど糖分を増やしてエネルギーを 補給しましょう。特に1時間以上の運動をする場合には、4~8%程度の糖分を含んだものが疲労の予防に役立ちます。
<対処法>
◆一般・現場で
熱中症を疑った(めまい、失神、大量の発熱、筋肉の硬直など)時には、緊急に対処しなくてはいけません。重症の場合(<熱中症の症状>参照)は救急隊を呼ぶことはもとより、現場で直ぐにからだを冷やし始めなければなりません。
①涼しい環境へ避難・・・風通しの良い日陰やクーラーが効いている室内などに避難させる
②脱衣・・・衣服を脱がせて、からだから熱の放散を助ける
③冷却・・・氷嚢や氷枕で頸部、腋窩(腋の下)、鼠径部(大腿の付け根)に置き、体表面に近い動脈血管を冷やす
④水分・塩分の補給・・・冷たい飲み物は胃の表面で熱を奪うため有効。0.2%食塩水またはスポーツドリンクなどを補給
ただし吐く、吐き気のある場合は胃腸の動きが鈍っているため経口で水分を摂るのは禁物
*日本体育協会ではスポーツ活動時の水分補給に適した飲料として「ポカリスエット」、「アミノバリュー」、「エネルゲン」を推奨している。
日本体育協会 推奨品・関連グッズ等: http://www.japan-sports.or.jp/about/goods.html
⑤医療機関へ運ぶ・・・水分の摂取ができない場合は、救急で医療機関へ運搬することが最優先。その際は発症時の状態を伝える
◆医療機関から
・OS-1(オーエスワン・大塚製薬工業):厚生労働省許可・特別用途食品 個別評価型・病者用食品* (OS-1パンフレットより)
「オーエスワン」は、WHO(世界保健機関)の提唱する経口補水療法(Oral Rehydration Therapy;ORT)の考えに基づいた飲料(経口補水液)で、その電解質の組成はORTを発展させた米国小児科学会の指針に基づいています。
経口補水液(Oral Rehydration Solution;ORS)は、水分と電解質をすばやく補給できるようにナトリウムとブドウ糖の濃度が調製されており、ナトリウムとブドウ糖を一緒に摂取すると小腸粘膜に存在する共輸送体により同時に吸収され、水分の吸収が促進されます。WHOはじめ欧米でORTに関するガイドラインが策定され、軽度から中等度の脱水状態の水分・電解質補給に使用されています。
乳幼児から高齢者の軽度から中等度の脱水状態時の経口補水液として、そしゃく・えん下困難な場合(オーエスワンゼリー)にも適しています。
エネルギー | 10kcal | ナトリウム | 115mg(5mEq) | マグネシウム | 2.4mg |
---|---|---|---|---|---|
タンパク質 | 0g | ブドウ糖 | 1.8g | リン | 6.2g |
脂質 | 0g | カリウム | 78mg(2mEq) | ||
炭水化物 | 2.5g | 塩素 | 177mg(5mEq) |
摂取上の注意
・下記の1日当たり目安量を参考に脱水状態に合わせて適宜増減してお飲み下さい。
学童~成人:500~1000mL(g)/日
(高齢者を含む)
幼 児:300~600mL(g)/日
乳 児:体重1kg当たり30~50mL(g)/日
・医師から脱水状態時の食事療法として指示された場合に限り、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士の指導に従ってお飲み下さい。
・食事療法の素材として適するものであって、多く飲用することによって原疾患が治癒するものではありません。
大塚製薬工場: http://www.otsuka-plus1.com/product/medicalfoods/os1/entrance.html
* 特別用途食品 個別評価型・病者用食品
特別用途食品のうち特定の疾病のための食事療法上の期待できる効果の根拠が医学的、栄養学的に明らかにされている食品として厚生労働省が認可した食品です。
・経口補水向け飲料やスポーツ飲料の成分 (朝日新聞 2008.06.08より)
ナトリウム濃度* | 糖分濃度(%) | ||
WHOガイドライン | 1 | 1.35 | |
病者用食品 | OS-1 | 0.67 | 2.5 |
一般飲料 | アクアライトORS | 0.47 | 3.5 |
アクアソリタ | 0.47 | 2.3 | |
ポカリスエット | 0.28 | 6.7 | |
ピーンスタークー ポカリスエット(乳幼児用) |
0.28 | 4.1 |
◆病院での治療
全身の冷却、脱水に対する水分や塩分の補給(点滴)が直ちに行われます。
・体表面からの冷却
深部体温を38.5℃まで冷却することを目標に
①氷嚢や氷枕・・・頸部、腋窩(腋の下)、鼠径部(大腿の付け根)に置き、体表面に近い動脈血管を冷やす
②冷却マット・・・冷水を通したブランケットを敷いたり掛けたりしする
③蒸泄法・・・体表面にアルコールを塗ったり水を浸したガーゼをからだに載せ、送風する
④ウォームエアスプレー法・・・全身に微温熱または室温水を霧状の水滴として拭きつけ、送風する
・からだの内部から冷却
①胃や膀胱に挿入した管を用いて、冷却水(生理食塩水)で胃壁、膀胱壁を流れる血管を冷やす
②体外循環法・・・人工心肺装置で血液を体外に導いて冷やし、体内に戻す
〔参考〕
河田光博、樋口 隆:シンプル解剖生理学,p172,南江堂,2004
横田裕行:高齢者は要注意 熱中症,きょうの健康,第232号 7月号 88-91,NHK出版,2007
中野昭一:Q&A「運動時に必要な水分補給についておしえてください。」,治療 Vol.88 No.61,800-1802,2006
川井 真:夏は要注意 熱中症の対策,きょうの健康,第244号 7月号 62-65,NHK出版,2008
長谷川榮一:体温,新・医学ユーモア事典,340-342,ミクス,2002
OS-1(オーエスワン):製品パンフレット,大塚製薬工業
日本体育協会:「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」
http://www.japan-sports.or.jp/medicine/guidebook1.html
環境省:熱中症環境保健マニュアル(2008年6月改訂版)
http://www.env.go.jp/chemi/heat_stroke/manual.html
環境省:環境省熱中症予防情報サイト
http://www.nies.go.jp/health/HeatStroke/
大塚製薬:熱中症を予防しよう
http://www.otsuka.co.jp/health/heatdisorder/
日本スポーツ振興センター:「熱中症を予防しよう -知って防ごう熱中症-」
http://www.naash.go.jp/kenko/kankou/nettyusyo.html
日本赤十字社:応急手当-熱中症
http://www.jrc.or.jp/safety/other/fever.html